『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第49話

入浴を終え部屋に戻った生徒たちが眠気で次々と力尽き、教師たちがヒーロー兼性犯罪者候補生を監視しながら入浴している頃、ヒノカミは彼女の私室に一人でやって来たラグドールと対面していた。

 

「儂に聞きたいことか……それは雄英の襲撃対策についてか?

 お主に隠し通すのは無理じゃったな」

 

「それは見ただけで察したから聞かなくていいにゃん。

 あちきが聞きたいのは……あなたの体のことだよ、ヒノカミ」

 

「……」

 

「全身ボロボロ弱点だらけ。病院から抜け出していい体じゃないにゃん。

 それに以前会ったときは個性を使ってなかったからわからなかったけど、今日はしっかり見たから気づけたよ。

 ……どういうこと?個性が複数あるなんて……」

 

ラグドールの個性は『サーチ』。

直接目視した相手の情報、居場所や弱点などを把握する個性。

彼女の個性がどこまでこちらの情報を見抜くことができるかは知らないが、敵の襲撃を控えた今は秘匿に拘り不和を招くわけにはいかない。

OFAとAFOのことは説明を避けられそうだが、彼女が持つOMTは明かさねばならないだろうと判断した。

プッシーキャッツの仲間たちにも秘密にと重々念を押し、ヒノカミは自分の正体を明かす。

 

「二度の生まれ変わり……!?ありえるの……!?」

 

「証明する方法はない。信じてもらうしかないの」

 

「……でもだとしたら筋が通るにゃ。だからあなたは……」

 

――……

 

「……なんじゃと?」

 

ラグドールの話を聞いたヒノカミは少し迷った後に目を閉じ精神を集中。

両手を大きく広げ、自分の正面で勢いよく叩きつける。

 

「……くっくっく」

 

「ど、どうしたにゃん?」

 

「なぁに、自分の間抜けさに呆れておったのよ。

 40を前にして、今更……」

 

何かに気づいたらしいヒノカミは困惑するラグドールを放置して俯き、両手で顔を隠した。

そしてひとしきり笑った後、唐突に切り出す。

 

「……頼みがある。明日からの生徒らの訓練中にじゃが……」

 

ヒノカミからの考えを聞いたラグドールは止めたが、彼女は勝手に無茶をするつもりらしい。要望そのものはラグドールにとって大した労苦ではなかったので、彼女はしぶしぶそれを引き受けた。

 

そして翌日。

相澤が死ぬほどつらいと評する『個性伸ばし』訓練が始まる。

プッシーキャッツの4名が各々の個性を使いヒーロー科全員同時に過酷なシゴキを行う。

そんな中。

 

「飯田、歩幅を縮めて走れ!

 最高速を上げるだけでなく小回りを利かせる方法も身に着けよ!

 足腰に過大な負担がかかるがこれは訓練、むしろ都合が良い!

 木々の隙間を速度を落とさず駆け抜けてみせい!」

 

「麗日、固定観念を捨てよ!

 直接触れたものしか浮かせられんのはお主の思い込みじゃ!

 お主は人に触れれば身に着けている衣服も浮かせておる!

 対象に繋がる全てを一つとして認識し個性の適用範囲を拡大させい!」

 

「八百万!どうでも良い物を作るな!

 ただの小物や複雑なだけの機械など実戦で使うことはなかろうが!

 どんな状況でも役立つ物、使用頻度の高い物を優先して創造し、実戦でそれらの生成時間を短縮することを目指せ!」

 

「常闇!黒影(ダークシャドウ)の攻撃や防御の反動がお主に伝わっておらぬことの意味にいい加減気づけ!

 放てば獣、纏えば鎧、踏めば足場となるのが貴様の個性よ!

 肉体と影は本来一つであろうが!」

 

ヒノカミがそれぞれの生徒に近寄っては、掌を叩いた音で注意を引き、檄を飛ばす。

戦い方や個性の使い方は生徒たち自身で気づくのを待つのが雄英の教育方針だが、彼女にはその時間がない。

言っていることは間違っていないし、雄英側が気づいていなかった事実もある。

多少無茶をしてでも短時間で生徒を強くすることが合宿の目的なのだから、相澤たちも不都合はないと見逃すことにした。

 

「……」

 

ただ一人ラグドールだけが、他の大人たちとは違う視点でヒノカミを見ている。

生徒を見守るプロヒーローではなく、必死に努力している生徒たちと同じように。

 

(……まさかヒノカミ自身も『個性伸ばし』に取り組んでるなんて、みんなには言えないにゃー……)

 

生徒たちに指導する際の何気ない動作に混ぜて、ヒノカミは何度も己の個性を使用している。

彼女の体がすでにボロボロであることを思えば、その負担は生徒たちとは比べ物にならないほど大きいはず。

しかも彼女の病気の原因は、複数の個性を所持しそれらが肉体に負担を与えているためというではないか。

 

(『儂の体に異常が起きれば伝えてくれ』って……最初っから異常だらけだにゃん!

 こんな無茶続けてたらホントに死んじゃうよう!)

 

それでもヒノカミは止まらない。

AFOと戦って死ぬ予知が見えているということは、戦うまでは死なないということ。

ヒノカミは予知を悪用し、自分を納得させるための道具に使った。

無論、個性伸ばしで力を使い果たしてAFO相手に満足に戦えないようでは意味がないが、今この個性を鍛えれば絶対に戦いに役立つという確信があった。

 

合宿二日目、そして三日目。

やる気と実力溢れる一部の生徒は緑谷たちと同じく『個性伸ばし』と『必殺技考案』に移行しつつ、自らの個性を鍛え上げ続けていた。

そして三日目の夜。ついに敵連合の襲撃が始まる。




原作でも教師たちは生徒たちの可能性に気づいていたとは思うんですよね。
だから教えない理由は生徒たちの自主性を尊重したんだと思うんですが、今はそんな余裕ないと主人公が突っ走りました。
そして敵連合の襲撃ですが……ごめんなさい。スピード解決の予定です。
だって彼もこっち側だし……負ける要素ないもの……。
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