リンたちと同じく大砂漠を超えてきたメイが辿り着いたのは、アメストリス東部のユースウェル炭鉱。
当初は彼女もこの国の南部から感じる巨大な気配を目指そうかと考えていたが、鉱夫たちからかつて炭鉱を訪れたやり手の錬金術師『エルリック兄弟』の話を聞き、シンの錬丹術師として彼に師事したいと考えた。
彼女にとって幸いと言うか、中央のアメストリスの軍人が彼らの行方を捜しており、その故郷が炭鉱からもほど近いリゼンブールという街であることもすぐにわかった。
メイはエルリック家を訪ねたが不在であり、次いでエルリック兄弟と親しいというロックベル家を訪ねた。
この国の中央軍の危険性を知り軍人たち相手には白を切ったピナコたちだが、小さな熊猫だけを供にして過酷な旅をする異国の少女が軍の関係者とも思えず、エドワードたちが帰ってくるまで面倒を見てやることにした。
ロックベルの面々はヒノカミという『神』の存在を知っている。
メイが気にかけている巨大な気配が彼女だとすぐに気付き、神もまたエルリック兄弟と一緒にリゼンブールに戻ってくる予定と聞いたメイは運命すら感じていた。
そして巨大な気配がリゼンブールに現れたことを察知したメイは、ウィンリィを連れて改めてエルリック家を訪れたのだが。
「こんなチンチクリンだったなんテ……!」
「んだとこのクソガキャーーー!!」
どうやらメイはエドワードのことを『高身長で金髪碧眼で紳士の美少年』と思い込んでいたらしい。
情報はどこにでも転がっていたというのに直接会うまで気付かなかったとは、『恋は盲目』とはよく言ったものだ。
「……そしてアナタが神さまですカ!?」
「んむ……あ、今は変装のために男物の服を着ておるが女じゃからな?」
「「「「えぇっ!?」」」」
「……そんなに驚くほど女に見えんか……?」
先ほどであったばかりのリンたちも含め、シンからきた4人組が一斉に反応した。
ヒノカミの後ろでグリードが爆笑しており、隣のラストも口元に手を添え後ろを向き震えている。
「ゴホン……神サマ!どうかチャン家の未来ヲ……!」
「断る」
「なんデェ!?」
既にリンから事情を聴いているヒノカミは、メイに対しても彼らと同じ対応を取った。
リン・ヤオとその配下たちにとってメイ・チャンは政敵、本来なら殺し合いを始めるところだが神から『余計な争いを起こすな』と厳命されているため渋い顔をして押し留まっている。
そしてヤオ家の人間に気付いて武器を構えようとしたメイもまた、神に睨みつけられ動きを止めた。
「……お互い色々言いたいことはあるようじゃが、積もる話は後じゃ。
ウィンリィ、ユーリとサラは今家におるか?」
「父さんと母さん?もちろんいるけど……」
「あ~~、悪いだけどアタシを見てもらえないかなってさ」
「!?すぐにタンカ持ってきます!」
「いや、俺が抱えて運ぶ!」
「歩けるから!アンタも張り合わなくていいから!」
お腹の大きなイズミを見て状況を察したウィンリィは、大慌てで飛び出そうとして引き止められる。
今は入院患者もおらず部屋も空いているということで、しばらくはイズミら3人とリンたち、そして引き続きメイもロックベル家のお世話になることにした。
この場にいれば軍の来訪を察知することができるとヒノカミが言うので、家を荒らされてしまったエルリック兄弟とマルコー、ラストも同様に一旦そちらへ。
グリードはエルリック家で一泊する予定だったのでこうなった以上彼もロックベル家に誘うしかないのだが、それをエドワードたちが言い出す前に堂々と歩いていく辺り流石のふてぶてしさだ。
その夜、早速ヒノカミらは通信を繋げて2回目の会合を開いていた。
セントラルに移ったマスタングだが、今のところ露骨な監視や干渉はないとのこと。
ヒューズも同様だそうだ。どうやらまだホムンクルスらには彼らが内情を把握しているということを把握されていないらしい。
アームストロングは一度ブリッグズに向かい姉のオリヴィエ・ミラ・アームストロング少将と接触したそうだが、女傑である姉は性根が甘すぎる弟に対して非常に厳しく、十分な協力関係は築けなかったそうだ。
しかし間もなく北で大規模な戦闘が起きるという点だけは信じてもらえたらしい。
ヒノカミらも軍が人間を使ったキメラを大勢作り出しており、軍から脱走したキメラとそれを統率するホムンクルスを味方につけたと報告した。
そしてヒノカミ達が密室で会合をしている最中、完全な部外者であるリンと二人の配下がベランダから夜空を見上げていた。
『……もどかしいものだな。
探していた物がすぐそこにあるのに、手に入らないというのは』
『あぁまで拒絶されては交渉すらできませぬな』
『交渉も何も、あの方の言った通りなのだろう。
神が欲する品など人間に用意できるはずはないということだな』
『……我らの命を捧げても無駄でしょうか』
『やめろランファン。神への供物と言えば生贄は定番だが、あの方はそういった行いを嫌うと見た』
『しかしチャン家まで動き出している。おそらく他の氏族も。
無意味に時間を浪費するわけには……』
『わかっている。だが頭を下げるだけでは何度やっても無駄だろう。
明確な答えを用意してからでなければ……』
「なんだテメェら、まだグダグダやってんのかよ」
リンたちが話し合う場に、マスタングらへの紹介を終えて一足先に抜け出して来たグリードがやってきた。
「つぅか、さっさと宣言すりゃいいだろ?
仮にも一国の王になろうって男が何二の足踏んでんだ?」
「……宣言、トハ?」
「はぁ?」
母国語をやめアメストリスの言葉で聞き返したリンに、グリードは思わず呆れ果てる。
「まさかてめぇら気付いてねぇのか?
あの甘ちゃん、ほとんど答え言ってたじゃねぇか」
「ナ……答えヲ!?」
「それハ一体!?」
「聞けばなんでも答えてもらえると思ってんのか?
……だがまぁ、優し~いオレさまが特別にヒントを教えてやろう」
グリードはにやけ面でリンへと迫り、目の前に指を突き付ける。
「『強欲になれ』。
強請れ、勝ち取れ、与えられるだけで満足すんじゃねぇ」
「強欲……!?」
「せいぜい考えな、クソガキども。
早くしねぇとあのちっこい嬢ちゃんが先に答えを出しちまうぞぉ~~。ガハハハハハ!」
言いたいことだけ言って、グリードは3人に背を向けて立ち去ってしまった。
『……どういうことでしょうか?』
『わからん。だがあの男は本当にオレたちが気付いていると思い込んでいたようだった。
神の発言とあのヒントとやらが答えに繋がるのは間違いないようだ』
そしてリンは口元に手を当て、記憶を反芻する。
(覇権争い……犠牲が出る……かもしれない方法なら……宣言……『強欲に』……っ!?)
『若……?』
『は、ハハハハハ!なんだ、そういうことか!』
『何かわかったのですか!?』
グリードの言った通りだった。
そしてエルリック兄弟の言う通りでもあった。
突き放すように見えて、あの神は相当に自分たちに甘い対応を取っていたのだ。
『あぁ……神が望んでいたのは見返りではない。
本当に簡単な答えだったんだ』
ただその言葉を口にするのは、決して簡単ではないというだけで。
――――……
翌朝、目を覚ましたエドたちやロックベル家の皆が大部屋に集まると、リンと配下の二人が並んで正座し待ち構えていた。
「神ヨ、改めてお願い申し上げル。
オレがシンの皇帝となるためニ、力をお貸しいただきたイ」
「……日を改めようと同じ事じゃ。儂は……」
「オレがシンの皇帝になった暁ニハ!!」
ヒノカミの返答を遮り、この場にいる全員に聞こえるように、高らかに宣言する。
「シンに住まう全ての部族を、王として守り抜くと誓ウ!!」
「「「!?」」」
「……ヒッヒヒヒ」
メイだけでなくエドワードやイズミたちが驚愕で言葉を失う中、グリードだけが満足そうに嗤う声が響く。
「……全ての部族を?」
「そうダ!他の民族を政敵として排除せズ、我が一族と同様に庇護スル!
無論そこにいるメイ・チャンの一族もダ!」
「ナ……!?」
「……言うほど容易いことではないぞ?」
「ダガ、これがアナタの望む答えだろウ!?
『誰も犠牲にしない方法』ダ……お言葉通リ、一考していただク!」
頭を下げる部下二人とは対照的に、リンは強気な表情でヒノカミの眼を真っすぐに見上げていた。
「……己を殺しに来た相手や平和を乱す輩まで守る必要はないとは思うがな」
「!?デハ!」
「よかろう。貴様が誓いを掲げ続ける限り、儂は貴様の覇道に手を貸そう。
アメストリスの騒動が終われば直ちにシンへと赴くと約束する」
「……アリガトウゴザイマス!!」
そこでようやく、リンも部下に倣って深々と頭を下げた。
そしてアメストリスの騒動を速やかに解決するためにもリンと配下たち、そしてメイはヒノカミらに協力することとなった。