『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第19話

 

「う……うぅ……レイン……!?」

 

「お父さま!」

 

数分後、意識を取り戻したミカムラ博士は自分の顔を覗き込む娘に気付き、次いで周囲を見渡す。

 

「……カッシュ……!」

 

「ミカムラ……」

 

己が貶めた親友の姿を目にした途端、ミカムラ博士は震えながら涙を流し始めた。

 

「すまない……すまなかった……!

 私は、取り返しのつかないことを……!」

 

「ふざけるな!貴様今更……!」

 

「落ち着けドモン。

 ミカムラ……何があった?」

 

「頼む……ウルベを、デビルガンダムを止めてくれ……!」

 

「「「!?」」」

 

 

促され、ミカムラ博士は絞り出すかのように語り始めた。

 

友人ではあったが己の遥か先を行くライゾウに、彼はずっと鬱屈した感情を抱えていた。

そして彼が開発したアルティメットガンダムを見た瞬間、ついにミカムラ博士の嫉妬心が爆発した。

ウルベの口車に乗り、結託してライゾウ博士を貶め、アルティメットガンダムを手に入れようとした。

結局デビルガンダムは手に入らずウルベは失脚してしまったが、十分なサンプルを手に入れることができた。

 

デビルガンダムから切り離されその場に残された下半身だ。

 

確かにウルベは軍の私物化と越権行為により拘束、投獄されたが、彼を監視する警察組織にすら彼の手は伸びていた。

事件以降も彼は裏で暗躍を続けており、回収したデビルガンダムのサンプルの解析と、新たなデビルガンダムの製造をミカムラ博士に命じていた。

 

そして博士は嬉々として、寝食を惜しんで研究に没頭していた。

しかし彼がたどり着いたのは『これは自分の、いや人類の手に余る』という結論だった。

もはやミカムラ博士に残されたのは、くだらない嫉妬にかられ友を裏切ったという後悔だけ。

だから彼はデビルガンダムの研究結果を示して計画の実行は不可能であると告げ、『全てを白状し自首しよう』とウルベに促した。

 

しかしウルベは聞き入れなかった。

ミカムラ博士からどうにもならないと聞かされてもデビルガンダムの力を手に入れることに固執した。

そして彼はデビルガンダムの下半身に別の機体を埋め込むことで新たなデビルガンダムを産み出そうとした。

 

「別の機体……!?まさか!」

 

「そうだ……ゴッドガンダムと入れ替えで本国へと返還された、シャイニングガンダムだ……!」

 

彼らは与り知らぬことだったが、シャイニングガンダムは事件当時にUG細胞の侵食による機体の修復を経験している。

加えて元が同型の兄弟機だったこともあり、二つは問題なく適合してしまった。

 

そして生まれた新たなデビルガンダムは即座に暴走し、目の前にいたウルベを生体ユニットとして取り込み、周囲の人や物を手当たり次第に侵食し始めた。

もはや自分ではどうすることもできないと悟ったミカムラ博士は、取り込まれる直前に自身が開発したライジングガンダムに乗り込み、助けを求めて地球へと脱出した。

 

 

「あのままではネオジャパンコロニーそのものが飲み込まれ、デビルガンダムとなってしまう……!

 そしていずれは地球や他の国々も……!」

 

「なんということを……!」

 

「私が言えたことではないとわかっている!

 私にできることならなんでもする!いかなる罰も受けよう!

 だからどうか……どうか!」

 

人目も憚らず、ドモンに土下座し懇願するミカムラ博士。

彼は母の仇の片割れだ。しかし幼い頃から家族ぐるみで付き合ってきた気のいいおじさんでもあった。

 

「ドモン・カッシュ、私からも頼む!

 ネオジャパンと、国民たちを救ってくれ!!」

 

続いてカラトにも頭を下げられ、ドモンは大きくため息を吐いた。

 

「……ミカムラ博士、アンタのためじゃない。

 ネオジャパンと……レインのためだ」

 

「ドモン……!」

 

自分の父が罪を犯したという事実に彼女はずっと苦しんでいた。

今日までずっと公私共に自分を支えてくれたパートナーに、これ以上の重荷を背負わせたくはない。

 

「ブッドキャリアーの準備を!」

 

「わかったわ!」

 

ドモンはレインにサブフライトシステムの準備を命じてガンダムに乗り込もうと動き出す。

 

 

 

「おいおいアニキ、そいつはちょっと水臭いんじゃないの~?」

 

しかし4人のファイターに呼び止められた。

 

「世界の危機を見過ごすことはできませんよ。

 騎士として……シャッフルの紋章を継ぐ者として」

 

「ガンダムファイト決勝は、不完全燃焼だったからな……!」

 

「丁度いい機会だ。オレたち皆の、最後のバカ騒ぎといこうじゃねぇか」

 

「お前たち……!」

 

ファイターたちの決意に彼らのサポーターも同意し、4機のガンダムはネオロシアの船で宇宙へと運ぶことになった。さらに。

 

「デビルガンダムなら単独で大気圏を突破できる。

 ……もう1機ぐらいなら後ろに載せられるが?」

 

「……フッ。ミカムラ博士!ライジングガンダムを借りるぞ!」

 

「ヒノカミ!?兄さん!?」

 

「ウルベにデビルガンダムのサンプルを与えてしまったのは、私の失態でもあるからな……」

 

「散々関わってきたんじゃ。最後まで関わりぬくさ」

 

(ーー!)

 

「……行こう!」

 

コクピットハッチを開きパイロットを受け入れるデビルガンダムを見上げ、ミカムラ博士の心にまたわずかに黒い感情が蘇ってきた。

 

「……本戦でのデビルガンダムの戦闘は、私も中継で見ていた。

 素晴らしい活躍だった……やはり私は、お前には勝てなかった……」

 

地べたに座ったままのミカムラは隣に立つライゾウに視線を向けることなく呟くが、同じくライゾウも彼を見ることなく呟く。

 

「……ミカムラ。私がシャイニングガンダムを評した時のことを覚えているか?」

 

「?……忘れるはずもない。

 パイロットの感情に左右される、スーパーモードの欠点を……」

 

「そうだ。乗り手を選ぶ機体を作るのはお前らしくない。

 お前が真価を発揮するのは、乗り手を選ばぬ機体を作る時だと……そう言いたかった」

 

「……どういう意味だ?」

 

確かにライゾウはデビルガンダムを作り出しはしたが、あっという間に彼の手を離れてしまった。

ガンダムファイト本戦でメカニックに名乗り出てはみたものの、彼はただ機体を観察することしかできなかった。

そして何より、あの機体はヒノカミにしか乗りこなせないものになってしまった。

……特定の人物にしか使えない機体など、兵器としてはどうしようもない欠陥品だ。

 

対して、あのライジングガンダムはどうだ。

誰が搭乗しても高性能を発揮できる、まさに傑作機。

何よりファイターどころか一般人ですら十分に動かすことができるのだと、他ならぬミカムラ博士が実証して見せたではないか。

あれこそが兵器としてのモビルファイターの究極系。

デビルガンダムとは異なる、もう一つの到達点だ。

 

「私はデビルガンダムを作ることはできたが、ライジングガンダムは作れなかった。

 ……私もまた、お前の才能に嫉妬していたよ。

 私もお前のような天才に負けたくなかったのだ」

 

「な……!?」

 

「私の作るものは使う側のことを全く考えていない歪な機体ばかりだった。

 ……もう少し人の気持ちを理解しろと、妻にも散々叱られたものだ」

 

「……は……ははは……、なんだそれは……?」

 

「『隣の芝生は青く見える』とはよく言ったものではないか。

 ……共に見届けよう、我らの未来を」

 

ライゾウ博士がミカムラ博士に手を差し伸べ、彼の手を掴み立ち上がらせる。

二人の天才が揃って見上げる先で、キョウジを乗せたライジングガンダムが、デビルガンダムと共に空へと飛翔していく。

 

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