『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第8話 キメラ

 

『軍が生きた人間を材料にして賢者の石を作り出している』

まだ推測でしかないとはいえ、これが本当であれば由々しき事態。

何としても真実を確かめねばならないが、もしも大佐よりも地位が上の者が黒であれば下手に動いて察知されるわけにはいかない。

適当な理由を付けてマスタングもエルリック兄弟も処分されてしまうだろう。

 

よってマスタングはまず自分の足元から少しずつ捜索の手を広げていくことにした。

賢者の石が発見されたリオールの街はこの国の東部、すなわち彼が所属する東方司令部の近くにある。

勿論マスタングは把握していないが、この地にいる錬金術師が加担している可能性は高い。

更に賢者の石の精製となれば確実に国家錬金術師クラスの腕前、加えて材料が人間ならば生体錬成に詳しい者が関わっているはずだ。

そしてここイーストシティには彼らが挙げた条件に該当する人物が一人いた。

 

『綴命の錬金術師』ショウ・タッカー。

2年前に人の言葉を理解し話すキメラを作り上げ国家錬金術師の資格を取得した男だ。

 

マスタング大佐が直接訪れても尻尾を出すとも思えないので、『彼の紹介を受けた将来有望な錬金術師』という形でエルリック兄弟がタッカーの家に足を運ぶ。

どこかくたびれた覇気のない中年男性で、2年前に妻に逃げられたらしく、今は娘のニーナと飼い犬のアレキサンダーと暮らしているらしい。

エルリック兄弟が幼く純粋な子供の振りをして精一杯ゴマをすればいくらか気をよくしたらしく、荒れ放題の家の中を案内してくれた。

二人は彼が失敗作と断じたキメラや無数の蔵書が収められた資料室を見て回る。

 

(……賢者の石に関わるような資料はないね)

 

(油断すんな。見える場所に置いてるとは思えねぇ)

 

(妙に警戒するね、兄さん?)

 

(……このタッカーっておっさん、嫌な感じがする)

 

(言われてみれば……)

 

人の良さそうな笑顔を見せる男に対し、ヒノカミの下で鍛えられた彼らの霊感が警鐘を鳴らし続けていた。

その夜、東方司令部へと戻ったエルリック兄弟は自分たちが感じた違和感をマスタングとヒノカミにありのままに話す。

これによりマスタングらは、現時点では彼を白ではなくグレーと判断。

何かあればすぐに動けるようにホークアイとヒノカミがタッカー邸の傍に控え、引き続きエルリック兄弟が彼の家で錬金術の話をしたり、父が忙しくて寂しいというニーナとアレキサンダー相手に遊んだり遊ばれたりしながら警戒を続けていた。

 

そして数日後。

タッカーはエドワードたちに、新たに作り上げた人語を理解するキメラを紹介した。

間もなく行われる年に一度の国家錬金術師の査定で披露するための実験成果なのだという。

 

しかしそのキメラの魂を見たエルリック兄弟は一瞬で気付いた。

 

 

「ニーナとアレキサンダー、どこに行った!?」

 

「……君のような勘のいいガキは嫌いだよ」

 

 

二人はタッカーを殴り飛ばして拘束し、即座に騒動を聞きつけたヒノカミとホークアイが突入。

そしてしばらく後に、ホークアイから報告を受けたマスタングと彼の部下たちが押しかけて来た。

 

「……2年前に彼が用意したキメラは、彼の妻を素材としていたということか。

 そして今度は娘を……」

 

エドワードから事情を聴いたマスタングは、部下たちの手で床に押さえつけられているタッカーを一瞥し、続いて哀れなキメラの方を向く。

キメラの前には、身をかがめて視線を合わせるエルリック兄弟がいた。

 

「……駄目だ。今の僕たちの技術じゃ元に戻してあげることはできない……」

 

アルフォンスの呟きに、マスタングは当然だろうと内心で同意した。

紅茶とミルクを混ぜるのは簡単でも、ミルクティーを完全に元通りに分離させるなど不可能に近い。

生体錬成は専門外ではあるが国家錬金術師である自分でも不可能だと匙を投げる。

これをどうにかできるとしたら、それこそ『神さま』くらいだろう。

 

 

「だから……お願いします。ヒノカミさん!」

 

「任された」

 

「……は?」

 

少年に名を呼ばれた少女が前に出て、キメラの頭を両手で左右から挟み、握る。

 

 

「……ふんっ!」

 

「「「なぁっ!?」」」

 

そして彼女が両手を左右に広げると同時に変成反応による閃光が生じ、光が消えると彼女の両手がそれぞれ幼女と犬を掴んでいた。

 

「やったぁ!」

「流石だぜ!」

 

「スムーズに分離させるため一端眠らせたが、しばらくすりゃ目を覚ます」

 

「馬鹿な……!?」

 

「私のキメラを……最高傑作を……!?

 ふざけるな!どうやって、そんなあっさりと……ひっ!?」

 

振り返ったヒノカミの、マスタングが恐れた『人でなしの目』が、タッカーを貫き委縮させる。

 

「……2年前にタッカーが国家錬金術師の資格を得るため提示したキメラが、彼の妻を用いたものだと発覚した。

 彼と関わりのある一般人の協力によりその事実に気付いたマスタング大佐はタッカーを拘束。彼の娘を保護した。

 ……筋書きはそれでよいな?」

 

「あ、あぁ……」

 

ヒノカミは穏やかな顔で寝息を立てるニーナを胸に抱えたまま、エルリック兄弟を連れて部屋の外に出ていく。

 

「……エド。アレキサンダーも連れて来てくれ。

 この場に置いてっても軍の家宅捜索の邪魔になるじゃろうしな」

 

「了解……ってオイ、オレ一人でこの巨体はキツイっての!

 交代してくれよ!アンタならコイツを運ぶくらい楽勝だろ!?」

 

「阿呆、今この子は素っ裸なんじゃぞ?

 嫁入り前の裸の娘を男に預けるわけにもいくまい」

 

「そ、そうだ!アル……!」

 

「アル、ニーナの服がある部屋まで案内してくれ」

 

「はい、こっちです」

 

「……ふんごぉ~~~っ!!」

 

大型犬であるアレキサンダーはエドワードに迫る大きさである。

何事もなかったかのように呑気に鼻提灯を作る獣を背負って、エドワードは必死に師と弟の後を追う。

 

「「「…………」」」

 

 

結局、押収した彼の家の資料からタッカーは賢者の石とは無関係であることが確定した。

そして翌日、犯罪者となったタッカーを裁判にかけるために中央から二人の軍人がやって来た。

 




この話は省略することも考えましたが、やっぱこの回とこのセリフは入れておかないとかなって……。
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