『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第22話 父

 

ヒノカミから報告を受けたエルリック兄弟たちは、地下シェルターの外に出た瞬間に恐ろしい霊圧を感知した。

気を感知する能力を持ったシンからの来訪者4人も同様だ。

正直信じがたかったが、『ホムンクルスの親玉が単身リゼンブールに攻めてきた』という彼女の言葉が真実であると確信する。

 

「コイツが、『お父様』とやらの気……!」

 

(こんなところにお一人で……本当にお父様なの?

 でもコイツが根拠もなく断言するとも思えないし、坊やたちの反応も……)

 

「確かにコレは桁が違ウ!

 一体中に何人……いや何万人いるンダ!?」

 

「声を落とせ。心を乱すな、気配が漏れる」

 

今8人は物陰に隠れて息を潜め、周囲に何もない野道を歩いて近づいてくる何かが射程に入るのを待っている。

そして未だ離れた場所にいる相手が最後の一歩を踏み出したと察知した瞬間に。

 

「疾っ!」

 

ヒノカミが掌を叩きつけ領域を展開し、相手を内側に閉じ込めた。

予め周囲に他の人間の気配がないことは確認済みだ。

 

ヒノカミは隠れて敵の逃亡と増援の乱入を防ぎつつ、内側にいる味方のサポートに専念する。

監視のためにラストも連れてきているが体の一部に捕縛布を結び付けている。

仮に抵抗しても空中に吊るし上げればわずかな妨害すらできまい。

戦闘のメインはエドワードとアルフォンスの二人。

ホムンクルスの親玉ならば配下と同様に武装錬金が有効であるはず。

リン、フー、ランファン、メイは二人のサポート。

察知能力に優れた彼らなら、少なくとも足手まといにはならない。

 

「この中なら手足がもげようとすぐに治してやれる!行ってこい!」

 

「「おう!」」

 

すでに相手も異常には気付いているはず。

物陰から飛び出したエドワードとアルフォンスが遠く離れた気配めがけて矢のように走り出した。

リンたちはその後に続き、ヒノカミとラストは彼らの後方を身を隠しながら進む。

 

遮蔽物のない草原を駆けて、駆けて、駆け抜けて。

異形の魂を抱えた存在の人影が見えてきて。

しかしその姿を目にしたエルリック兄弟は飛び掛かるどころか速度を落とし、静止してしまう。

 

 

 

「……エド、ワード?そっちは、アルフォンスか?」

 

 

「ヴァン……ホーエンハイム……!?」

「父さん……!?」

 

「「「!?」」」

 

 

 

『エルリック兄弟の……父親ですと!?』

 

『確かに、彼らが持っていた写真と同じ男……!』

 

『冗談だろ!?……なぁグリード!』

 

『あのツラ、間違いねぇよ。オレらを産み出した親父殿だぜ』

 

物陰に隠れながら覗き見ているヒノカミのスカウターが男の姿を捕らえ、中継でその映像を見ている者たちの声がスカウターから響いてくる。

 

(魂の質は、間違いなくセントラルにいた輩と一致しておる……いやわずかに違う気がせんでもないが、双子でもここまで類似するはずがない!)

 

そしてホムンクルスと同じく、あの男から感じる大勢の魂の気配。

無関係、他人の空似という説はありえない。十中八九本人だ。

同じ結論に至っているだろうエドワードは驚愕で目を見開き硬直していたが、歯を食いしばり白銀の槍を構えて突き付ける。

 

「おいおいなんだよ、物騒だなぁ。

 嫌われてる自覚はあるけど、仮にも父親にいきなり武器と殺意を向けるなよ」

 

「うるせぇっ!!なんでテメェから『賢者の石』と同じ気配がしてんだ!!」

 

とぼけた顔をしていたホーエンハイムが硬直し、次いで瞳の奥に鋭い光を宿らせる。

 

「おまえ……どこまで知ってる……?」

 

「いいから答えろ!テメェは一体何なんだ!?

 何人の人を犠牲にしたんだ!?」

 

 

 

「……53万6329人だ」

 

「「!?」」

 

「オレは……『化け物』だよ」

 

 

 

ガキィンッ!!!

 

 

「止めるな、アル!」

 

「ダメだ兄さん!母さんが悲しむよ!」

 

ホーエンハイムに肉薄し武装錬金を振り下ろしたエドワードを、同じく武装錬金を発動させたアルフォンスが阻んでいた。

 

「……~っ、だがコイツは!この国のみんなを!

 ピナコばっちゃんやウィンリィを……母さんを騙してたんだぞ!?」

 

「っ!?それは……っ」

 

実の息子から殺される寸前でさえ、ホーエンハイムは表情を変えず言い訳もしなかった。

 

「神ヨ、我々は一体どうすれバ……!?」

 

「……いや、ちょっと待て!おかしいじゃろ!?」

 

状況について行けないリンたちがヒノカミに尋ねるが、彼女もまた情報を整理しきれず困惑している。

 

グリードやラストは、彼らの『お父様』は『始まりのホムンクルス』であると明言している。

『ホムンクルス』は『生殖能力』を持たない。子供を産めないのだ。

他のホムンクルスは『お父様』とやらが自分の魂から切り離した感情から生み出した、自分自身の一部であり分身。

父と呼ばせているが子供ではない。

 

しかしエルリック兄弟とホーエンハイムは揃って金色の髪と金色の瞳。

この国どころかこの世界全体でも非常に珍しい特徴であり、顔つきにも面影がある。

魂の歪さから気付かなかったが、こうして並べば霊圧が似通ってもいる。

エドワードとアルフォンスは間違いなく人間であり、どう見てもホーエンハイムの血縁だ。

 

妊娠したトリシャからエルリック兄弟を取り上げたのはピナコだと聞いている。

ピナコが嘘をつく理由がなく、であれば子を成したホーエンハイムはホムンクルスではないことになる。

だがホーエンハイムの気配はセントラルの地下から感じた『お父様』とやらと、魂が同一人物としか思えないほど酷似していて……。

 

 

「止まりなさい、エドワード・エルリック。

 その男は『お父様』ではないわ」

 

 

「「「……はぁっ!?」」」

 

困惑するヒノカミの隙を突いて物陰から出て来たラストが、この場の皆に伝わるように断言する。

 

「どういうことですか、ラストさん!」

 

「アナタたちが父親を捜して旅していたとは聞いていたけど……名前を聞いていなかったのは失敗だったわね。

 でもオマエの子だというなら、どこか納得したわ。ヴァン・ホーエンハイム」

 

「お嬢さん、アンタは……!?」

 

「……この子たちは『お父様』のことを知っている。

 そして『お父様』もこの子たちを狙っているわ。

 とっくに巻き込まれているのよ……誤解を解きたいのなら包み隠さず全てを話すことね」

 

「……そう、か。……そうだな……わかった」

 

ホーエンハイムは脱力し、エドワードも困惑しながら槍を降ろした。

どうやら敵ではなかったらしいとヒノカミも領域を解除し、隣を見上げる。

 

「……ラスト。何故口を出してまで止めた?

 先ほどの状況、放置し不和を広がるのを待つ方がそちらには都合が良かったのではないか?」

 

 

「さぁ……何故かしらね?」

 

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