『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第3話 人でなしの目

 

ロックベル家にエルリック兄弟を連れ帰ったヒノカミは、二人を寝かしつけてウィンリィも退席させてから、リビングでピナコたち3人に全てを話した。

彼らがしたことを、失敗だったことを、彼らが受けた仕打ちを。

 

「しばらくはこの家に住まわせてやってくれ。

 トラウマになっとるはずじゃ。大人が傍にいてやった方がいい」

 

「勿論だ……あの子たちを助けてくれてありがとう」

 

「情けないね。長年見て来たつもりだったが、アタシはあの子らがここまで思い詰めてるなんて気づきもしなかった。

 ……しかしまさかアンタも錬金術師だったとはね」

 

「?あぁいや、儂は錬金術師ではないぞ?」

 

「……はぁ?」

 

来訪時にピナコに説明したとおり、ヒノカミは医者であり技師である。

錬金術師とは名乗っていないし名乗れない。

しかし彼女はエルリック兄弟の人体錬成を察知して家から飛び出し、真理の扉にまで殴りこんでリバウンドで失われた彼らの肉体を取り戻している。

 

「そこまでやっといて『錬金術師じゃない』だって?

 じゃあアンタは一体なんなんだい?」

 

「いや、錬金術は使えるが使えるだけというか、そもそも使う必要がないというか。

 ん-ー……話すのはあの子らが落ち着いてからな」

 

「アラ、いいの?」

 

「真理の奴が口を滑らせおってな。

 その内エドが追及してくるじゃろ」

 

「なんだい、アンタたちは事情を知ってんのかい」

 

「イシュヴァールでね。フフフ、きっとビックリするわよ!」

 

「そんな面白い話ではないぞ……?」

 

 

翌朝エルリック兄弟にロックベルの家で暮らすことを提案したところ、予想通り彼らは拒絶しなかった。

取り返しのつかぬ事態に陥らずに済んだものの、初めての大きな挫折と死に瀕する経験は幼い子供らにはよほど堪えたのだろう。

以後はいつも上の空で元気が無くて、毎晩のようにうなされていた。

時間が彼らを癒してくれるのを待つしかないと、大人たちは判断していた。

 

しかし世界は彼らを放っておいてはくれなかった。

 

 

 

わう!わう!

 

「あら、デンが吠えてる。お客さんかしら?」

 

「……ユーリとサラはエドたちのところへ」

 

続いて家の扉が何度も力強く叩かれる。

ヒノカミは向かおうとしたピナコたちを下げ、代わりに扉の前に立ち少しだけ開いた。

 

「軍人さんが突然なんのようじゃ」

 

「ここにエルリック兄弟がいると聞いた」

 

扉の隙間から見えたのは、軍服を着た黒髪の青年。

『焔の錬金術師』ロイ・マスタング。

イシュヴァールの内乱で多くの人民を焼き殺した国家錬金術師だ。

鎧姿でないから気付かぬだろうが、ヒノカミも彼と戦場で相対し戦ったことがある。

 

「お引き取りを。今の彼らは余所者に構ってやれる余裕はない」

 

「彼らの家に行った」

 

そこでヒノカミは顔を歪め露骨に舌打ちをする。

玄関のカギは閉めておいたが、裏口や勝手口が開いていたのかもしれない。

知人しかいない田舎町だからと戸締り確認を怠ったのは失敗だった。

そしていずれ現実に向き合った彼らが自分の手で片付けるべきと考えていたので、遺体は燃やしたが錬成陣や血痕などはそのままだ。

 

「なんだあの有様は……彼らは一体何を作った!」

 

人体錬成は禁忌だ。

この国の法律でも厳格に禁じられている。

行ったのが子供だからと、軍人が見逃すはずがない。

 

口封じをするのは簡単だ。

隣の部下はただの人間で、『焔』の錬金術師ではどうやったってヒノカミには敵わない。

だが彼がエルリック兄弟を訪ねてこの地に訪れることはあらかじめ誰かに話しているだろうし、彼はこの件を利用して子供らを脅迫してくるような人間ではないだろう。

そこまでの外道ではないと判断したからこそ、ヒノカミはイシュヴァールで彼を見逃した。

 

「話は儂ら大人が伺おう。それでよければ、中へ」

 

「……そもそも、誰だキミは。アメストリス人ではあるまい?」

 

「儂はヒノカミ。あの子らの……保護者の一人かの」

 

 

 

客間に案内されたロイ・マスタングと、彼の部下であるリザ・ホークアイ。

二人は小さな机を挟んでヒノカミ、ピナコ、ユーリ、サラの4人と向かい合う。

 

「私はリゼンブールに錬金術に長けた兄弟がいると聞いてやってきました。

 ……まさか11歳の子供だとは思いもしませんでしたが」

 

書類では31歳と言うことになっていたらしい。

イシュヴァールの内乱での犠牲者は多く、今の東方司令部は深刻な人手不足。

中佐という高い地位にいる軍人がわざわざこんな田舎まで出てきて勧誘せねばならないほどだ。

記載ミスの一つや二つ、あってもおかしくないだろう。

直前でそのことに気付いたマスタングは、しかしここまで来たのだから一応はエルリック兄弟の顔を見ておくことにした。

 

そして彼らの家で人体錬成の痕跡を見つけた。

 

「……で、彼らを国家錬金術師に勧誘したいと?」

 

「エルリック家に残された錬成陣と人体錬成の資料を見て、確信しました。

 彼らなら国家資格を取れるだけの力がある」

 

高額な研究費用の支給。

特殊文献の閲覧。

様々な特権が得られる。

引き換えに、軍の要請には絶対服従となる。

『錬金術は大衆のためにあれ』という教えと真っ向から対立する存在だからこそ、彼らは『軍の狗』と呼ばれ蔑まれることもある。

 

「ふざけないで!あなたたちはエドとアルまで『あんな戦場』に……!」

 

「サラ、決めるのは当人たちじゃ。

 ……あい分かった。用向きは必ず子供らに伝えよう」

 

「……その気があれば、イーストシティの司令部へ足を運ぶようお伝えください」

 

マスタングはヒノカミに書状を渡して、脚早に家を出て行った。

 

 

 

「……よろしかったのですか?」

 

「あの夫妻か?」

 

帰路の途中、ホークアイがマスタングへと尋ねる。

イシュヴァールの内乱で大損害を受けた軍司令部は、批判の矛先を未だに探し続けている。

イシュヴァール人の治療を行い、戦後痕跡も残さず姿を消したというアメストリス人の医者夫婦も、当然その対象だ。

経歴と反応から先ほどのロックベル夫妻である可能性が非常に高い。

追及すれば言質を取ることもできただろう。

忠実な部下は、手柄を欲する上司が彼らに釘をさすどころか言及すらせず見逃したことを訝しんだ。

 

「……なぁ、あの内乱では私もキミも、ひどい目をしていたよな?」

 

「……えぇ。『人殺しの目』、でしたね」

 

「そうだ。そしてあの異人の娘の目をどう思った?」

 

「?彼女もかつての私たちと同じ目をしていたと?」

 

「そんな生易しいものじゃない。あの目は……」

 

 

 

「『人でなしの目』だ」

 




正確にはマスタングが見たヒノカミの目は、『人でなしを見る時の目』です。
相手が『人でなし』だと見なすと、彼女は文字通り相手を『人として扱いません』。
この眼を向けられると燃やされる一歩手前なんですが、マスタングは彼女の危険性に気付いて自制したので辛うじてセーフとなりました。

ヒノカミは治安維持が主体である警察には友好的ですが、軍隊に対してはかなり厳しめです。
理由がどうあれ、軍人は自分の意思で武器を取り、他人の命令に従って人を殺すわけですから、彼女のスタンスと絶対に相容れないためです。
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