ホムンクルスの『お父様』……『フラスコの中の小人』の真の目的。
それは『神』を手に入れ『完全な存在』になること。
この世界のあらゆる人間が、その内に真理に繋がる扉を持っている。
そして地球という星そのものもまた、一つの生命体に例えることができる。
この世界で最も強大な生命体である地球の真理の扉の奥にある力こそ、『この星の神』の力と言っても過言ではない。
『フラスコの中の小人』は『星の真理の扉』から神の力を引きずり出して自分の内に取り込むつもりであり、その強大すぎる力を抑え込むのに必要なエネルギーを確保するために、アメストリスという国を作り上げた。
必要十分な量の賢者の石を確保できる大きさになるまで国土を広げ、そこに住まう人間の数を増やし続けた。
「……なぁ、前に真理のヤツが『アンタにゃ敵わない』っつってたのは」
「うむ、あ奴はいわば『地球の神』じゃからな。
地球より太陽の方がデカくて強いに決まっておるではないか」
「アンタは太陽神……そういうことかよ……」
厳密にいえばヒノカミは太陽どころか宇宙全域を司るのだが、他の世界でも『日の神』と見なされることが多いので、彼女は主に『太陽神』と名乗っている。
本当は更に上だという事実まで明かしても良かったが、この世界の強度では彼女は精々『太陽』レベルの力しか使えない。
それにこの場の全員が疲れた顔をしていたし、今必要な情報でもないと途中で口を閉じた。
「……それで、どうして人間が神様に?」
「儂が存在を作り変える力を持っとるのは知っとるじゃろ?
アレで自分自身の魂を神霊に作り変えた」
もちろん、誰でも彼女のような神になれるわけではない。
人間だった頃の時点で不老不死であり、神に匹敵する力を蓄えていた彼女だからできたことだ。
「とある世界で神様が代替わりせねばならぬ状況に陥ってな。
儂の他に候補がおらなんだのでやむなく引き受け、『星の神』となった。
それから神様としてずっと仕事しとったらどんどん出世して、成れの果てがコレじゃ」
「成れの果てって……別の世界とか、本当にあるんですか?」
「お主らに渡した武器がそもそも別世界の錬金術の産物じゃよ。
そして核鉄をさらに改良したのが、その世界での『賢者の石』。
……まぁ失敗作じゃったがの」
「『武装錬金』か……アレのどこが『錬金』なんだって思っちゃいたけどさぁ!」
「くけけけ。こっちの錬金術を見た時に儂も同じ感想を抱いたの」
当時は地獄の修行から解放され、強大な力を託された喜びでそれどころではなかった。
扱いなれた頃には『神様の武器なんだろう』と思い込み、最初から埒外の存在と決めつけてそれ以上踏み込もうとしなかった。
真理を探究する錬金術師としては失格である。
真理の外側にいる輩の仕業なので、探究しても真実にたどり着けない事案だけど。
「じゃあ、仮に『フラスコの中の小人』が計画を成功させたとしても?」
「儂が仕留めて終わりじゃ。奴の野望が成就することは決してない。
しかしわざわざ力を与えてやる理由も民を危険にさらすつもりもない。
我らは引き続き奴の野望を阻むために動く。
……その『約束の日』とやらは嘘ではあるまいな?」
「えぇ。計画が実行に移されるのは次の春……『皆既日食の瞬間』よ」
この世界において『太陽』は『男性』を現し、『月』は『女性』を表す。
そして『太陽』と『月』が完全に重なることは雌雄同体……『完全な存在』を表すらしい。
この世界における『完全な存在』とはこの世界で『最も完全に近い存在』、すなわち『神』。
よって皆既日食の瞬間こそ、この世界に『神』が降臨するタイミングというわけだ。
「そして星の真理の扉を開けるには、人間の真理の扉の力が必要なのよ。
5人分の真理の扉同士をぶつけて反発させ、生じたエネルギーの反動を利用するの」
「つまり人柱ってのは、『真理の扉を開いた上で生きて戻ってきた錬金術師』ってワケか」
「僕はヒノカミさんに連れて帰ってもらったわけだけど、条件は満たしてる。
あとは兄さんと、イズミ師匠と……」
「俺もだ。クセルクセスの一件で、奴の手によって扉が開かれている」
「一応儂もか。以前お主らを迎えに真理のところに行ったから、繋がりが残っておる」
「だったら僕たちが日食の瞬間に国外に退去していれば、人柱は揃わず儀式は失敗する……!?」
「強引に扉を開かせる方法もあるわ。
犠牲や消耗があるから一人か二人が限度、何度も試せるような手段じゃないけれど。
それに星の真理の扉は開けなくても、国土錬成陣の発動なら可能よ」
「そううまくはいかねぇってことか。
やっぱり、何とかして『フラスコの中の小人』のところに突っ込んで、直接叩くしか……」
「いや、良い案を思いついたぞ」
ホーエンハイムと出会い、ラストと共に情報を開示してもらったことで思いついた策。
『国土錬成陣を発動するタイミング』と『ホーエンハイムがこの国の各地に配置した賢者の石』を利用した策だ。
ホーエンハイムはエルリック家を飛び出して10年以上、計算に計算を重ねこの国の各地に己の中にある賢者の石を配置して回ったらしい。
皆既日食の直後に生じる月の影を利用して発動する、賢者の石にされた者の魂を元の肉体に戻す錬成陣だそうだ。
大まかな座標はすでに彼から伝えられている。
そちらをヒノカミの作戦に流用させてもらえば実現は可能なはずだ。
「一体どんな作戦なんだ!?」
「それは決行直前まで秘密……と言いたいところじゃがそれでは納得すまい。
エドとアル、お主らにだけ教えてやる。ちょいとこっちへ」
自分の思考や能力をある程度把握している弟子二人なら自力で答えにたどり着く可能性もある。
なので二人には先んじて明かし、口外しないよう釘を刺しておく方が良いだろうと考えた。
……鬼……中央へ……。
……炎……領域……国を……。
……日食の……同時に……。
「…………ぶはははははは!やっぱアンタ最高だぜ!」
「げらげらげら。最高にスカッとするじゃろ?
思い上がった阿呆を突き落とした時が一番いい反応をするんじゃよ。
直接目にできないのが悔やまれるわい」
「『フラスコの中の小人』がちょっと可哀そうになりましたよ……。
でもその作戦だと、大佐たちの協力も必須ですよね?」
「うむ……すべて明かすと約束したからな。
……『コレ』のことも、伝えようと思う」
そう言ってヒノカミは懐から『鬼の仮面』を取り出した。
「……大丈夫でしょうか。大佐たちが怒って協力関係が破綻するんじゃ……」
「彼らがそこまで感情的ではないことを祈るしかあるまい。
……事が終わった後で2,3発殴られるくらいで済めばいいがな」
「ご安心ヲ。神の御身は我らが守ル。
ロイ・マスタングが次期大総統を目指すと言うなラ、シンの次期皇帝であるオレを無下にはできぬハズ」
内緒話が終わったと判断したリンたちが近づき、跪いて進言する。
「……ま、どうしても彼らの怒りが治まらぬようなら頼むとしよう。
しかしこれは儂の行いの結果であり、儂には受け止める義務がある。
深刻な亀裂が生じぬ限りは手も口も出してはならぬ。良いな?」
「「「御意」」」
この話までで必要な要素がすべてそろいました。
展開は早いですが、次回から決戦に入ります。