『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第21話

 

グリードにもスカウターを貸してダブリスに帰した後、ヒノカミは単独で行動を開始した。

目的はお父様とやらの計画の進捗状況の確認。

国土錬成陣の起点となる血の紋が刻まれた各地を巡り、詳細の把握に努めている。

これは隠密調査であり、であれば彼女一人の方がスムーズに事が運ぶ。

何をやっても目立ち気味でトラブルメーカーなのはエドワードも同じだが、騒動になった時に対処できる能力がヒノカミには有り彼には無い。

 

エドワードとアルフォンスはマルコー、ラスト、シンの4人と共にエルリック家地下のシェルターに潜伏し爪を研いでいる。

研いではいるのだが……『人目につかないから』とブレーキが壊れたヒノカミが全力で創り上げたこの秘密基地は、とんでもなく快適だった。

100年どころか1000年は進んでいるのではないかと思える科学技術が用いられており、『ずっと地下暮らしで気が滅入るだろう』と嗜好品や娯楽が充実している。

気を抜いたらどこまでも堕落してしまいそうだ。

ちなみに『ウィンリィには絶対に教えるな』と厳命されている。

理由は『勝手に機械を分解して解析しようとするから』だとか。

エルリック兄弟はすごく納得していた。

 

 

 

『……では、その地下トンネルとやらが開通するまでは安全だと?』

 

「あぁ。基点があっても円陣が無ければ術は発動できまい。

 この点についてはマルコー氏の見解も一致している。

 このペースなら冬が空ける頃か……」

 

『スロウスのノロマがやってんなら、サボってもう少し伸びるかもしれねぇなぁ。ガハハハ』

 

『だったらいいんだが、期待はしねぇ方がいいだろうな』

 

『となると、冬の間に行動に移さねばならんか……』

 

ヒノカミの調査の結果、アメストリス国境をなぞる様に地下に巨大なトンネルが現在進行形で作られていることが発覚。

そして穴の先端からはホムンクルスの気配。

これが国土錬成陣の円陣の代わりであるようだ。

北のドラクマの動きも活発化しており、近々ブリッグズとの大規模な衝突があると予想している。

トンネルが繋がって円陣となり、最後の血の紋が刻まれれば、いつ国土錬成陣が発動してもおかしくはない。

 

これを止める方法を議論した結果、挙がった案は3つ。

 

一つ。トンネルを完成させない。

簡単な地震でも起こして崩落させてもいいし、作業中のホムンクルスを排除してもいい。

しかし怠け者のスロウスがサボらないように定期的に掘削作業を監視している者がいるらしく、問題が起きればすぐに気付くだろう。

先んじて潰しても、敵は軍全体を動かせるのだ。

適当な理由をでっち上げて軍人に作業させればすぐに元通り。効果は薄いと判断した。

 

一つ。血の紋を消す。

特に一番最初に血の紋が刻まれたリヴィエラはかなり薄まっているらしく、その気になればすぐに浄化できるとか。

しかしその地域全体を白き炎で包むというやり方になるので非常に目立ち、確実に軍の捜査が入る。

そこで血の紋が消去されたと気付けば、またその地で騒動を起こしまた多くの犠牲を出すだろう。

よってこれも却下。

 

一つ。お父様とやらをぶっ飛ばす。

ヒノカミがセントラルにて広域調査を行い、軍司令部の地下深くにとんでもない大物の気配を感じ取った。

近くには普通のホムンクルスの気配もあり、これがお父様であることは間違いないだろう。

しかし連中の拠点には行ったことがないので直接転移はできず奇襲は不可能、戦闘になれば大規模な破壊を伴うだろう。

当然、その上にあるセントラルシティはただでは済まない。

住民を人質に取られているようなものなのでこれもボツ。

 

 

(……手段さえ選ばなければ、どうとでもできるというわけよね……)

 

情報収集のために毎回会議に同席し黙って議論を聞いているラストは、この神を自称する小娘ならばそんな荒唐無稽な力技で解決可能なのだと、流石に信じるしかなくなっていた。

 

マスタングら軍人には『簡易武装錬金』とか言う、ホムンクルスにダメージを与える小銃を配り終えている。

調整されたグリードの部下のキメラは己の力を高め続けている。

シン国から来た王族とその配下も侮れない。

エルリック兄弟は単独でホムンクルスに匹敵すると身を持って体感済み。

 

対してホムンクルス陣営は離反したグリードに続いてラストも脱落。

計画のほぼ全てが露呈しており情報が洩れていることに気付くこともできていない。

何より肝心な『人柱』が、どうやらまだ一人も見つかっていない。

一人か二人くらいなら配下の錬金術師に無理やり扉を開けさせて用意できるが、必要な数は5人だ。

エルリック兄弟とその師イズミはその資格があるのだが、そうと知っているラストは情報を持ち帰ることもできずにいる。

 

(……虚しくなってくるわね)

 

『あぁクソ、マジで打つ手がねぇ!先んじて動くならやっぱ3番目か?

 錬成陣が発動する兆候が見られたら速攻で1か2もできるんだよな?』

 

「その点は問題ない。最初からそのつもりじゃ」

 

『しかし我輩ら3人では一般人の避難すらもおぼつきませぬ。

 部下たちに命じてもすぐに上が動いて封殺されましょう』

 

『施設の一つや二つなら『凶悪犯が逃げ込んだ』とでもなんでも嘯けば済むが、セントラル丸ごととなると説得力のある理由が必須だ』

 

「…………あ」

 

『オレとキメラたちで奇襲仕掛けてやろうか?』

 

『君たちの力を理解している我々ならともかく、少数のテロリストの襲撃では民衆は避難させるには説得力が弱いな。

 中央軍が何とかしてくれると考えるだろうし、できなければそれはそれで問題だ』

 

「あぁいや待った!ちょいと待った!」

 

『どうした?』

 

誰も己の呟きに気付かず話が進んでいたので、ヒノカミは無理やり割り込み会話を止める。

 

「いやー……そのー……う~~~む」

 

『『『?』』』

 

『……あー』

 

グリードは気付いたが、約束通り口にはしなかった。

アメストリス国が丸ごと動かざるを得なくなる特級の犯罪者が、未だに国中に手配書が張り出されている『イシュヴァールの鬼神』の正体が、自分たちのモニターに映し出されている小娘であることを。

もし鬼神が堂々とセントラルに乗り込んで来たら中央軍は全力で対処しようとするだろうし、軍の誘導に従って住民全てが自主的に避難を始めるだろう。

そして軍全てを相手にしようが問題ないのでそのままお父様のところまで殴りこんで始末してしまえばいい。

全て終わった後で国は相当に荒れるだろうが……国そのものが無くなるよりは遥かにいい。

 

しかし、明かしてよいものか。

何しろマスタングもヒューズもアームストロングも、イシュヴァール内乱にて鬼神と戦闘し敗北している。

しかもただ負けたのではなく、手も足も出ずに蹂躙された上に情けで見逃されたという屈辱的かつ圧倒的な敗北。

彼ら自身は生き残ったが鬼神に殺された軍人はいくらでもいて、その中には彼らと親しい者もいただろう。

今は『内乱を起こしたのが軍だ』ということを理解している点を差し引いてもいい顔はするまい。

彼らの性格を思えばヒューズとアームストロングは飲み込んでいるかもしれないが、マスタングは絶対に根に持っている。

ヒノカミが鬼神と知っても国を救うためならと割り切るだろうが、決戦を前にして時間をかけて築いてきた関係にひびを入れるのは好ましくない。

 

(……いや、儂がなぁなぁで済ませたいだけじゃろうな)

 

ただ単純にヒノカミが、彼らに嫌われるのが嫌なだけなんだろう。

どうしても必要ならばその覚悟はある。だが誰が好き好んで、好き好んだ相手に嫌われたいと思うものか。

 

(当時の儂が内乱の裏事情まで把握しようとせず、安易に軍全てを敵を見なして排除した結果か。

 その選択を後悔はしておらんが……結果は受け入れねばな)

 

自嘲気味に笑ったヒノカミは懐から鬼の仮面を取り出そうとして。

 

 

 

 

「……会議を中断!いや、映像を切り替える!

 時間があるならそのまま繋いでおれ!」

 

『ぬ!?突然どうしたのだ!?』

 

仮面の代わりにスカウターを取り出して耳につけ、そちらが映した映像を彼らに送る形に設定を切り替える。

 

「結界に反応有!リゼンブールにホムンクルスが侵入してきた!」

 

『なんだと!?』

 

『エンヴィーか?グラトニーか?』

 

「……その上じゃよ!」

 

『『『『!?』』』』

 

「……待ちなさいヒノカミ。まさか……!?」

 

ラストの問いかけを無視して侵入者がいる方向へとスカウターを向ける。

 

武装した一般人が1桁。

並みの国家錬金術師や鍛え上げた軍人が十数。

エドワードやアルフォンス、グリードが50そこそこ。

対してヒノカミのスカウターに表示された戦闘力は……3桁に達している。

 

 

「以前セントラル地下から感じたものと同質の……数十万もの魂が内包し渦巻く魂を持つ者!

 こんな奴がこの世界に二人もいてたまるか!

 乗り込んできやがったんじゃよ……『お父様』とやらが!!」

 

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