『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第25話 鬼神侵攻

 

約束の日を迎える、およそ1ヵ月前。

アメストリス国上層部、そして彼らを支配する『フラスコの中の小人』とホムンクルスたちの計画は最終段階に移行していた。

冬の間に北のドラクマを誘導してブリッグズに侵攻させそれを撃退する形で、アメストリスに最後の血の紋を刻み国土錬成陣は完成した。

スロウスに任せていたアメストリス地下トンネルも、先日ようやく開通した。

これで残るは約束の日が来るまでに人柱を用意するだけだ。

 

しかし彼らにとっては残念なことに、今のところ人柱となる錬金術師は一人も確保できていない。

エルリック兄弟とかいう子供とその師が候補として挙がっていたが、目を付けて間もなく尾行ともども姿を消した。

しばらく捜索したが足取りはつかめず、手配書も回してみたが目撃情報すら上がってこなかった。

兄弟の師だというヒノカミという小娘はアメストリスの人間ではなかったため、揃って国外退去した可能性が高いと判断してやむなく捜索を打ち切っていた。

当時はここまで人柱探しが難航すると思っていなかったので、もっと早くに何としても確保しておくべきだったと歯噛みしている。

 

となれば後は国家錬金術師たちに命じて扉を開けさせるしかないが、いずれも小粒ばかりで5人も帰ってこられるかどうか。

つくづく、イシュヴァールの内乱にて多くの国家錬金術師が犠牲になったことが悔やまれる。

それでも試すしかないと、ひとまず国家錬金術師全員に対して中央への召集命令を出すことに決めた。

 

しかしその直前に、聞き捨てならない報告が彼らの下に届いた。

 

『イシュヴァールの鬼神』の出現である。

 

かつて彼らがイシュヴァールで引き起こした内乱にて突如出現し、国軍に深刻な被害を出し、そして忽然と姿を消した正体不明の化け物。

しかも現れた場所はイシュヴァールがあった東部ではなく南西部。

 

アメストリスの西部と南部では、国土錬成陣を刻むために隣国にちょっかいをかけて戦争を引き起こしていた。

すでに血の紋を刻むには十分な量の血が流れているが、戦争そのものがいまだに終結していない。

そして長きに渡る戦争で西部軍と南部軍は疲弊しており、鬼神を止められる戦力などあるはずがない。

 

間もなく西部と南部のアメストリス軍は、敵国軍ごと鬼神に壊滅させられた。

鬼神はその場にいた全ての軍のありとあらゆる兵器を破壊しつくし、そのまま中央に向けて真っすぐ進んでいるという。

人的被害はほぼないが、兵器をすべて失った西部軍と南部軍は完全に無力化されている。鬼神を止められるはずがない。

軍上層部は直ちに中央軍を迎撃に向かわせたが、歩みを遅らせるだけで精一杯だった。

なぜか鬼神は軍の兵器を完膚なきまでに破壊することにこだわっており、それがなければ足止めにすらならなかっただろう。

侵攻の速度は恐ろしく早く、このままでは1週間後にはセントラルシティに到達すると予測された。

 

間もなく国土錬成陣は発動し、この国は滅びる。

ならば国境を守る必要などなく、軍司令部は国軍の戦力全てを集めて鬼神を迎撃するため東部軍と北部軍にも召集をかけた。

 

しかし北部軍と東部軍は命令に従わなかった。いや、物理的に不可能なのだ。

彼らの拠点は中央を挟んで、鬼神とは逆の位置にある。

彼らが北部と東部から出陣し中央に到着するよりも先に、南西部から進む鬼神が中央に到達する。

加えて北部軍は『先日のドラクマとの戦争の損耗により参戦不可能』と返答。

東部軍はトップのグラマン中将が『間に合わないんだから行軍自体が無駄な浪費だ』と参戦を拒絶した。

遅れて参じることすらしないという宣言であり、もはや援軍は期待できない。

 

よって中央軍のみで鬼神に対処せねばならなくなったが、すでに差し向けた戦力は消滅している。

南部・西部軍と同様にすべての兵器は破壊され、軍人たちは鬼神を追いかけることもできずそれぞれの地域で途方に暮れている。

もはや中央軍に残るのは、軍上層部が自分たちの護衛として残した表に出せない戦力のみ。

イシュヴァールの内乱のように国家錬金術師を投入することもできない。

約束の日を目前に控えた状況で、貴重な人柱候補を減らすような真似ができるはずもない。

またも鬼神に国家錬金術師を減らされては、今度こそ300年以上をかけてきた彼らの計画はとん挫する。

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

「だからってさぁ……こっちに丸投げする?」

 

「……めん……ど、くせぇ……」

 

「口答えは許しません。ここにきて小石につまずき全てが台無しになるなどあってはならない」

 

そこで『フラスコの中の小人』が選択した方法は、大総統として身動きが取れないラースを除いたホムンクルス4体による鬼神の足止めだった。

長髪の少年と、丸々と太った男と、巨躯の怪人と、黒い影を操る子供が周囲に集落の一つもない開けた荒野で待ち構える。

 

「つったってさぁ、その馬鹿は一直線にこっちに向かってくるんだろ?

 グラトニーに呑ませれば終わりじゃん」

 

「万が一に備えろと言っているのです」

 

「呑んでいい?呑んでいい?」

 

「あぁ、欠片も残さずな……お?来たね」

 

長髪の少年、エンヴィーが地平線の向こうから迫る土煙に気づく。

 

「ほらいけグラトニー。さっさと終わらせてこい」

 

「うん!」

 

太った男、グラトニーの腹が裂け巨大な口となり、その奥からは目玉が覗く。

そしてグラトニーは米粒のような大きさに見える鬼神を中央に捉え、眼前の空間そのものを飲み込んだ。

 

「はい、おしまい。とっとと帰ろうぜ」

 

「……いえ、まだです!」

 

「んあ?」

 

子供、プライドの声に反応したエンヴィーが振り向くと、抉り取られた大地の中央を突っ切って鬼神がさらに迫ってきていた。

 

「躱された!?グラトニー、もう一回だ!」

 

「う、うん!」

 

両脚から炎を噴射して飛翔する鬼神はこの短時間でホムンクルスたちにかなり接近していた。

だから今度はどうやって鬼神がグラトニーの攻撃を防いだのか、はっきりと視認することになった。

 

「また避けて……ねぇ!?避けずに突っ切ってる!?」

 

「呑めない……アイツ吞めないよ!エンヴィー!」

 

「奴の背後の大地が無事……グラトニーの空間吸引を無効化している!?」

 

その間にも鬼神はさらに近づき、間もなく接触する。

エンヴィーは腕を巨大な異形の形にして。

グラトニーはろっ骨を伸ばして。

プライドは影を殺到させて。

怪人、スロウスは巨体を広げて阻むように鬼神の前に立ちふさがった。

 

 

 

「「「「!?!?!?!?」」」」

 

 

そして鬼神に触れた部位が抉り取られるように消滅した。

 

「なんだ!?食われた……!?」

 

「大地が、溶けて……熱!?」

 

影がやられただけで本体は無傷なプライドが、鬼神が通り過ぎた地面がガラス化しているのを見て、これが一瞬で肉体を蒸発させるほどの超高温状態での体当たりだと気づいた。

そして鬼神はホムンクルスたちを放置して振り向くこともなく真っすぐに中央へと向かっていく。

 

「くっ、スロウス!奴を追い足止めしなさい!

 エンヴィーは私とグラトニーを乗せて走るんです!」

 

「っ……あぁクソ!」

 

「はぁ……速く、動くの……めんどくせぇ」

 

少年の姿だったエンヴィーは本来の姿……全身に人のパーツを無数に生やした四脚の巨大な獣の姿となり、胴体に空いた風穴の再生を終えたスロウスは『最速のホムンクルス』としての力を発揮して鬼神を追いかけようと前かがみになる。

 

 

 

「「させるかぁっ!!!」」

 

「ぐおっ」

 

「何者!?」

 

そこに鬼神から連絡を受けたエルリック兄弟が『ヘルメスドライブ』により転移で参戦し、4体のホムンクルスの足元を攻撃し動きを止めさせる。

二人はそのまま彼らを阻むためにそれぞれの武装錬金を構え立ちはだかった。

 

「お前らは……ラストが追ってたガキ!」

 

「……人柱候補ですか。これは不幸中の幸いですね」

 

「ラスト……ラスト!おまえら、ラストをどうした!?」

 

ホムンクルスの中で最もラストに懐いていたグラトニーは、ラストを殺したと思われているエルリック兄弟を見て怒りをあらわにする。

 

 

「落ち着きなさい、グラトニー。私はここよ」

 

「「「!?」」」

 

 

エルリック兄弟と同じようにヘルメスドライブを使い転移してきたラストが立っている。

 

エルリック兄弟の隣に、ホムンクルスたちに立ちはだかるかのように。

 

 

「ラスト!生きてた!……ラスト?」

 

「……どういうつもりです?」

 

「見ての通りよ、プライド」

 

簡易武装錬金のヘルメスドライブを核鉄の状態に戻したラストは、それを胸の谷間にしまっていた別の核鉄と取り替えた。

 

 

「……『武装錬金』」

 

 

ラストの宣言と同時に核鉄が変形し、十文字槍の武装錬金『激戦』へと姿を変えた。

 

「おいラスト、お前まさか!」

 

「悪いわねエンヴィー。……ここで暫く、足止めされててちょうだい」

 

優雅に槍を構えた元ホムンクルスが、驚愕する同胞たちへと切っ先を突きつけ宣言した。

 




ラストの寝返りは旧番のアニメのリスペクトです。
彼女の武装錬金は、元ホムンクルスとして再生能力と相性が良さそうだと思い決めました。
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