予定よりも早くA組が到着し時間に余裕ができたが、彼らに余力があるわけではない。
なのに当人たちはやる気に満ち溢れているのでこのまま次の訓練に移ると、頑張りすぎて体を壊してしまうかもしれない。
相澤はそう判断し、本格的な訓練は明日からと伝えた上で今回の合宿の目的や目標の説明を行う。
雄英が彼らに課した目標は『今年度中の仮免の取得』。
例年なら2年次に受験させるが、敵連合という具体的な脅威が出現し、これからも奴らに触発された悪意が噴き出すと予測されている。
仮免がなければ個性の使用に許可が必要なため自己判断で抗うことすらできない。
生徒たちにも自衛の手段が必要。そして今年度の1年は特に優秀な者が多いので1年早い取得に踏み切った。
そのために必要なのが基礎能力の向上。
生徒たちは成長しているがそれは技術面や精神面での話で、個性そのものはあまり伸びていない。
よってこの合宿にて個性をひたすらに酷使し、限界を突破する『個性伸ばし』を行う。
「……という予定だったが、一部生徒及び希望者はさらに一歩進む。
個性伸ばしと並行して『必殺技』を考案する『圧縮訓練』を行う」
相澤が指定した参加対象者はすでに個性が十分に成長している轟、爆豪、緑谷。
そして実力不足と見なされている赤点の5人だ。
「ただし希望者の志願の受付は明後日からだ。
まずは明日の個性伸ばし訓練を体験してもらう。
その上で志願があれば、我々が当人たちの状態を鑑みて判断する。
正直に言えば、あまり増やすとこちらの人数では対応しきれんからな」
「今日だけはゆっくりするといい。
昼食がなかったから食堂に軽食を用意してある。夕食まで歓談し英気を養っておけ。
ただし赤点の者は講義を受けながらとする。
その者らの分の食事は補習室に運んであるので、このまま儂についてこい」
講義内容は期末試験の結果を受けてのヒノカミからの新たな戦法の提案だ。
本来なら当人たちの気づきを待つべきだが、自分が気づいたことくらいは伝えておきたいからと時間を取ってもらった。
「食事しながらで構わんから、耳だけ傾けてくれ。
切島。己の個性をもっと攻撃にも生かせ。
お主の主義には反するじゃろうが、拳より貫手の方が威力が高い。
同じ力なら面より点。常人なら指を痛めるが硬化のお主ならその心配がない。
お主が深々と楔を撃ち込めば砂藤の追撃でより多くの障害を破壊できたであろう。
盾だけではなく矛も持て。状況に応じて使い分けよ」
「ウス」
「砂藤。個性の使いどころもだが体の動かし方そのものにまだ無駄がある。
尾白に相談し武術を学んでみよ。基礎を修めるだけでお主の力も持続時間も大幅に伸びるであろう。
理想は攻撃する瞬間にのみ個性を発動すること。
中国武術に『発勁』というものがあるので機会があれば目を通しておけ」
「オッス」
「上鳴。砂藤以上に無駄が多い。
範囲を小さくしたり、遠くに届かせたり、瞬間的に高威力を叩きこむ技術を身につけよ。
個性の習熟での対応が難しいなら何らかのサポートアイテムを検討せい。
八百万に相談して候補をいくつか作ってもらいながらこれぞというものを探せ。
いっそ自身をバッテリーと割り切り、大量の電力が必要な武器を持ち歩くというのもありじゃな」
「ウェイ」
「芦戸。酸の種類を増やせ。
粘性を上げたり、純度を高めたり。わずかな違いでできることが大きく変わる。
色々と試して酸の特性を理解していけ。
後は可能なら遠距離攻撃じゃな。
校長の操る鉄球、わずかでも鎖を溶かせていたなら自重で落ちていたはず。
お主は攻撃の射程が狭いわりに、他の連中ほど接近戦に強いわけでもない。
遠距離が無理ならより接近戦に特化するでも良い。何らかの強みを持て」
「はぁーい」
「瀬呂。テープを作るだけなら八百万で事足りる。
しかしお主ほど迅速に、大量のテープを作り出すことはできぬ。
お主の強みは機動力や拘束能力だけではない。
大量の使い捨ての罠を瞬時に作り出せることにある。それを生かせる知恵を学べ。
あらかじめ備えておけば、ミッドナイトの動きを大きく制限することができていたはずじゃ」
「了解です」
「良いか、お主たちは皆より遅れているかもしれんが、劣っているわけではない。
わずかな気づきさえあれば大きく伸びる。
明日からの個性伸ばし、ただ酷使するだけでなく己の個性に何ができるかも模索せよ」
「「「はい!!」」」
その後も彼らは自分たちの試験での振る舞いだけでなく、自分たち以外の試験についても意見を交わした。
夕食でクラスメイトたちに合流した彼らがヒノカミの講義内容を伝えると、『ぜひ自分にもアドバイスが欲しい』という生徒たちが続けてやってきた。
しかし彼らもまだまだ疲れがあったので明日以降にと伝えた。そして彼らは入浴後に気を失うように眠ってしまった。
なお、風呂は露天の温泉であり男女の間には敷居があるだけ。
よって性欲の権化である峰田のみ教師やプッシーキャッツと同じ時間に入浴するよう厳命されていた。
「うっうっうっ……なんでオイラだけ……」
「……背中、流してやろうか?」
「アンタのパワーだと優しさが物理的に痛そうなんだよブラキン先生!」
「ねこねこねこ!しょうねーん、覗きたいなら覗いていいよー?覗けるもんならねー!にゃははは!」
「あ、結構です」
「どういう意味じゃゴルァ!!」
年上でも美女なので峰田的にはOKだが、生徒を狙うどう猛な肉食獣と聞けば話は別。
万が一にも捕食され人生の墓場に引きずり込まれてはたまらないと距離を取った。
妙なところで自意識が高いのがこの峰田という男。
プッシーキャッツにも相手を選ぶ権利はある。
ちょっと蛇足気味な内容ですが、主人公が先生しているところと、生徒とのギクシャクがこのくらいまで改善していることを伝えたくて入れました。
ブラキン先生は優しい先生です。