原作最終形態以上に進化したデビルガンダム相手に、基本1対1の試合で勝ち目なんかあるはずない。
ミケロ、チャップマン、シュバルツ不在、DGが大暴れ。
そして原作でドモンに向けられていたガンダムたちとウォンの敵意と悪意は全部、ヒノカミ自身の意向によりデビルガンダムに向かっています。
ついに始まったガンダムファイト本戦。
観客たちの注目の的はやはり、ネオホンコン代表として参加したデビルガンダムと、そのファイターである正体不明の鬼鎧の男の強さだった。
本戦での全勝宣言までしてみせたのだから相対するファイターたちの戦意も並外れており、誰もが『吠え面をかかせてやる』と意気込んでいた。
そして、全て力でねじ伏せられた。
しかもファイターたちはただ敗れたのではない。
デビルガンダムとヒノカミは対戦相手の戦い方に合わせ、彼らの全力を引き出して、その上で圧倒的な勝利を収め続けた。
おそらくウォン首相に働きかけたのだろうがデビルガンダムは常に、対戦相手のガンダムが得意とするステージで試合が行われた。
チャリオットに乗るゼウスガンダムが相手の場合は平坦で遮蔽物のない荒野であり。
水上を得意とするバイキングガンダム戦、水中を得意とするマーメイドガンダム戦では陸地の一つもない海。
他国のガンダムと手を組んで2対2のタッグマッチという変則バトルもあったが、デビルガンダムのみ単機で出場し、1対2という明らかな不利を背負って戦った。
そして一度もまともな傷さえ負うこともなく相手を降していった。
デビルガンダム以外にも好成績で勝ち続けるガンダムもいるにはいる。
ネオアメリカ、ネオフランス、ネオチャイナ、ネオロシア、そしてネオジャパンのガンダムファイターたち。
彼らの強さもまた他の国のガンダムと比較して頭一つ抜けており、彼ら同士のファイトはいずれも歴史に残る名勝負と誰もが称賛を送った。
だがそんな彼らでもデビルガンダムには敵わない。
本戦最後の試合、互いに全勝同士のネオジャパンのゴッドガンダムとの戦いには、敵対する他国のファイターすらドモン・カッシュを応援するという有様だったが、それでもデビルガンダムには届かなかった。
しかしこの戦いで、デビルガンダムは初めて大きなダメージを負った。
……そしてデビルガンダムの自己再生能力が明らかとなったのだ。
桁外れの強度とパワー、飛行能力、炎やビーム攻撃を湾曲・吸収するというだけでも反則染みていたのに、再生能力まで持っているガンダム。
そしてパイロットであるヒノカミのファイターとしての実力も最上位。
間違いなく、前回優勝者であるクーロンガンダムと東方不敗を上回る最強と最強の組み合わせ。
大言壮語ではなかった。彼の全勝宣言は意気込みでもなんでもない、ただの確定した未来でしかなかった。
ファイターたちは『己惚れていたのは己の方だった』と痛感し、しかし優勝を諦めるわけにはいかず、最終決戦であるランタオ島でのバトルロイヤルに一縷の望みを託し備えていた。
先んじて彼らの実力を知っていたドモンたちは、彼らに共感しつつ内心で一つ訂正する。
……アレは『彼』でなく『彼女』である。信じがたいことに。
――――……
「ヒノカミさん」
「ウォン……?」
関係者以外立ち入り禁止、ネオホンコンのデビルガンダムの格納庫にて機体を前に佇むヒノカミの元に、ウォンが一人でやって来た。
他の人の姿はなく、ヒノカミも今は鎧姿ではない。
「ついに決勝ですからねぇ……激励をと思いまして」
「くけけけけ。案ずるな。儂もこ奴も万全じゃ。
ネオホンコンの勝利のために全力を尽くすとも」
「えぇ、えぇ。そうですね、アナタは嘘をつかない。
二心なく全力で勝利のために戦って下さるでしょう。ですが……」
そこでウォンは一度区切り、少しだけ顎を引いてサングラスの上から直接瞳を覗かせヒノカミを睨みつける。
「『自分が敗北しかねない状況』を作り出そうとするのは、不誠実ではありませんか?」
「…………」
ウォンはとっくに彼女の考えに気付いていた。
あまりにも強すぎるデビルガンダムとヒノカミ。
その力を示せばガンダムファイトの存続が怪しくなってしまう。それは何としても避けたい。
しかし力を隠そうとしても武闘家たちは拳を合わせれば気付いてしまう。彼女自身も手を抜くのは苦手なので確実にその強大な力を感じ取ってしまう。
だから彼女は自分が追い詰められるほどの劣勢を作り出し『デビルガンダムは決して倒せぬ存在ではない』『最強の存在はいても無敵の存在はいない』と知らしめようとしている。
そのために開会式にて他国のファイターを過剰に挑発し、決勝バトルロイヤルにて『デビルガンダム対ガンダム連合』の構図となる流れを作り出した。
実際に水面下で多くの国が他国との交渉に奔走し、実際にいくつかの国がバトルロイヤルにてデビルガンダム撃破を成し遂げるまで休戦協定を結んでいることも把握している。
事情を知る新生シャッフル同盟の面々も、格の違いを理解しているからこそ力を合わせて挑むことも仕方ないと考えている。
「ですが、流石のアナタも彼ら全員を相手にしては確実に勝てる保証はない。
だから『全力を尽くす』とは言ったが『勝利する』と断言はしなかった。違いますか?」
「……」
ヒノカミは完全に押し黙ってしまった。
ドモンたちは既に先代シャッフル同盟に匹敵する実力を得ている。彼ら5機だけが相手でも敗北する確率は0ではない。
そこに他国のガンダム全ても加わるとあれば、勝率はおそらく半分を切る。
ドモンたちに劣るとはいえ彼らも決勝まで勝ち残ったガンダムファイター。決して弱者ではないのだから。
故にヒノカミの行いはウォンとネオホンコンの住民たちへの明確な裏切りと言われても否定はできない。
「……やり方が間違っているんですよ。アナタは」
「ぬ?」
ウォンはそこで力を抜いて肩をすくめた。
「そんな方法では勝とうが負けようが、やはりデビルガンダムの圧倒的強さが知れ渡るだけ。
1国が他の国全てと互角というだけで、すでにまともな大会とは言えないでしょう?
ガンダムファイトの存続が危うくなる可能性は十分にある」
「……うむ」
「仮にガンダムファイトが続いたとしても、次の大会では各国が最初から手を組んでネオホンコンを集中攻撃してくることになる。
そうなれば流石のアナタでも勝てる保証はなく、優勝できたとしても今度こそガンダムファイトの意義が問われる。
アナタではなく東方先生が参加したとしても同様だ。
……私はね、強欲なんですよ。
一度や二度の栄光で満足できるほどできた人間ではないのでね」
そして彼はこの場に持ち込んでいたトランクを突き出した。
「アナタには……」
…………
「……儂にそれをやれというのか!?」
「えぇそうです。よい案でしょう?
これならばアナタの全力をひけらかすまでもなく、確実に勝利することができる」
「貴様!どこまでガンダムファイトを穢せば気が済む!!」
「何をおっしゃる。これのどこが不正だと言うのです?
各国が結託して1国を集中攻撃しようという状況の方が異常でしょう?
であればこの程度の策は許容されてしかるべきだ」
「っ……だが!」
「それに穢れるのはガンダムファイトではない。
アナタだけだ。アナタだけが汚れ役を担えば全てが丸く収まる」
「…………っ」
「さて、どうします?他に良い案がおありですか?
……でなければこの要求、聞き入れていただく」
「…………わかった」
彼らの謀略をデビルガンダムだけが静かに聞いていた。