『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第5話

 

人体錬成の失敗、そして新たな師のもとで修業を始めてから1年。

エドワード・エルリック12歳。

アルフォンス・エルリック11歳。

二人の若き天才錬金術師は、マスタング大佐の勤務する東方司令部へと脚を運んでいた。

 

「初めまして、ロイ・マスタング中佐。

 弟のアルフォンス・エルリックです」

 

「君たちを待っている内に大佐になってしまったがね」

 

「そいつぁモタモタしてて悪かったな。

 オレが兄のエドワード・エルリックだ」

 

1年前にマスタングがリゼンブールを訪れた際、結局彼は大人たちに阻まれエルリック兄弟とは顔を合わせることができなかった。

しかし先に立ち寄ったエルリックの家で兄弟が映った写真を見ていたので、彼らの顔は既に知っていた。

エルリック兄弟も大人たちからマスタングの風貌や雰囲気は聞いていたので、初対面ではあるがスムーズに話は進む。

マスタングの執務室に案内され、彼と腹心のホークアイを前に、エルリック兄弟が机を挟んで座り向かい合う。

 

「それで、ここに来たということは軍の狗になる覚悟があるということかな?」

 

「「…………」」

 

二人は互いをちらりと見た後、マスタングから預かっていた書状を机の上に置く。

 

「……悪い。コレ、返すよ」

 

「僕たちは、国家錬金術師にはなれません」

 

「そうか……ん?『ならない』ではなく『なれない』?」

 

彼らが辞退する可能性を想定していたマスタングは彼らの返答を受け入れたが、言葉尻に違和感を持ち問い返す。

 

「おっかねぇ~~師匠ができてな。

 おかげでとんでもなく腕は上がったし、己惚れじゃなく確実に資格は取れると思う。

 戦う理由や責任を誰かに委ねるような真似したら、比喩じゃなく殺されちまう。

 ……人殺しも勘弁してほしいしな」

 

「今日ここに足を運ばせてもらったのも、師匠の指示なんです。

 中佐……いえ、大佐がわざわざ僕たちを尋ねてリゼンブールまで来てくれたんだから、返事は手紙や人伝じゃなく、僕たちが直接大佐のところまで赴くのが筋だろうって」

 

「それはまた、律儀なことだ」

 

「ついでだよ、ついで。

 これから暫くは、オレたちは師匠と一緒にこの国を旅するつもりなんだ」

 

彼らの師は『自分は部外者だから』と司令部まではついてこなかったが、今はこの町の喫茶店で時間を潰しているはずだ。

 

「……師匠とはもしやあの小さなレディかね?」

 

「あぁ。アレをレディって呼ぶのはすげぇ違和感あるけど……」

 

ヒノカミと名乗った『人でなしの目』をした謎の少女……いや、あれが少女であるはずがない。

彼女のことが気にかかっていたマスタングはもう少し深く切り込むことにした。

 

「しかし国を巡る旅か、大層なことだ。

 何か目的でもあるのかね?」

 

「師匠……ヒノカミさんは探し物で、僕たちは尋ね人です。

 どっちも手掛かりすらないから、とにかくいろんなところを巡ってみようかと」

 

「ほぅ。その尋ね人の写真などはあるか?

 こちらでも気にかけておこう」

 

「やけに親切じゃねぇか」

 

「何、優秀な人材との縁を繋ぎ留めておくための必要経費だ。

 これを恩に感じて心変わりをしてくれればという打算を込めた、な」

 

「それでも助かります。僕たちの探し人は、この人です」

 

アルフォンスはピナコの家から拝借してきた写真の1枚を差し出す。

 

「ヴァン・ホーエンハイム。僕たちの父さんです」

 

「父親だなんて認めてねぇけどな。

 何年も前にガキだったオレたちと母さんほったらかして蒸発したクソヤローだ」

 

しかし写真に映っていたのは弟よりも、露骨に嫌そうな顔をして悪態をつく兄の方に似た男だった。

おそらく彼が成長すればこんな感じの外見になるだろう。

マスタングは兄弟に断りを入れてから、隣に立つホークアイに写真を預けた。

彼女は軍の担当の者に模写を依頼するためと、一端執務室を離れた。

 

 

「それで、探し物の方はどんな?」

 

兄弟へ恩を売りたいという言葉は本当だが、マスタングとしてはむしろこちらの方が本命。

『アレ』は躊躇いなく人を殺せる類の輩だ。

行動原理や目的は出来る限り正確に把握しておきたいし、探し物をこちらで確保すれば多少は誘導や交渉ができるかもしれない。

 

「いやぁ、それが本人もよくわかってねぇモンなんだとよ。

 何年か前にちらっと見ただけで、名前も形もさっぱりだってさ」

 

「名前はともかく……実物を見たのに『形』も?」

 

「ヒノカミさんが見たのは、壊れかけの残骸だったそうです。

 真っ赤な宝石のようなもので、でもただの宝石だとは思えないとか」

 

「……彼女はなぜ、そんなものを探そうと?」

 

「知らねぇけど、一度目にしてから妙に気になってるらしい。

 前々からやること無くなったらそれを探してみるつもりだったんだとさ。

 んでオレたちも旅に出るつもりだったから一緒に行動することにしたんだ」

 

「なるほど。ではそちらの方は何か情報が手に入ったら改めて教えてくれ。

 ……時折ここに電話してほしい。

 先ほどの尋ね人の件についても進捗があればその時に伝えよう」

 

「そうさせてもらう。……世話になってばっかじゃ悪いからな。

 なんか困ったことがあんなら言ってくれ。

 軍に入れって要望以外なら、可能な限り応えるぜ」

 

「おっと、早速恩を売った甲斐があったようだな」

 

二人はマスタングから電話番号が書かれた紙きれを受け取り、丁度部屋に戻って来たホークアイから預けていた写真を返してもらい、彼女と入れ替わるようにマスタングの執務室を後にした。

 

 

「……ホークアイ中尉。聞いていたな?」

 

「えぇ」

 

眼と記憶力のよいホークアイなら一目見ただけで十分だ。模写なら彼女自身が後からでもできる。

なのにマスタングはそれを隠し、敢えて彼女の退出を促した。

腹心である彼女は上司の意図を正確に理解し、席を外すふりをして部屋の外で盗み聞きをしていた。

彼女が同席しても特に隠すつもりはなかったかもしれないが、話を聞く人間が少ない方が口を滑らせやすいだろうという計算からだった。

 

「彼らの尋ね人と探し物の件、極秘に捜索するよう信頼できる者を選出し指示してくれ。

 そして彼らの動向にも可能な限り注視するようにと」

 

「あまり肩入れするのは好ましくないかと思いますが?」

 

彼らが国家錬金術師になることを受け入れたのならともかく、断られた以上は彼らはただの一般人。それも子供だ。

 

「わかっているさ……だがいずれ彼らはこの国を動かす台風の目になる予感がする。

 その混乱はチャンスになる。私がこの国のトップにのし上がるためのな」

 

「あら、悪い大人ですこと」

 

「ふふ、お互いにな」

 




原作タイトル全否定。
本作の世界線では『鋼の錬金術師』が誕生しません。
色々考えましたが、ヒノカミが関わると国家錬金術師ルートに進ませるのは無理だと判断しました。
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