・ヒノカミが勝利を目指すと、例え勝率が低くても最終的に勝つ。
・例え苦戦して見せても全ガンダム相手に勝てる時点で十分にバランスブレイカー。
・もう一度ネオホンコンが覇権を取るのでウォンがただの悪党のままだと不味い。
これらの条件を混ぜ合わせてこねくり回した結果、こんなひどい流れができました。
「な、なんだあの小娘は!?
鎧の中はキョウジではなかったのか!?」
モニター一杯に映し出された可憐な少女を見て、参加国の中でも一際大きく動揺するネオジャパンのスタッフたち。
中でもレインは掌で口元を抑え、沈痛な面持ちで彼女を見つめる。
ヒノカミは老化しない体質だという。
年を取らないというのは全ての女性の憧れだろう。かく言うレインですらそれを知った当初は嫉妬したものだ。
ちなみに彼女の成長が止まったのは20歳らしい。
実年齢は秘密にされたままだが、肉体年齢なら彼女はレインと同い年だ。
(最低でも20歳……20歳で……あんなっ……!)
改めてモニターの向こう、無理やり着せられたであろう衣装で泣きながら奮闘するヒノカミを見る。
はっきり言って、とんでもなく似合っている。
だが似合っているから良いというわけではない。
レインも今日に至るまでいろいろな格好をしてきた記憶はある。
中にはかなり際どい姿もあった。ファイティングスーツとか。
だが『アレを着ろ』と言われたら断固として拒絶する。
セクシーとキュートは別物なのだ。
バターン
「!?」
「ブラボーくん!?どうした!?」
突然音を立てて倒れた白銀のコートの男にカラト委員長やスタッフらが駆け寄る。
レインも医者として余計な思考を中断し急いで向かう。
当初は不審者扱いを受けていたが、とんでもなく高い技術者としての技量と、短気で気難しいドモンを諫めて仲立ちをしてくれる彼の存在は大きく、今となってはカラトからも全幅の信頼を寄せられるネオジャパン陣営に無くてはならない存在となっていた。
「……いけない!呼吸困難に陥っているわ!
酸素吸入器を持ってきて!」
「は、はい!」
レインは他のスタッフに速やかに指示する。
彼が倒れた原因もまたヒノカミである。
恩人であるヒノカミを気遣って必死に笑いを堪えようとしたが、噴き出すまいと息を止めすぎてついに限界を迎えてしまったようだ。
「持ってきました!」
「ありがとう!……ごめんなさい!」
呼吸器を押し当てようとすれば流石に彼の顔を晒さないわけにはいかず、レインは謝罪を叫びながら彼の帽子を取り襟を開いた。
「なっ……キョウジ・カッシュ!?」
「事情は後ほど説明します。
カラト委員長は他のスタッフに指示し、引き続き試合のモニタリングを」
「う……うむ……」
――――……
「いやぁ、予想通り。
いえ、これは予想以上と言うべきですかねぇ。
……大丈夫ですか?東方先生」
「ゲホッ、ゴホッ、ぐ、ぐぅ……ガハッ!!」
「そうしているとアナタもただの老人にしか見えませんねぇ」
まるで血を吐くかのような勢いで咳き込み蹲る東方不敗を、ウォンはサングラス越しに一瞥するがすぐに視線をモニターに戻した。
既にこの部屋を映すカメラは停止しており、彼らの様子は中継されていない。
「き、貴様……ゲホッ、アレは一体、どういうつもりだ!」
「見ての通りなのですが……まぁいいでしょう。ご説明いたしますよ」
ヒノカミの体格は小柄で起伏に乏しく、とんでもない筋力を持っているのに肉体は筋肉質でなく手足は細い。
治癒の炎などという能力があるせいか傷跡どころか肌荒れすら一切ない。
更に雰囲気や振る舞いが幼く、口調や奇行で忘れがちだが顔を含めた容姿が非常に整っている。
なのでああいった少女らしい格好をしてしまうと、本当に少女にしか見えなくなるのだ。内面や実年齢はさておき。
対して他のガンダムファイターたちは、一部の例外を除いて全員が成人男性。
加えてどいつもこいつも筋肉モリモリのマッチョマン。強面の割合もかなり高い。
「そんな連中が結託して、一斉に少女に襲い掛かる……傍から見たら事案ですよねぇ」
これは国家の威信をかけたガンダムファイトだ。
人種も性別も年齢も関係ない。だがあまりに醜聞が悪すぎる。
高潔な武人であるほど戸惑い、彼女への攻撃を躊躇してしまう。
「だがだからと言って……姿で惑わそうなどと!
各国からの顰蹙を買うぞ!?」
「服装に関する規定はガンダムファイトにはないでしょう?
それに見た目で言えば……ネオケニア辺りも結構ギリギリじゃありません?」
「……ぬぅ」
ガンダムゼブラのパイロットのファイティングスーツは、半ばシマウマの着ぐるみなのだ。
むさいおっさんの頭の上にシマウマの頭が生えているのである。
仮に戦闘中継でモニターにアップで表示されたら耐え切れず噴き出すという確信がある。本人は大真面目だったとしても。
「先ほど言った通り、すでに全員が一度デビルガンダムに大敗しているんです。
文句を言う者が出たら1対1での再戦を提案してやればよい。すぐに拳を引っ込めるでしょう。
……それに鬼の鎧で姿を隠し続けるのも批判がありましたからね。
人間ではなくアンドロイドではないかという難癖もありましたし。
なので鎧を外して戦う姿と鎧を外した状態での実力も、どこかで見せておく必要があったんですよ」
格闘技とは本来ショービジネスだ。
見て楽しみお金を落とす観客がいて始めて成り立つ。
故に演出は重要であり可能な限りニーズに応えるのは運営の義務。
ウォンに言わせれば東方不敗ら武闘家はその程度のこともわからない馬鹿ばかり。
対してヒノカミは現実を良く理解している。
必要だと判断すれば泥を被る覚悟も持っている。
「ですが恥ずかしいことに変わりはないので、速やかに試合を終わらせるために全力で戦ってくれる。
そして他のファイターたちが本気で戦えない状況なのは観衆たちにも一目瞭然。
よってほとんどの人間は彼女らの真の実力を推し量れず、ガンダムファイトを覆す存在だと気付かない。実に合理的でしょう?
尤も、笑いすぎて動けないシャッフルの方々を後回しにしている辺り、冷徹にはなりきれていないようですが」
一番の強敵である彼らもようやく立ち直ったようだが万全とは言い難く、すでに他のガンダムは全滅している。
対してデビルガンダムは未だ万全。傷は全て再生しており、パイロットのヒノカミはまさに鬼気迫る様相。鎧がなくとも。
もはや結果は見えたようなものだ。
「しかし……良い眺めですねぇ……」
圧倒的上位者が己の掌の上で踊る様を見て、ウォンは口角を吊り上げ不気味に嗤う。
およそ4年前に東方不敗が連れてきたヒノカミと対面した時、ウォンは内心で激怒した。
超人的肉体、明晰な頭脳、超常の力の数々、そして何より不老。
彼女はウォンが望む全てを持っていた。
彼は嫉妬し、彼女の力を手に入れようと暗躍した。
そして一蹴された。
しかし『突如押しかけて来た自分をネオホンコンに受け入れてくれた恩があるから』と、一度は見逃された。
どうあっても自分が敵う相手ではなく、どうやっても自分が力を手に入れることはできない相手だと思い知らされた。
それからしばらくはひたすら媚びを売り下手に出て、彼女の不興を買わないように怯えて奔走する毎日だった。
だが観察を続ける内に、彼女はとても不器用で不自由な存在なのだとわかった。
その気になれば世界を支配できる力を持っているくせに、くだらない矜持を掲げ自ら柵に囚われている。
だから歪めてやりたくなった。
あの手この手で彼女を振り回し、弄ぶことに全力を尽くすようになった。
世界を支配できる者を操ったところで、世界を支配したことにはならない。
対応を間違え地雷を踏み抜けば命はない。
しかしこのスリルと優越感がたまらない。
「くくく……ふふふふふ……!」
そして今回は文句無しの大成功だ。
世界中にヤツの恥を晒すことができた。
ウォンは悦に浸り、東方不敗の驚愕の視線さえも気に留めていなかった。
(まさか此奴……
東方不敗は初めてウォンという男に恐怖を抱き、隔たりを感じて一歩後ずさる。
相いれぬ二人が腹を割って話す機会など、これからも訪れることはないだろう。
まぁそれでも問題はない。
ウォンは東方不敗からどう思われているかなどどうでも良く、東方不敗の推測は誤解とも言い切れないので。
根本が、気になる女子にちょっかいをかける男子中学生と大差ないし。
つまるところ……ウォンはデビルガンダムの前にヒノカミの力を手に入れようとして暗躍し失敗、その後どこで歪んだのか愉悦部に入部しました。