『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第9話

 

タッカーはセントラルシティに連行され裁判を受ける事になるが、ここで問題なのがニーナの扱いだ。

目を覚ました彼女は自分が父に受けた仕打ちを覚えておらず、であれば母が姿を消した真実を話すわけにもいかない。

それどころか彼女は父と別れることを嫌がり、父を連れて行こうとする軍人たちに泣いて縋りつくほど。

幼い子供の涙に良心が痛み、さすがの軍人たちもほとほと困り果てていた。

 

そこで手を上げたのがセントラルから来た軍人でありマスタングの親友であるマース・ヒューズ中佐だった。

タッカーはいわば殺人犯であり当分牢からは出られないだろうが、セントラルに住む彼の家からなら頻繁に面会に行くこともできる。

軍の中佐という地位は結構なエリートなので金銭面に余裕があり、彼自身にも幼い娘がいるので友達になってくれればと、アレキサンダーごと引き取ると名乗り出た。

 

「んでこれがオレの天使、エリシアちゃんよ!

 かンわいぃだろぉ~~~?」

 

「こりゃまためんこい子じゃのぉ。今幾つじゃ?」

 

「もうすぐ3歳になるんだよ~~他の写真も見る?」

 

「見る見る。……おぉ~~、お?こっちは奥方かな?」

 

「あぁ、うちの妻のグレイシアだ!

 すっげぇ美人だろぉ?娘も妻もオレの自慢なんだよぉ~~」

 

「なるほどぉ。こりゃ娘さんも大層な美人になるじゃろうなぁ」

 

「だよな!だよな!?」

 

そして彼はとんでもない愛妻家で子煩悩だった。

ニーナとアレキサンダーをエルリック兄弟に託し、一般人側の関係者として一人現場に同席したヒノカミと肩を組んで盛り上がっていた。

 

「……まさかヒューズの惚気話に付き合える傑物だとは」

 

日頃から軍の回線を使ってまで家族自慢をしてくる彼に辟易していたマスタングは、別の意味でヒノカミへの評価と警戒心を一段階上げていた。

 

「……ヒューズ中佐、どうかそのあたりで。

 早くセントラルに戻らねばならないのでは?」

 

「っとそうだった。まだ仕事が山積みなんだよな」

 

そんな彼を諫めたのは、彼と共にセントラルからやって来たもう一人の軍人。

はちきれんばかりの筋肉を窮屈そうに軍服に押し込めた、スキンヘッドと一房の前髪、勇ましい口髭と特徴だらけの男性だった。

 

「失礼、お仕事を妨害してしまったようで。ヒノカミと申す」

 

「『豪腕の錬金術師』、アレックス・ルイ・アームストロング少佐であります」

 

差し出されたヒノカミの小さな掌を、アームストロングが大きな掌で包むように握り返す。

 

「ぬぅっ……!?」

 

その直後自分の巨体を投げ飛ばされそうになり、アームストロングは咄嗟に腕に力を込めてそれを防ぐ。

 

「……ほぅ、見た目通りよく鍛えておられる」

 

「……ふっふっふ。そちらも中々のお手前。

 まさかその細腕でこれほどの力をお持ちとは……!」

 

「げらげらげら、体質的に筋肉が付きづらくてな。

 中身だけでなく見た目も鍛えたかったが……その恵体が心から羨ましい」

 

「ならばとくと見よ!我輩のこの鍛え上げられた肉体美を!!」

 

「ナイスバルク!!」

 

 

「……アレにも合わせられるのか」

 

「ミイラ取りがミイラですね」

 

突然上半身裸になり次々とポージングを披露するアームストロング少佐を無視して、マスタングが粛々と職務をこなしていた。

 

一夜明け、ヒューズ中佐とアームストロング少佐はセントラルに戻ることになった。

タッカーは既に部下を使って護送済みで、ニーナとアレキサンダーはヒューズ中佐が一緒に連れ帰る。

 

「ついでにお前らも来いよ。そんで暫くウチに泊ってけ」

 

「「はぁっ!?」」

 

するとヒューズはエルリック兄弟とヒノカミも誘ってきた。

 

「ニーナちゃんは突然セントラルの知らない一家にお引越しなわけだからな。

 顔なじみがいた方が安心するだろ?それに……」

 

そこでヒューズが3人に近付き、彼らにだけ聞こえるように耳打ちする。

 

 

「……賢者の石のことを調べるんなら、セントラルの方が都合がいいはずだ」

 

「「!?」」

 

「……マスタング殿から?」

 

「あぁ。勝手に聞いちまって悪いな」

 

「彼が信用したのならば問題ない。それも承知の上で情報を共有したのだからな」

 

「そうかい。東部の調査は引き続きロイがやってくれる。

 なんでお前らには中央のガサ入れに協力してほしい。

 ……軍がヤベェ実験してるってんなら、それを止めて正すのはオレたち軍人の使命だ。

 アンタら一般人の手を借りてる上に危険に晒しちまって、申し訳ねぇと思ってる。

 だが錬金術に関しちゃオレは門外漢だからな……すまねぇが、手と知恵を貸してくれ」

 

「頭を上げてください中佐。

 この国で暮らす僕らにとっても、他人事じゃありませんから」

 

「大船に乗ったつもりでいてくれよ。

 大佐よりいい仕事してみせるぜ?」

 

こうして新たな協力者を得て、ヒノカミとエルリック兄弟はセントラルへと向かうことになった。

 

 

 

「……あやしい」

 

ムキィッ!!

 

 

間もなく事情を知る協力者がもう一人増えた。

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

仮に軍が賢者の石を生成していたとすれば、それはどこでになるか。

何の変哲もない場所で実験ができるとは思えない。

生きた人間を材料にしているのならばその秘匿にも厳重に警戒をしなければならないはずだ。

どこかの軍用施設、錬金術を研究している施設が最も可能性が高い。

 

しかしセントラルにある4つの錬金術研究所ではそれらしき研究はしていないと、国家錬金術師であるアームストロング少佐が断言する。

そしてヒューズ中佐もその意見を後押しした。

錬金術のことはわからないが、これらの施設には極秘実験を行えるような余剰スペースはないとのこと。

 

やはりセントラルシティで堂々と人体実験などしているはずがないのだろうか。

そう考え始めた彼らの眼にとまったのは、今は廃棄されたという第五研究所。

決め手は隣に刑務所があり……死刑囚という『材料』が容易に確保できること。

仮に賢者の石を作っているとすればここに違いない。

 

エルリック兄弟は優れた錬金術師であるが一般人。

ヒューズ中佐とアームストロング少佐が協力して、他に気付かれぬよう少しずつこの施設の調査を開始した。

 

 

そして数日後、彼らのもとに第五研究所が倒壊したとの報告が入った。

 

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