コロニーも地球も関係なく、世界中の人間がその戦いを見ていた。
モニター越しに、あるいは直接その眼で。
何しろコロニーサイズの巨体同士が地球圏のすぐ近くで殴り合いをしているのだ。
地上やコロニーからでも肉眼で視認できる。
ウォンがガンダムファイト運営委員会に命じ地球を覆うビームポストを起動していなければ拳と拳がぶつかり合う衝撃で地上に甚大な被害が出ていたかもしれない。
「……虚しいな、ウルベ」
しかし戦いの激しさと反して、拳を振るうドモンとファイターたちの心はこの上なく冷え切っていた。
コロニーの中で戦った時は、デビルガンダムが爆発しないようまともに攻撃することさえできなかった。
だが今こうして巨大なガンダム同士で拳をぶつけ合い、ようやく理解した。
「コイツの拳には何もない……何も詰まっていない……!」
前回大会である第12回ガンダムファイトにて、ウルベはネオジャパン代表のファイターであったという。
真っ当とは言えずとも武闘家であったはずだ。
そして武闘家ならば相手がどんな悪党でも、拳を交えれば流れてくる感情があった。
だが目の前の相手からは、何も感じない。
『確かにとんでもない力だ。……だが、それだけだ』
『怒りの感情はあるのでしょう。しかし肝心の怒りの理由がない。
それでは原因を取り除くことも発散することもできない。
風船のようにただ無駄に膨らみ続け、やがて破裂するのみ』
『ガキの癇癪の方がまだ理解できるぜ……コイツからは生きるという意志すら感じねぇ』
『……もう終わらせてやろうぜ、アニキ』
「……あぁ」
母を殺した仇だ。
父と兄を貶めた悪だ。
自分を騙し利用しようとした外道だ。
だが彼を目の前にしたドモンの心は凪のように静かだった。
「だぁぁぁああっ!!」
殴り飛ばして、殴り飛ばして、巨大アルティメットガンダムがデビルガンダムコロニーごと地球圏から離れていく。
「まだだ、まだ近すぎる!……チボデー!」
『OK!ボクサーモード!』
一時的にアルティメットガンダムの操作権がガンダムマックスターに移る。
アルティメットガンダムの両肩のサブアームが展開し、メインアームを覆うように重なって巨大なグラブとなる。
『豪ぉぉぉ熱!マシンガァン、パァンチ!!』
一度に放たれる10の拳の衝撃がデビルガンダムコロニーを大きく遠ざけた。
『コイツも喰らっとけぇ!』
『ゆけっ!ローゼスビットォ!!』
開いた両肩の装甲の中から伸びたいくつものガンダムヘッドが絡み合い、ドラゴンヘッドとなって炎を吐き出す。
続けて背中のフジツボ型の突起からバラを模した遠隔射撃兵装を射出、高熱の炎とビームの嵐によりデビルガンダムコロニーの装甲が融解し亀裂が走る。
『ぬぉぉぉおおおお!グラビトンッ!ハンマァーーーーーッ!!!』
ボクサーモードを構成していた両腕のグラブを機体から分離させて二つを合体させ、鉄球へと変化させる。
掌から伸ばしたビームの鎖を繋げて振り回し、デビルガンダムコロニーの胴体に勢いよく叩きつけた。
直後鉄球が爆発し、敵を更に大きく吹き飛ばす。
『GYAHA!GYAHAHAHA……!』
『周辺にコロニー他施設無し!地球圏から十分に離れたぞ!!』
『行け!ドモン!』
『『『『『ドモン・カッシュ!!!』』』』』
「……あぁ!」
巨大アルティメットガンダムの全身が金色に輝き、胸にキング・オブ・ハートの紋章が浮かぶ。
『全機、モーションをゴッドガンダムに合わせよ!見よう見まねで構わん!
アルティメットガンダムの動きを、極限までゴッドガンダムにシンクロさせるんじゃ!』
「オレたちの全てを……この一撃に!!」
『『『『『おう!』』』』』
「はぁぁぁ……流派!」
『『『『『東方不敗がぁ!』』』』』
クーロンガンダムが。
新旧シャッフル同盟が。
ライジングガンダムが。
ノーベルガンダムが。
アルティメットガンダムが。
全てのガンダムがコクピットの中で金色に輝いている。
「最終ぅ……!」
『『『『『奥義ぃ……!』』』』』
そして全てのガンダムが、ファイターが、両手を広げて胸の前に構えた。
武闘家でないレインやライゾウ博士やミカムラ博士、ネオジャパンから回収したシェルターの中の住民たちすらも強く祈りを捧げていた。
「石!」
『『『『『破!』』』』』
「『『『『『天驚けぇぇぇぇん!!!!!』』』』』」
突き出したアルティメットガンダムの両腕から溢れ出した巨大な、デビルガンダムコロニーよりも巨大な光の奔流。
『GYAHA!GYAHAHAHAHAHA!』
光は目の前にある全てを呑み込み、押し流し、どこまでも真っすぐに伸びていく。
「さらばだウルベ!そして眠ってくれ……シャイニングガンダム!」
『HAHA!HYAHAHA……HA……』
「ヒィート……エンドォ!!」
光が炸裂し晴れた後、アルティメットガンダムの前には何も無かった。
ただその遥か向こうにある大きな光が、太陽がその巨体と地球を照らしていた。
「……終わったな」
『あぁ、そうだ。お前が終わらせたんだ』
『ありがとう……頑張ったな、ドモン』
『よろしい。それでこそキング・オブ・ハートよ』
「兄さん……父さん、師匠……!」
『さぁドモンよ!勝鬨を上げよ!!』
「……邪悪なデビルガンダムは消滅した!
オレたちの……地球と人類の勝利だ!!」
『『『『『うぉぉぉおおおおーーーーーっ!!!!!』』』』』
巨大アルティメットガンダムの中で大合唱が響き渡る。
拳を突き上げたその雄姿を通じて、彼らの勝利が地球とコロニーにも届いただろう。
(ーー)
『拗ねるな拗ねるな……紛らわしいのはお主がデビルガンダムを自称したからじゃろ?
やっぱりアルティメットガンダムに戻さんか?』
(ーー、ーー)
『……ライゾウ博士。『名前が長い』とさ』
『……ハハハハ!それはしまったな!
やはり私は人の気持ちを察するのが苦手なようだ!』
『創造主に反抗するなど、お前の作るものは兵器としては失敗作だな。
だが親としては……やはり羨ましいよ』
『お父さまったら……』
『やれやれ、しかし問題は山積みだな。
国民たちは無事とは言えネオジャパンコロニーが無くなってしまうとは。
……そうだ!シェルターはどうなっている!?
あくまで緊急時の一時的な避難施設だぞ!?エネルギーはまだあるのか!?』
『あぁ、この機体の中に避難させただけでシェルターからだけはエネルギーを持っていっておらん。
……んむ、かなり目減りしておるがまだ問題なく動いておる。
アルティメットガンダム、シェルターの維持にエネルギーを回してやってくれ』
(ーー……)
『……は?あっ!?はぁぁっ!?』
「オイ、どうした!?」
『この機体のエネルギー……もう欠片も残っとらんって……』
『『『『『……なんだとぉぉぉおおおおっ!!!』』』』』
『こ、このままではネオジャパンの国民たちが!』
『オイオイ!折角必死に助けたってのにそりゃねぇだろ!?』
『……というかこのままでは我々も危ないのでは!?』
『『『『『……ぁぁあああああっ!!!』』』』』
『誰か!エネルギーに余剰がある機体はないか!?』
『全員スッカラカンに決まってんじゃん!』
『急いで他国への救援要請を!』
『駄目です!各国コロニーから距離が離れすぎています!
通信を送りましたが、今からエネルギー補給艦を手配しても到着には4時間はかかると!』
『ヒ、ヒノカミ!シェルターのエネルギーはどのくらい持ちそうなんだ!?』
『せ、節約しても2時間……!儂一人からどれだけ絞り出してもまかないきれんぞ!?』
「何か……何か方法はないか!?」
(ーーーー!)
『っ、そうかその手が!!』
『『『『『!?』』』』』
『……要請が通った!すぐに動いてくれるそうじゃ!!』
「何か妙案があったのか!?」
『一体どのような手段なのだ!?』
『いやぁ、ネオアメリカの方々の話が早くて助かったわい』
『オレの故郷!?』
『んむ。今すぐこちらに向かって……』
『自由の女神砲をぶっ放してくれるそうじゃ』
『『『『『………………は?』』』』』
『……っ!ネオアメリカコロニーに超高熱反応!』
『お、もうか』
『……いやいやいやいやぁぁあああああっ!!!』
『逃げろぉぉお!!』
『動け!動け!……動かねぇぇぇえええええ!!』
『死ぬぅぅぅううううううっ!!!』
『大丈夫じゃって、ちゃんと吸収するから。ちと揺れるだけじゃから』
『ふざけんなぁ!!』
『おのれヒノカミぃ!』
『アンタってそんな奴だったの!?』
『何が『リングの天使』だこの鬼悪魔ぁぁああ!』
『誰じゃ儂にそんな名をつけたヤツはぁ!?』
(……ウォンであろうな)
『自由の女神砲、発射されました!!
本機到達まで、3……2……1……!』
『『『『『ギィヤァァァァアアアアアアア!!!!!!』』』』』
次回、外伝3最終回となります。