『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第13話

 

日もすっかり沈み、しかし眠りにつくには少し早い、そんな時間帯。

 

「さて……」

 

未だ東方司令部の与えられた執務室の椅子に腰かけるマスタングは、部屋全体の戸締りを確認した。

ホークアイには部屋の扉の外で待機し警戒するよう命じてある。

窓もしっかりと閉じてあり、内側からの光の漏れもない。

そこでようやく彼はエルリック兄弟からもらったお菓子の箱を取り出し、中から卵のような機械を取り出す。

 

「……本当にこんな小さなものが……?」

 

同封されていた説明書を読みながら、訝しみつつも機械を右耳に取り付けて側面のボタンを押す。

 

「っ……ほぅ」

 

すると機械からせり出した半透明のプレートが右目の前にまでスライドして止まり、プレートの表面に光る文字が表示される。

その状態のまま周囲を軽く見渡していると、機械から電子音が響く。

プレートに新たに表示された文字は……『マース・ヒューズ』。

 

『よぅロイ、随分と早いじゃねぇか』

 

側面のボタンを押すと、機械からセントラルにいる悪友の声が聞こえてくる。

 

「レディを待たせるのは私の主義に反するからな。

 そういうお前こそ私よりも先に待ち構えていたようだが、軍法会議所は仕事が山積みじゃないのか?」

 

『最近有能な部下を見つけてな。残業押し付けて来た!』

 

「鬼か貴様は……それと声を抑えろ」

 

『わぁってるよ今オレがいる部屋にはそれなりだが防音と盗聴対策はしてある。

 一応コイツで周りを見渡したが、化け物の反応もなかった』

 

「そうか。こちらもだ」

 

ヒノカミから預かった特殊な通信機……『スカウター』とやらは国境を超えるほど遠くの相手との通話だけでなく、周囲にいる異常な強さの持ち主を検知できるそうだ。

彼らを尾行しているという化け物と同等の相手ならば、有効範囲は100メートルほどだとか。

彼女は『狭すぎる』と不満気だったが検知できるだけで十分だ。

なお、彼らには秘密だが検知範囲が狭い理由ははっきりしている。

スカウターが本来想定している検知対象に比べれば、連中が小粒過ぎるからだ。

 

『しっかしすげぇなこれは。

 こんなにちぃせぇのに軍の回線より断然音がよくて遅れもねぇ。

 しかも電線いらずで場所も選ばない。コイツが軍に支給されてくれりゃあなぁ』

 

「便利であることは同意するが……渡せんよ。今の軍にはな」

 

『……だな。俺らだけで堪能させてもらうとしようや。

 まだ時間もあるし適当に駄弁ろうぜ』

 

「家族自慢でなければ付き合ってやる。お前のソレは止まらんからな」

 

そして二人は約束の時間が来るまでの間、くだらない雑談に興じていた。

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

リゼンブールに戻ったヒノカミ一行はエルリックの家の一室に集まり、椅子に座っている自分たちが見えるようにと正面にカメラを置く。

 

「……時間じゃな。では呼び出すぞ」

 

ヒノカミがカメラを起動し、自分もスカウターを取りつけカメラとリンクさせる。

 

「……ヒューズ中佐、アームストロング少佐、マスタング大佐。

 お待たせして申し訳ない。こちらの音声と映像は届いておるか?」

 

『あぁ、聞こえてるし見えてるぜ。

 ……いやマジですげぇな』

 

『まさか本当に映像まで送れるとは……むむっ!?』

 

『……失礼だが、そちらの男性は?』

 

彼らのスカウターのモニターには問題なくエルリック家の様子が映し出されているらしく、カメラのスピーカーからは協力者である3人の声が聞こえてくる。

そして彼らはヒノカミとエルリック兄弟と共に座る中年の男性の姿に気付いたようだ。

 

『もしや……ドクター・マルコー!?』

 

「……お久しぶりです、アームストロング少佐」

 

『アンタは確か、賢者の石の研究に関わってた可能性が高いって噂の……!』

 

「リゼンブールに辿り着くまでの道のりで、偶然遭遇してな。同行を要請した。

 今日の会合はスカウターのテストだけの予定だったが、このまま報告を行いたい。各々時間はあるか?」

 

『あぁ』

『問題ありません』

『進めてくれ』

 

「では……本人の口から語ってもらおう。その方が良かろう?」

 

「えぇ……どうか聞いていただきたい。私の懺悔を……!」

 

ヒノカミに無理やりリゼンブールまで連れてこられたマルコーは、通信機の向こう側にいるイシュヴァールの内乱に参加していた軍人たちに己の罪の全てを告白した。

 

軍の命令で賢者の石の研究をしていたこと。

イシュヴァールの内乱に参加し、多くのイシュヴァール人を犠牲にして賢者の石を作り出したこと。

罪悪感に耐え切れず、賢者の石と研究資料を持って逃げ出したこと。

到底償いきれるものではないがそれでもと、片田舎の町で医者をしていたこと。

そして彼は用意していたボードをカメラの前に持ってくる。

 

「……これが賢者の石の錬成陣です。

 陣の頂点に血の紋を刻み、術を発動することで陣の内側にある生物の魂を抽出し、賢者の石へと変換する。

 セントラルでの実験は閉鎖されたことになっている第五研究所で……彼らから、破壊されたと聞きました」

 

『やはり、ですか……!』

 

『確定だな……よく話してくださった、ドクター・マルコー』

 

『……イシュヴァール人が材料に、か……。

 俺たちが内乱で捕まえた奴らも石にされちまってたんかねぇ……』

 

『……もしやリオールの件もそれが目的だったのかもしれんな』

 

「「リオール?」」

 

マスタングの口から出て来た、コーネロというペテン師が支配していた街の名前にエルリック兄弟が反応する。

 

『君たちが立ち去った後の街の暴動は我ら東方軍が出動しすぐに収拾した。

 ……しかし突然中央軍が出しゃばってきて、指揮権を奪い現場を引っ掻き回したのだ。

 中央軍の横暴を前に民衆の熱は再燃し、そして中央軍は暴徒鎮圧の名目で市民を攻撃。多数の死傷者を出している』

 

「そんな……!」

 

「クソッ!」

 

『行方不明者の数も当然、かなりの数に上っていてな。

 ……その一部が連れ去られ、賢者の石にされた可能性は十分にある』

 

『国民を守るべき、軍が……!』

 

『……やってられねぇよなぁ、俺たちは何のために命賭けて戦ってんだか。

 最近は北も西も『暴動』だ『国境戦』だと、国中あちこちで血が流れ…………っ!?』

 

『……どうした、ヒューズ?』

 

 

 

『……おい嬢ちゃんたち、そこにアメストリス全土の地図あるか!?』

 

「エドワード?」

 

「あぁ、一般に出回ってるもんならウチにも……」

 

『用意してくれ、今すぐにだ!!』

 




この時点でマルコーが把握している可能性もありますが原作見る限り断言されていないので、本作では彼もまだ知らないということにしています。
ちなみにヒューズがスカウトしたのは原作通りシェスカです。
能力思えば普通に有能すぎるし、原作でも軍の事務仕事バリバリこなしてたみたいだし。
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