新年一発目もいつも通りでいきます。
……ただそろそろストックが無くなりそうなんですよね。
今年の年末年始は例年に比べ非常に忙しいので。
ダブリスを拠点とする、グリード率いる一派との同盟が正式に締結した。
早速ヒノカミは宣言通り彼の配下のキメラたちの調整を始めた。
彼の部下たちから『人間に戻してくれ』という者は出なかった。
いや、『戻りたい』という者はいたが『この戦いが終わるまではキメラとしての力を手放せない』と辞退した。
彼らの中に埋め込まれていた人間でない因子を改変し、ヒーローの世界にあった異形系個性とほぼ同じ形に押し込めた。
肉体に適合させ、異物ではなく完全な自身の一部に作り替えた。
鍛え上げれば能力は成長し、普通の人間と子を成すことも可能だろう。
おそらく劣性遺伝子として子に継承はされないだろうが、億が一くらいは異形系個性持ちとして生まれてくる可能性もあるかもしれない。
受けた恩と、軍への恨み、何より主であるグリードが認めたことによりグリード一派もまた打倒ホムンクルスを掲げる陣営に喜んで加わったが、彼らの人員は数十人規模。
見た目の異常さもあり、リゼンブールに連れ帰れば確実に騒動になる。
なので彼らは引き続きダブリスに潜伏してもらい、いずれ訪れる決戦に備えてもらう予定だ。
ただしヒノカミたちがイズミを連れて帰還した後にマスタングたちとの二度目の会合を行う予定なので、顔合わせのためにも頭目であるグリードにはそちらには参加してもらいたい。
よって彼にはイズミらと共に一度リゼンブールに同行してもらい、後で彼だけを転移でダブリスに帰す手筈となった。
そして数日が経過しイズミたちの準備が整いリゼンブールへの転移を敢行する日の朝。
「グリードさん!姐さん方!」
「おう、どうしたビドー」
グリードの手下であるトカゲのキメラが現れた。
「お耳に入れておきたいことがありやして。
妙な連中がこの街に入って来たんでさぁ。
進む方角から察するに、ここへ向かって来てんのかもしれねぇんです」
「妙な連中?その表現では軍ではないようじゃが?」
「腰に刀を下げた黒髪糸目の男が一人と、その陰に仮面を着けた護衛らしき黒ずくめが二人。
服装や言葉の訛りからおそらくシンの人間ですが、堅気たぁ思えねぇ」
アメストリスとシンの間には東の大砂漠があり、移動はそれを超えて行うことになる。
鉄道はあるにはあるが本数は少なく、砂漠の嵐の影響で使えなくなることが多い。
後は海路か、馬とラクダと徒歩……いずれにしても簡単に行き来できる状況ではない。
「シンの人間だったらホムンクルスとは無関係か……でもこっちに向かってるってのが気にかかるな」
「…………ふむ、この連中か。確かにこちらへ向かってきておる」
掌を叩いて一瞬だけ領域を発動させたヒノカミは、内側の情報を読み取り対象の気配を記憶した。
大通りだけでなく脇道や裏路地を何度も曲がって、まるでこちらへの最短距離で向かおうとしているような。
「僕たちと同じようにホムンクルスの気配を察する能力を持っているんでしょうか?
それでグリードさんに気付いて……」
「だとしても今の連中の座標からここまでの距離でホムンクルスを察知するのは儂でも無理じゃ。
そして儂以上の能力者がいるとは考えにくい」
「んなこたぁいいから、そいつらどうすんだよ。やっちまうか?」
「アタシらの街で余計な流血沙汰起こすんじゃないよ。
転移ってのでさっさとリゼンブールに行っちまえばいいだろ?」
「でも師匠、もしそれで連中がリゼンブールまで追いかけてきたら厄介だぜ?」
「……確かにそうだな」
「えぇい、誰かは知らんが余計な面倒ごとを……!」
こうして議論している間にも、連中の気配は少しずつ近づいてくる。
「……シグ殿、メイスン殿。お二人に対応をお願いしたい。
なんとか連中を追い返していただけぬだろうか。
不可能なら目的を暴いてほしい。
我らは別室に待機する。無論、荒事になりそうならすぐに参じますので」
「「わかった」」
十数分後、肉屋のカーティスの扉を開いて一人の男が現れる。
「……らっしゃい」
「お兄さん、表の張り紙見えなかったかい?
ウチは暫く休業するんだ。悪いけどお引き取り願えるかな?」
「…………」
聞いた通りの特徴の男が、無言で佇んでいる。
「……お兄さん?」
メイスンがもう一度声をかけ、隣の部屋に隠れている面々が警戒レベルを上げる。
シグもまた生来の強面に強い敵意を込めて睨みつけたところで。
バターン
男は音を立てて前へと倒れた。
「お兄さん!?」
善人のメイスンが『演技かもしれない』という考えなど思い至りもせずに駆け寄ると、男はかすれた声で言葉を振り絞った。
「腹……減っタ……。何カ、食べ物ヲ…………!」
「「…………」」
二人は食品を扱う肉屋のカーティスの店員。事情はわからないが飢えた人間を見過ごすことなどできない。
引っ越しのために部屋の隅にまとめていた荷物から最低限の道具と材料を取り出し、あり合わせのメシを作って食わせてやった。
「いやー助かっタ!アンタ方命の恩人ダ!」
「あぁそうかい……そんじゃ、改めてお引き取りを。
ウチは今から引っ越しするところなんだからね」
呆れ果てながらもメイスンは退出を促すが。
「それはできなイ。オレはここにおられるお方に用があル」
「お方?用?」
「その扉の向こうニいらっしゃるのだろウ?」
(((!?)))
それが聞き耳を立てている自分たちの中の誰かを指しているのだと気付いたエルリック兄弟は核鉄を取り出し、ヒノカミもまた赤い石剣を握った。
さらにいつの間にかその男の護衛と目される黒づくめの二人が店の中にいて、男の後ろに控えていた。
「……なんのことかな?」
「オレは大砂漠を超えてアメストリスに来タ。
そしてすぐに気付いたんダ。この地に……」
「『神が顕現している』ト!」
「「「…………あ」」」
エルリック兄弟とヒノカミの表情が固まった。
それを知らずにシンからの来訪者は興奮を隠さず言葉を続ける。
「例えるならバ、『地上に降りた太陽』!
これほどの熱と輝キ、神以外が放てるものカ!!」
「「…………」」
かつてリゼンブールでの修行により人の気配や、魂の圧力と言った目に見えない力を感知する能力を身につけたエルリック兄弟は、直後目の前にいたヒノカミの霊圧を受けて昏倒した。
その時に、同じ感想を抱いたものだ。『目の前に太陽があるようだ』と。
以降エドワードたちはずっとヒノカミと一緒にいるが、こんな馬鹿でかい存在、例え国の端にいたって嫌でも気付くだろう。
そして『相手が自分たちと同じように気配を察する能力を持っているのかもしれない』というアルフォンスの推測が正しかったとしたら。
「オレはオレの部族を救うための方法を探し求めてこの国に来タ!
これほどの力をお持ちの神であれば知っているはずなンダ!
どうか、どうか神にお目通り願いたイ!!」
男と護衛が揃って床に指を突き頭を下げる。
そして扉の向こうでは。
「神……太陽……?」
「……状況はよくわからないのだけれど、坊やたちの反応を見る限り?」
「このタイミングで余計な面倒ごとを呼び込んだ原因ってのは……」
「テメェじゃねぇかぁ!!!」
「腑に落ちないけどなんかすまん!!」
原作ではリンたち一行はラッシュバレーにいましたが、本作ではヒノカミの力を察知してダブリスの方に来ました。
2つの街の距離は近く、十分にあり得る話かと。