『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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これ書いてるのは大晦日ではありませんが、よいお年を。


第17話 VSグリード

 

カーティスの家を囲んでいた者たちに転移で奇襲を仕掛けて一瞬で昏倒させて縛り上げ、シグとメイスンにイズミを任せて動き始めたエルリック兄弟とヒノカミと、彼女の帯に持ち上げられ運ばれるラスト。

三人は武装錬金と人並外れた身体能力で西の工業跡地に突撃し、立ちふさがるチンピラをなぎ倒して、ホムンクルスの気配へと一直線に進んでいく。

文字通り、一直線に。建物も壁も何もかも貫いて。

 

「部下の言ってた美女って……テメェかよババア!」

 

「それはこちらのセリフよ……誰かと思えばアンタだったとはね、グリード」

 

4人はデビルズネストという名の酒場に辿り着き、そこにいたホムンクルスのグリードとその手下連中を問答無用で殴り飛ばした。

グリードも全身を硬質化させるという異能を持っていたがエルリック兄弟の武装錬金に易々と斬り飛ばされ、これが己を殺しうる武器と気付いて降参した。

 

地面に下ろされたラストは武器を突き付けられ両手を上げる彼を忌々し気に睨みつける。

グリードもまたホムンクルス、同じ存在から生み出されたラストの兄弟と言えるが、当の昔に離反した彼は味方ではない。

これがエンヴィーやグラトニーだったらこの命を捨ててでも彼らを逃がし、エルリック兄弟たちの情報を持ち帰ってもらおうと考えていたのでラストは落胆を隠せない。

実際にはグリードに対面した直後からヒノカミが掌を合わせて領域を展開しているので脱出は不可能となっているが。

 

「やっぱりホムンクルス……でもこの人たちは……?」

 

「ただの人間じゃなかった。どういうことだテメェ!」

 

「あぁん?キメラを知らねぇの?

 ラストの手下なら聞いてねぇのか?」

 

「儂らはラストの手下ではない。

 儂らがラストを捕らえとるんじゃよ」

 

「……はぁ?」

 

ラストが無言で顔を逸らしたのを見て、グリードは目尻と口角を勢いよく吊り上げていく。

 

「ぎゃははははは!このババァが捕われのお姫様ってか!

 似合わねぇ~~っ!!」

 

「黙りなさい……今のアンタも人のことを言えた状況じゃないでしょう!?」

 

「ふむ、お主はこ奴らの一派ではないようじゃな。

 今我らは少しでも多くの情報を欲している。知る限りを吐いてもらおうか」

 

「……オレは強欲だからよ。タダとはいかねぇぜ。

 等価交換と行こうじゃねぇか、なぁ錬金術師?」

 

「コノヤロ!負けた癖に!」

 

なるほど、強欲の名にふさわしい。

絶体絶命の状況に追い詰められていても、少しでも己の利が得れらると思えばふてぶてしく毟り取ろうとするとは。

 

「……内容次第じゃ。虚偽を申せばその舌斬り落とすぞ」

 

ヒノカミが錬金術師ではないとは気付かなかったようだが、こちらとの実力差は理解したはず。

交渉の振りをして仕掛けたり、一線を超えようとすればどうなるかも察しがついているだろう。

無理やりラストの口を割れない状況ではホムンクルスに関する情報は何としても欲しい。

多少の出費には目を瞑ってもいいと思えるほどに。

 

「安心しなぁ。オレは嘘をつかないことを信条としてるんでね」

 

「ほぅ、気が合うな」

 

『余計なことを口にするな』という意思を込めた目でラストがグリードを睨みつけるが、彼はニヤリと笑って視線を逸らすことで『意図を理解した上で応じるつもりが無い』と示した。

ラストは全員に聞こえるほど大きく舌打ちして、部屋の隅の椅子にドカリと腰かけ腕と脚を組む。

気絶していた彼の腹心の部下たちもただの人間でないからこそ回復が早く、やがて目が覚めグリードに促され話し合いの場に同席させられる。

 

彼らホムンクルスは彼らが『父』と呼ぶ男から生み出された存在。

『父』こそが『始まりのホムンクルス』であり、彼が切り捨てた感情を元に生み出されたのが6体のホムンクルス。

色欲(ラスト)』・『強欲(グリード)』・『嫉妬(エンヴィー)』・『暴食(グラトニー)』・『怠惰(スロウス)』・『傲慢(プライド)』。

彼らはその名にふさわしき感情を持ち、それぞれ特殊な能力を与えられている。

その能力と容姿を一通り聞いたところで疑問が浮かぶ。

 

「その並びなら『憤怒(ラース)』もいるんじゃねぇか?」

 

「いるかもなぁ。オレが親父殿のとこにいる時にはいなかったが、随分前の話だし」

 

「エンヴィーの変身能力は見かけだけで内面までは模倣しきれない。

 となればキング・ブラッドレイがそうなのかもしれんな。

 性格を思えば『傲慢(プライド)』かとも思うたが」

 

プライドは影を化け物にして操るという特に強力な異能を持ち、反面身体能力は低いらしい。

対してブラッドレイは刀を握って自ら最前線に立つバリバリの武闘派。

他のホムンクルスたちの特徴とも一致しないため推測はおそらく正しいだろう。

 

「大総統がホムンクルスねぇ……あんな老けた弟は御免だわ」

 

グリードは際限なく溢れる己の欲望を満たすために、遥か昔に父から離反した。

だから連中の目的までは把握していないとのこと。

彼の手下……キメラたちは軍が極秘裏に行っている実験の犠牲になった軍人や犯罪者や浮浪者であり、軍を脱走したところをグリードが拾ったらしい。

彼らもこの国の闇に触れて来た人間だが、自分たちが受けた仕打ちに関する情報以外はあまりは持っていなかった。

 

「さて、こっちから出せるのはこれで全部だ。対価をもらおうか」

 

「貴重な情報、確かに受け取った。

 ではこちらの持つ情報も提供しよう」

 

グリードは強欲だ。

この世の全てが欲しい、全て己の所有物にしたいと公言して憚らない。

だから所有物である己の手下を見捨てない。

だから化け物にされて行き場を無くした彼らはグリードを慕っている。

そんなグリードが己の部下も含めた全ての人民を犠牲にする国土錬成陣を受け入れるはずがない。

適当な物品を渡して仕舞いにしても良かったが、彼とは更なる交渉の余地がある。

この国そのものがホムンクルスの作り出した生贄の祭壇であり、賢者の石を作り出すための儀式の準備が着々と進んでいることを明かす。

 

「…………オイ」

 

「フンッ」

 

グリードが殺意を込めてラストを睨みつけるが、彼女は鼻で笑って視線を逸らした。先ほどの意趣返しのつもりなのだろう。

それでもグリードがこちらの情報が真実であると判断するには十分な反応だったようだ。

 

「おそらく、すでに計画は最終段階に入っておる。

 あと1年か2年か……せいぜいそのあたりじゃろうな」

 

「気に入らねぇなぁ……オレが手に入れるはずのものをよぉ!」

 

「グリードさん……」

 

この状況に至ってもブレない彼の姿勢に彼の部下たちが呆れながら苦笑いする。

 

「我らは連中の野望を打倒するために動いておる……。

 グリードよ、手を組むつもりはないか?」

 

「あぁ?」

 

「こちらの戦力は我らと、数名の軍人と錬金術師と……国一つ相手取るにはとにかく人手が足りぬ。

 お主とその手勢の力、今の儂らには喉から手が出るほど欲しい」

 

「……ハッ!付き合う理由はねぇなぁ」

 

「なんだとぉ!?」

 

「この国は惜しいが、この国に固執して心中する必要はねぇ。

 オレたちゃほとぼり冷めるまで国の外に出てるだけでいいんだよ。

 邪魔者が軒並みいなくなった後でその賢者の石を奪うってのもアリかもなぁ」

 

「「っ……」」

 

彼の手下たちも既に死んだことにされている人間だ。

もしかしたらこの国に大切な人がいるのかもしれないが、それ以上に仲間たちの団結の方が強いのだろう。

 

「その上でオレたちに頼むつもりってんなら……わかってんな?」

 

グリードはにやけ面でヒノカミに迫る。対するヒノカミの返答は。

 

 

 

「…………あ?」

 

 

 

彼の胸に深々と突き刺さる拳だった。

 

「グリードさん!?」

 

「てめぇっ!!」

 

配下たちがキメラとしての姿と力を振るい、拳を引き抜いたヒノカミに一斉に襲い掛かる。

 

 

「「「ごはっ……!?」」」

 

 

そして一瞬で、グリードと同様に腹を貫かれる。

 

「ヒノカミさん!?」

 

「……殺したの?」

 

ヒノカミがアルとラストの追及を無視して振り返り足元を見下ろすと、倒れ込んでいたグリードたちが胸元を抑えながらゆっくりと起き上がる。

 

「……んだこりゃ。テメェ何しやがった?」

 

再生能力を持つホムンクルスのグリードだけでなく、配下のキメラたちにも傷がなかった。

ヒノカミはグリードから抜き取った賢者の石を掲げて宣言する。

 

 

「貴様の体に賢者の石の代わりにもっといい物を埋め込んでやった。

 無限にエネルギーを生み出す炉心をな。

 破壊されれば再生はできぬので不死とは言えぬが、不老であることは保証しよう」

 

「……!」

 

「配下の体も随分と雑な作りをしておったからな。

 調整しておいた。多少は楽になったのではないか?」

 

「ぬ……言われてみれば……」

 

「この場におらぬ連中も後で調整してやろう。

 当人が望むのならば人間に戻してやろう。

 ……さてグリード。『等価交換』じゃったな?」

 

「あぁん?」

 

「こんだけ先払いで奮発してやったんじゃ。

 ……相応の対価は期待していいんじゃよな?」

 

ヒノカミは『踏み倒すつもりなら容赦はせぬ』という意思を込めて、にやけ面でグリードに迫る。

 

 

「……ガハハハハハハ!

 あぁそうだな、等価交換だ!

 オレが言い出したことだからなぁ……乗ってやるよ!」

 

『嘘をつかない』ことを信条とするグリードは、自分の発言を翻さなかった。

 

 

「……ハァ。10年でも足りんかもなぁ……」

 

ラストに続いてグリードの分も吸収して、掌の中に隠しきれないほどの大きさになった賢者の石を見てヒノカミは深いため息をついた。




グリードに譲ったのはドラゴンボールの世界、人造人間17号と18号に組み込まれた生体部品製の無限エネルギー炉、その劣化版です。
そのまま組み込んだらグリードの体の方が耐え切れなくて爆散するので、出力は原作グリードと同等レベルまで抑え込まれています。
強くはありますが無敵とは言えず、ヒノカミはとんでもない長命種や不死身に近い存在をいくつも知っているので、元が人外であるグリードに不老を与えることくらいは問題ないと考えています。
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