『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第23話 親

 

昔々、今のアメストリスとシンの間の大砂漠があった場所には、『クセルクセス』という巨大な王国がありました。

そこにはとある錬金術師の主人に仕える、奴隷の少年が暮らしていました。

 

ある時主人が奴隷の少年の血を使い、錬金術の実験を行いました。

実験は成功し、膨大な知識を持つ生命体……『フラスコの中の小人(ホムンクルス)』が誕生しました。

 

『フラスコの中の小人』は自分に血を分けてくれた奴隷の少年に名を与え、知識を与え、結果的に地位を与えました。

奴隷の少年は錬金術師の青年となり、豊かで自由な暮らしができるようになりました。

 

そんなある日のことです。

『フラスコの中の小人』は年老いたクセルクセス王に呼び出され、不老不死となる方法を教えろと迫られました。

断ればフラスコをたたき割ると脅迫されました。

フラスコの外に出たら死んでしまう彼は、王に不老不死となる方法を教えました。

 

王は『フラスコの中の小人』の言う通り、クセルクセスに国土錬成陣を作りました。

国民を犠牲にする方法であることは、国民や錬金術師の青年にも秘密にして。

 

全ての準備が整った日、王やその臣下たちがついに儀式を開始しました。

すると国中の生物が魂を抜き取られていきました。

術を発動したはずの王とその臣下たちでさえも。

 

『フラスコの中の小人』は皆を騙していました。

術の効果が及ばない錬成陣の中心位置を、ずらして伝えていたのです。

そして自分の入ったフラスコを抱える錬金術師の青年を誘導して本当の錬成陣の中心に立たせ、自分の中にある青年の血を使って術を発動させていたのです。

結果、術により吸い出された国民たちの命は『フラスコの中の小人』と錬金術師の青年へと流れ込んでいきました。

 

こうして、クセルクセスという国は一夜にして滅びを迎えました。

100万人を超えるクセルクセスの国民の命、その半分を手に入れた『フラスコの中の小人』は血を分けた家族ともいえる錬金術師の青年を模倣した肉体を手に入れ、窮屈なフラスコの外に出ることができました。

残り半分の命を流し込まれた青年は、老いることも朽ちることもない体を手に入れました。

それと引き換えに他の全てを失い、人間ですらなくなってしまった化け物は、今もこの世界をさまよっているのです。

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

「その元奴隷の錬金術師が……父さん……!?」

 

「そういうことに、なるなぁ」

 

「んで、その『フラスコの中の小人』が『お父様』か。

 クローン同然なら魂の質が酷似するのも当然……まさか本当にこんな奴がこの世界に二人もおるとはな」

 

『『『…………』』』

 

スカウターの向こうにいるアメストリス軍人たちは言葉を失っている。

紀元前……少なくとも2000年以上前の話だ。

クセルクセスという古代王国が滅びた理由は歴史の謎とされていたが、まさか当事者から直接話を聞くことになるとは。

 

「……待て!じゃあオレとアルは!」

 

「お前たちは間違いなく人間だよ。

 俺とは違って、ちゃんと年取って成長してるだろ?

 ……成長、してるか?」

 

「んだとゴルァ!!ちゃんと身長伸びとるわ!」

 

「はは……ずっとずっと生きてきた。

 この体のことも、随分前に割り切ったと、思っていたんだ。

 だがトリシャと出会い、お前たちが産まれて……成長していく自分の子供たちを見て、急に恐ろしくなったよ。

 ……『ああ、俺は本当に化け物なんだな』って」

 

全ては己の過ちの結果として受け入れ、この身体のまま生きていくつもりだった。

だがホーエンハイムは妻と、子供たちと一緒に老いて死にたいと願った。

そして彼は人間に戻るための研究を始めた。

成果は出なかったがその過程で彼は国土錬成陣の存在と、アメストリスという国が『フラスコの中の小人』により作られたものだと気づいた。

 

止めなければ。それが己の義務であり責務。

奴を産み出し、その悪行に加担してしまった者としての。

アメストリスをクセルクセスの二の舞にしないためにも。

 

「だから、母さんを置いて出てったってのか……!」

 

「トリシャ……もう少しだったんだ。なのに……」

 

「……っ」

 

見つけたら思いっきりぶん殴ると決めていた。

母を、息子である自分たちを置いて失踪したこの男を。

しかしそれは家族と、この国の人々を守るためだった。

エドワードは握りしめた拳を、ホーエンハイムへと振り下ろすことができなかった。

 

 

 

「たわけぇーーーーっ!!」

 

「ゴバァッ!?」

 

「……何してんだテメェーーーー!!」

 

対して一切の躊躇いもなく拳を振りぬいたヒノカミは、吹き飛ばされて地面を転がったホーエンハイムへと、威圧感を放ちながら一歩ずつ近づいていく。

 

「なぁにが『自分の子供』じゃ。エドワードたちから聞いたぞ?

 貴様は研究ばかりでろくに家族と触れ合うことすらなかったと」

 

「いつつ……それは……俺みたいなのが触って化け物が伝染ったら困ると思って……」

 

「それ以前の問題じゃと言うておる!

 子を成せば親になるのではない、親として振る舞って初めて親になるんじゃ!

 親は役柄ではなく生き方じゃぞ!?」

 

「生き方……?」

 

「貴様が親でいたいのなら、自分が人間だとか化け物だとか、そんな『どうでもいい』ことにこだわる前に親をやれ!」

 

「ど、どうでも!?いやでも、化け物だし……」

 

「自惚れるな小僧!貴様程度の人間なぞ儂は腐るほど見てきたわ!

 生身で空を飛べるか!?拳の一振りで地形を変えられるか!?己のエネルギーを解放すれば星が砕けるか!?

 化け物を名乗るなら最低でもこれくらいはこなしてからにせんかい!」

 

「それホントに人間かよ!?」

 

「兄さんは武装錬金使えば飛べるじゃないか」

 

「そもそも君は一体……?」

 

「儂は神の一柱じゃ!異界を渡り幾千年を生きた人より変じた神霊よ!」

 

 

「「「「「…………はぁっ!?」」」」」

 

 

『待ちたまえ!……神だと!?』

 

「ヒノカミさんって元々人間だったんですか!?」

 

「そこから何をどうすりゃ太陽神になるんだよ!!」

 

「太陽神……!オォ、やはり真の神……!」

 

『オイコラ!神様ってのもだが『異界』ってなんだ!?

 つぅか紀元前から生きてる男に小僧って……アンタ一体トシいくつだ!?』

 

「…………黙秘権を行使する!」

 

「突然何叫んでんだアンタ!?」

 

「あ、そっか。お主らにはスカウターの会話が聞こえてなかったか。

 今スピーカーモードに切り替える」

 

「やめてください!もう収集がつきませんよ!?」

 

 

 

パンパン!

 

「はいはいそこまで。この状況じゃこれ以上話が進まないでしょう?

 一旦時間をおいてから、改めて話し合いの場を設けなさい」

 

『テメェが仕切んのかよババァ』

 

「誰も止めようとしないんだから仕方ないでしょう」

 

ヒノカミのスカウターから聞こえたグリードの声に、ラストが溜息を吐くように答える。

その物憂げな所作さえもどこか妖艶さを感じるのだから困ったものだ。

 

「……ホーエンハイムが合流した以上、隠し通すこともできないわね。

 私が知ってることも全部教えてあげるわ」

 

「「「!?」」」

 

「……長丁場になりそうじゃな。

 ヒューズらは今から時間を取るのも難しかろう?

 日を改めて会議を開く。それまでにこちらで情報をまとめておく」

 

『たしかに仕事サボって奥部屋に引きこもってるわけだからな。

 そろそろ怪しまれちまうか』

 

『……全て明かしてもらうぞ。いいな』

 

『では、失礼いたします』

 

3人の軍人が通信を切り、続いてグリードも退席した。

ホーエンハイムを連れてエルリック家地下のシェルターへと戻る道の途中、ヒノカミがラストに声をかける。

 

「なぁ、何か願いはあるか?」

 

「……突然、何?」

 

「いやな。今の場でも手間をかけさせたし、情報も明かしてくれると言うしな」

 

その情報がホーエンハイムが所持しているものと同じだとしても、複数人が提示すれば正しいか否かを精査する手間が大幅に削減できる。

 

「グリードとは等価交換じゃったから、お主にも何らかの形で報いねば不公平じゃろ?

 『解放しろ』と言われても流石に応じられんが、今回の事態に問題がない範囲でなら可能な限り応じるぞ?」

 

「あらそう……考えておくわ」

 

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