『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第6話 太陽神レト

 

正体を隠した神さまと天才錬金術師の兄弟が、アメストリス中を旅し始めておよそ2年。

未だに探し人も探し物も見つかっていない一行は、怪しい噂を聞きつけては西へ東へと旅を続けている。

そしてここ、国境付近にあるリオールという街にもその一環で訪れていた。

この街では数年前に現れた教主コーネロという男が興した『レト教』という宗教が住民たちから信仰を集めていた。

 

「太陽神レトの代理人ねぇ……レトなんて神さまいるのかい?なぁ、『神さま』」

 

「おらんな。少なくともこの街から神霊の気配は感じない。

 そもそも儂が『太陽神(ヒノカミ)』なのだから、仮に同種の存在があれば儂が気付かぬはずがない」

 

食事処のラジオから宗教放送が聞こえて、二人の少年の内の一人が同行者である少女に話題を振る。

そして少女の姿を取った神さまはあっさりと断言した。

現時点でレトなどという神が存在していないとしても、人々の強い信仰心が結実して新たな神を生む可能性はある。

しかし歴史も浅く辺境の一部でしか信じられていないようではまったく話にならない。

 

「長年イシュヴァール人たちに信仰された地神イシュヴァラでさえ、ようやく自我を持つ精神生命体のなりかけくらいじゃし。

 ここ数年で生まれた新興宗教から新たな神霊が生じることなどありえぬ。

 500年くらい続けば可能性はあるがの」

 

「さらっと神さま規模の話すんのやめてくれよ……」

 

「話振ったのは兄さんでしょ。

 ということは、やっぱり偽物ですか?」

 

「念のため霊的素養を持つかを直接この眼で見てから判断したいが……ほぼ間違いなくな」

 

 

一泊して翌日、まるでパレードのような教主の行脚とパフォーマンスを、3人は離れたところから観察する。

 

「あの変成反応はどう見ても錬金術だよね。法則は無視してるけど」

 

「……おい、奴の左手」

 

「え?……あ!赤い石!ヒノカミさん!?」

 

「あの濃密な魂の気配……間違いない」

 

彼女がイシュヴァールの内乱で始末した国家錬金術師が持っていた神秘の石。

『魂を持つ物質』という、この世界でも一際異質かつ歪な存在。

ここまでの長い旅路で、彼らも探し物の名前だけは把握できていた。

伝説の中だけの代物とさえ呼ばれる幻の錬金術法増幅器。その名は。

 

「じゃああれが、『賢者の石』……!」

 

「なるほどな。そいつがありゃ、あんなド三流でも神さまの真似事ができるってワケだ」

 

「そういうことじゃな。

 さてどうやって回収するか……」

 

ヒノカミたちが国中を散々探し回って、今回ようやく見つけたくらいだ。

素養も素質もないあのような凡愚が自力で手に入れられるとは思えない。

なので入手経路も気になるが、まずは現物の確保が最優先だ。

 

「あんなに大勢に囲まれてちゃ近付くこともできないね。

 夜中にコッソリ教会に忍び込むとか?」

 

「だったら前もって間取りは入手してぇな。

 あんだけデカイ建物なら警備も相当厳重だろうし……」

 

「いや、むしろこの人混みを利用しよう。

 この場で速攻で片をつける」

 

「「どうやって?」」

 

「耳を貸せ」

 

そしてヒノカミは二人の直弟子の頭を引き寄せ耳打ちする。

やがて一人の少年は口角を吊り上げていき、もう一人の少年は咎めるような呆れるような視線を向ける。

 

「……いいねぇ。流石神さま、あんな大根役者なんかとはスケールが違ぇや」

 

「くけけけ。仮にも『太陽神(ヒノカミ)』の代理人を名乗るならばこれくらいは対処できて当然じゃろ」

 

「確かに。さぁて、あのハゲはどんなリアクションとってくれっかなぁ」

 

「「げっげっげっげ……!」」

 

(こういうとこ息ぴったりなんだよなぁ……)

 

 

 

教主が広場の壇上に上がったところで作戦開始。

ヒノカミが勢いよく掌を叩きつけ、街をすっぽり覆う巨大な領域を展開。

 

太陽の光を遮り、街を闇で包んだ。

 

「「「!?」」」

 

「な、なんだ!?」

 

「太陽が……!」

 

「突然、夜に!?」

 

混乱に乗じて群衆に紛れ込んだエドワードが大声を上げた。

 

 

「きっと太陽神レトさまがお怒りなんだ!

 教主さま、どうか神さまの怒りを鎮めて下さい!」

 

 

「「「!?」」」

 

迷える子羊たちの視線が一斉に、壇上に立つ太陽神の代理人へと注がれる。

 

「そうだ、教主さまなら!」

 

「どうか太陽を取り戻して下さい!」

 

「コーネロさま!」

 

「う、あ、あぅあ……?」

 

駆け寄って来た信者たちに掴まれ縋られ、しかし太陽の消失という異常事態に対処する方法など小手先の技術と口車しか持たないペテン師に思い浮かぶはずもなく。

そして暗闇の中、白い帯が人々の足元を蛇のように這って教主へと迫り、誰にも気づかれないように彼の指輪から赤い石を抜き取る。

 

「どうして何もしてくれないんですか!?

 太陽神の代理人じゃなかったんですか!?」

 

「まさかオレたちを騙してたのか!?」

 

エルリック兄弟の言葉を皮切りに、教主を責めるような声が広がり始める。

 

 

「……お、おい!あれ!」

 

頃合いと見たヒノカミが、街の上空に巨大な雷の槍を具現化。

この広場からでも見えるほど巨大で荘厳なレト教の教会めがけて射出する。

 

「「「うわぁーーーーっ!!!」」」

 

突き刺さった槍が大爆発を起こし、建物を瓦礫の山へと変えた。

そこで領域を解除。太陽の光が戻ってきた。

 

「太陽神さまの裁きだ!

 やっぱりコイツは嘘つきだったんだ!」

 

最後の一押しを加えて、エルリック兄弟は暴徒と化した群衆を抜け出す。

 

「首尾は!?」

 

「この通りじゃよ」

 

「うっし、さっさとずらかろうぜ!」

 

二人は裁きを下した本物の神と合流し、暴動の始まったリオールの街から一目散に逃げだした。

 




エルリック兄弟が国家錬金術師になっておらず、彼らの実力を知らないホムンクルスたちは彼らの存在を捕捉できていません。
本作ではこの状況を利用し、しばらくは意図せず暗躍を続ける方針となります。

ちなみに雷の槍は死神の世界のウルキオラの技です。
作者が天罰っぽい技を探してたら彼女に覚えさせてたことを思い出したので採用しました。
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