マスタングたちとの会合を終えた翌朝、早速ダブリスへと出発する準備を始めた一行。
折角尾行が途切れているのだから、足取りを悟られないよう変装するべきだ。
注目を浴びないよう、できるだけ目立たない服装であることが好ましい。
よってヒノカミは特徴的な和服を脱ぎ、エドワードから男性用の服を借りて顔が見えづらくなる大きな帽子をかぶる。
顔立ちから異国の人間と察知されれば視線を集めてしまうので仕方がない。
エドワードも普段の真っ赤なコートを脱いで地味目な服装をしている。
アルフォンスは普段から大人しい恰好なのでいつも通りでも問題はなかった。
しかし残る問題が一つ。
ラストの色気が、どうしても隠せないのだ。
「この乳か!この乳が悪いんか!」
「そんなに僻まなくてもアナタもすぐに大きくなるわよ、お嬢さん?」
「儂の身体はとっくに成人済みじゃ!これ以上は……成長せんのじゃよ……っ!」
「アラそうなの?ご愁傷様」
「むきぃーーーーっ!!」
『エルリック兄弟が人間と見なした相手を殺すつもりはない』というヒノカミの発言が事実だとしても、殺さずに無力化する方法など幾らでもある。
手足を落とし、目と耳を潰し、舌を切り、鋼鉄の箱にでも閉じ込め地中に深くに埋める。
ヒノカミがそのくらいは躊躇いなくやる相手だと、ラストは正しく認識していた。
だからヒノカミやエルリック兄弟の情報を集めるためにも、何より自身が逃げ出す機会を逃さぬためにも、彼女は尋問以外の指示には従順に従うことで自由を得ていた。
そしてヒノカミたちもそれを理解したうえで彼女を傍に置いていた。
だからこれはラスト自身が意図的に反抗しているわけではない。
服装を変えろという指示にも素直に従った。
素朴でありきたりで落ち着いた服を着せた。髪型も三つ編みにして、眼鏡もつけてみた。
しかし自己主張の激しい二つの山と、所作の端々から見え隠れする妖艶な振る舞いが、嫌でも男の視線を集めてしまう。
それはもはや無意識レベルに染みついた、ラスト自身の性分によるものだった。
「そんなに悔しいんなら、自分で自分の体を作り替えればいいじゃない。
アンタなら簡単でしょ?」
「それやったら負けも同然じゃろがい!」
ラストのコーディネートを引き受けたウィンリィの、とっくにヒノカミよりも大きく生意気に育ったウィンリィの発言に猛犬のように噛みつく。
神さまには物理的な衝撃よりも精神的なダメージの方が深刻なのだ。比喩表現ではなく致命傷になり得る。
「けどできることはできるんでしょ?
だったらエドだけでも身長伸ばしてもらえば?」
「誰がドチビじゃゴルァーーー!!」
「背が小さくて何が悪い!ちんちくりんで何が悪い!!」
「そうだそうだ!人を身長で差別するんじゃねぇーーー!!」
「……わけわかんないわ」
ウィンリィはプラカードまで作り出してを抗議活動を始めた低身長コンビに呆れ果てていた。
ウィンリィの両親は医者だが、祖母は
少しだけだがヒノカミが指導してやったこともあり、若くして一流と言って過言でない腕前になっている。
軍事国家なので内乱や他国との戦争が多く、一般人ですら四肢を失う事態が当たり前であり、だからこそこの国では機械義肢が異様に発達している。
その争い自体がこの国の闇に巣食うホムンクルスらに引き起こされたものと知った今、ひょっとしたらエドワードたちの叫びにはその憤りも込められているかもしれない……いや、やはり気のせいだろう。
そして騒ぎ立てる二人を見て頭を抱えているのはウィンリィだけではない。
「賑やかなお兄さんと師匠ねぇ……心中お察しするわ」
「……お気遣い、ありがとうございます」
アルフォンスの方がエドワードより一つ年下だが、身長は横ばいだった。
落ち着きがある分、旅先で彼の方が兄に間違われることも少なくなかったりする。
ひとしきり騒いでようやく落ち着きを取り戻した二人はアルフォンスに叱られるが、自分たちの失態を誤魔化すかのように速やかな出発を促す。
まずは駅に向かい、列車にのってイーストシティまで。
そこから南部行の列車に乗り換えて、途中でもう一度乗り換えてダブリスまで。
これが通常のルートだ。しかし拙速な行動が必要な状況でそんな悠長な旅を楽しむ余裕はない。
だからヒノカミは3人を連れて、リゼンブールからダブリスに直接転移した。
「与太話だと思っていたけど……披露されるともう否定できないわね」
「儂は嘘はつかんと言うとるじゃろ」
人気のない路地裏に転移したヒノカミとエルリック兄弟は、初めての転移を体験し呆然とするラストを連れて早速目的地へと向かう。
およそ2年前、エドワードたちと共に旅を始めた直後にこの町に来たことがあるので迷うことなく、しかし人目を避けて裏路地を進む。
結局ラストの外見の問題が完全に解決しなかったので。
今も浮浪者の視線を集めているが、ここなら力づくで押し通ることも可能なのでちょっかいを掛けられない限りは無視する。
「……肉屋?」
「師匠が経営されてるんです」
「……錬金術師なのよね?」
建物に掲げられた看板を見上げて困惑するラストを無視して、せっかちなエドワードが裏口に向かい扉をノックする。
「
「…………あ?」
開いた扉から出て来た血の滴る包丁を握った厳つい顔の巨漢が、小柄なエドワードを見下ろし睨みつける。
「……あ……どうも、お久しぶりです……」
「エド、か……大きくなったな」
(ちぢむ……!)
そして大きな手で乱暴にエドワードの頭を押さえつけるようにガシガシと撫でる。
「イズミに会いに来たのか?なら家の方だ。こっち来な」
店長のシグは店員の青年メイスンに店を任せて、裏手に隣接する家へとずんずんと進んでいく。
エドワードとアルフォンスが並んでそのすぐ後ろを進み、ヒノカミとラストは距離を取って歩く。
「彼……ではないわよね?」
「うむ。錬金術師は彼の奥方じゃよ。
エドほど特化した能力はなく、アルほどの規模と速度もないが、安定性と精度ならば彼女の方が遥かに上じゃろうな」
「ふぅん」
(あの男、身体能力だけならホムンクルス並みかしらね……)
エルリック兄弟が扉の前で待っている間もヒノカミたちは少し離れたところで待っていた。
するとやがて扉が開き。
「「あ」」
二人が驚愕で硬直した。
やがて扉から外に出て来た女性の姿を見て、ヒノカミも彼らの反応の理由に気付いた。
「随分大きくなったな、経過は順調なようじゃの」
「お、アンタも一緒だったの?久しぶりだね」
エルリック兄弟の錬金術の師匠、イズミのお腹は大きく膨らんでいた。
『兄さん(エド)みたいなせっかちな人がお腹に触った』わけではないので、本作のドミニクさんの孫は予定日通り生まれたことにします。
また、イズミが妊娠中なので中央への旅行に出かけておらず、彼女らは中央でホーエンハイムと出会っていません。