『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第29話 VSホムンクルス

 

月が完全に太陽の上を通り過ぎた直後、ヒノカミは掌を放し領域を解除した。

 

「……づぁー!疲れたーっ!」

 

「『お疲れ様』、とでも言えばいいかね?」

 

同時に武装錬金の鎧も解除して鎧の中から現れた少女に、同じく武装錬金を解除し地面に降り立ったマスタングが声をかける。

 

「げらげらげら。そっちこそお疲れ様じゃな。

 いやむしろ、『ご愁傷様』と言っておこうかの?」

 

「……私が望んだこと、とは言えな。

 これから忙しくなりそうだ」

 

ヒノカミは掌を叩いて、鬼神の鎧を模した残骸を彼の前に作り出した。

 

周辺の住民の避難は完了しており、この場に二人のやり取りを目撃している者はいない。

しかし炎の球に乗って出陣した焔の錬金術師と、天を貫く火柱は民衆の眼に映しておいた。

イシュヴァール内乱にて虐殺の限りを尽くし、今回は中央軍すらも壊滅させ、アメストリス全土を恐怖に陥れた鬼神。

その残骸をマスタングが持ち帰って掲げれば、彼はアメストリスを救った英雄となる。

作り物の英雄ではあるが、実力は本物だ。

『火炎同化能力』を持つ武装錬金を手に入れたマスタングを倒せるのはヒノカミか大雨くらいだろう。

 

国境戦で暴れ回った鬼神の強さは隣国にも伝わっているはず。

ならばそれを倒したことになる『焔の錬金術師』を敵に回そうなどとは思うまい。

そして南部、西部軍に続いて中央軍を失ったアメストリス国軍は『焔の錬金術師』に頼らざるを得なくなる。

この戦いに参戦せず戦力が健在である北部軍のアームストロング少将と東部軍のグラマン中将もまた発言力を強めるだろう。

国土錬成陣に加担した軍上層部は計画失敗に伴い瓦解し、やがて英雄ロイ・マスタングを旗頭にして北部・東部軍がアメストリスを掌握する。

そしていずれは彼が大総統に……。

 

 

「そんじゃ、儂はこのまま行くとする」

 

「どちらにだ?」

 

「地下の方。どうやら『フラスコの中の小人』はまだ悪あがきを続けるようでな」

 

「そうか……エルリック兄弟たちの方へは行かなくてよいのか?」

 

「彼らが……彼らとラストが戦うと決めた。任せるさ。

 それにこのくらいの苦難を乗り越えられぬほどヤワな鍛え方はしておらんでの。

 だからお主が向かわずとも良い」

 

「……見抜かれていたか」

 

セントラルから今すぐエルリック兄弟たちの所へ向かえるのは、ヒノカミを除けば飛行可能なマスタングしかいない。

だが彼には一刻も早く凱旋し勝利を伝え、民衆を安心させるという責務がある。

 

「では、後は任せた」

 

そして少女は消えるように姿を消した。

 

「やれやれ、せわしないことだ」

 

マスタングは彼女が向かったセントラルの更に向こう、東部へと思いを馳せた後、ゆっくりと天を見上げ掌で目元を隠す。

 

 

「すまない、皆。仇、討てなかったよ」

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

国民全てを欺き犠牲にしてまで不老不死を手に入れようとしていた軍の高官たちは、『約束の日』が通り過ぎてしまったことを目の当たりにして力なく崩れ落ち、グリードの従えるキメラたちに拘束されシェルターの中へと引きずられていく。

しかし未だに反抗を続けている者がいた。

 

「無駄だぜ弟よ。テメェが『最強の眼』を持ってようが、刃物じゃあオレサマの『最強の盾』は切り裂けねぇ」

 

「だが全身硬化は賢者の石の消耗が激しいはずだ。

 どちらが先に力尽きるか、試してみるかね?」

 

「生憎だなぁ、オレはもう賢者の石『ごとき』にゃあ頼ってなくてよ。

 ……1日だろうが1カ月だろうが1年だろうが百年だろうが、永遠に暴れ続けられるんだよ!」

 

ラース……ブラッドレイの振るう軍刀が、またもグリードの黒い皮膚に覆われた腕にへし折れる。

 

「……貴様は嘘をつかないと聞いた。どうやら事実らしいな」

 

「そういうこった。わかったらとっとと降参しろや。

 テメェにゃ『前』大総統として、色々させなきゃならねぇ仕事があンだからよ」

 

「断る」

 

「あぁ?」

 

ブラッドレイは他の兵士たちが持っていた刀を拾い振るっていたがその度グリードに折られ、もうこの場に残る刃物はたった今掴んだ軍用ナイフ1本しか残っていない。

彼は人間から変じたかなり人間に近いホムンクルスであるため再生能力がなく、ここまでの戦闘で目に見えて消耗している。

だと言うのに、彼は戦いを止めようとはしなかった。

 

「……王たらんとする異国の少年よ。貴様に問う。

 貴様の目指す王とは『勝ち目がないから』と促されて降伏を選ぶような存在かね?」

 

「……否ダ」

 

「その通りだ。故にその眼に焼き付けるがいい。

 王の生き様と……散り様をな」

 

「……ホムンクルス。いや、キング・ブラッドレイ。

 なるほド、貴公もまた王であっタ」

 

「はぁ~~~……めんどくせぇ」

 

「ふふふ、スロウスがうつったかね?」

 

「いやなこと言うんじゃねぇよ!ちったぁ兄貴を敬えクソジジイ!」

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

「見ての通りよ、プライド、スロウス、エンヴィー、グラトニー。

 お父様は……私たちは負けたのよ。

 これ以上戦っても意味はないわ」

 

「ちっ……くしょぉぉぉーーーーーっ!」

 

「あ~~……もう、働かなくて、いい?」

 

「ラスト……?ラストとまた一緒にいられる?」

 

エンヴィーは人の姿に戻って怒り、スロウスは脱力して座り込み、グラトニーは泣きながらラストへと縋る。

 

 

「……まだです!」

 

 

「「「!?」」」

 

しかしプライドが弛緩した空気を隙と見なして影の化け物を殺到させる。

 

3体のホムンクルスへと。

 

「あぶねぇっ!!」

 

「!?」

 

エドワードがエンヴィーを掴んで飛翔し。

 

「つっ……!」

 

「ラスト!!」

 

ラストがグラトニーを突き飛ばして盾となり。

 

「この……っ!?」

 

「…………あ?」

 

アルフォンスが武装錬金で防ごうとしたがスロウスの巨体をカバーしきれず、スロウスは核である賢者の石をプライドの影に食われた。

 

「……死ぬ?オレが、死ぬ?

 ……死ぬって……なん……だっけ……?」

 

「スロウスさん!?」

 

アルフォンスの目の前で、スロウスの巨体が塵となって消えて行く。

 

「……全く、手のかかる弟なんだから」

 

「ラスト!ラスト、しっかり!」

 

「大丈夫よ、グラトニー」

 

ラストもまた体の半分以上を食われたが、彼女は『高速自動再生』という特性を持つ武装錬金を持っている。

体は人間になったが再生能力ならホムンクルス以上だ。

 

 

「ふむ、全身に力がみなぎるようです。

 だと言うのに途方もない倦怠感も感じるというのですから、酷い矛盾ですね」

 

 

「仲間を……喰いやがった……!」

 

「プライド、テメェ!」

 

「何をそんなに騒いでいるのです?

 我々の存在意義はお父様のために戦うことでしょう?

 バラバラに戦って勝てないなら一つになればいい。

 別れていたものが元に戻るだけではないですか」

 

「っ!?離れろぉ!」

 

最速のホムンクルスの能力を手に入れたプライドの影は凄まじい速さで再びエンヴィーとグラトニーに襲い掛かるが、エドワードの警告のお陰で寸前で逃れることができた。

 

「やめるんだプライド!見ただろう!?お前たちの計画は失敗したんだ!

 『フラスコの中の小人』も、すぐに父さんたちがやっつける!」

 

「だから降伏しろと?人間風情に?あり得ませんね。

 ならば私はお前たちを排除し一刻も早くお父様のもとへ向かうだけです。

 ……エンヴィー、グラトニー。どうやら貴方たちもラストと同じく失敗作だったようですね。

 僅かでもホムンクルスの矜持が残っているのなら、その命を私に捧げなさい」

 

「ふざけっ」

「ふざけんなぁああ!!!」

 

エンヴィーの言葉を遮って一歩前に出たエドワードが叫ぶ。

 

「ホムンクルスとか人間とか……そんなこと関係ねぇ!

 『兄貴』が!『弟』を殺すんじゃねぇよ!!!」

 

激昂したエドワードが武装錬金を掲げたまま『新たな核鉄』を突き付けた。

そのシリアルナンバーは……『17』。

 

「兄さん!?それは!」

 

「やるぞ、アル!」

 

「……うん!!」

 

それは万が一に備えてヒノカミから託された切り札。

一人では発動できず、兄弟二人がかりでエネルギーを注ぎ込んでようやく短時間だけ操作できる、最強最大の武装錬金。

 

「「武装錬金!」」

 

掌を重ねて核鉄を突き出したエルリック兄弟は、その手を頭上に掲げてその名を呼ぶ。

 

 

 

「「『バスターバロン』!!」」

 

 

 

核鉄が変形を始め、増殖するように機械が広がっていき、形成された武装は。

 

「巨大な……鎧……!?」

 

『ラスト!そいつら連れてサブコクピットに入ってろ!』

 

「わかったわ。二人ともこっちへ!」

 

全長57メートルという巨人の左手の上に乗せられていたホムンクルスたちが、ラストに促されて左肩の鎧の中へと飛び込む。

そして巨人の右手に光りを放つ槍が現れ、左手に十文字槍が現れ、脚部に4枚のブレードが形成される。

 

『来いよド三流!本当の『兄弟』の力を見せてやる!』

 

「……っ、人間、風情がぁぁぁああ!!」

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

「あぶっ……ないなぁもう!

 ……お前、まだ諦めないの?」

 

「無論だ……資源(人間)はいくらでもある。

 また賢者の石を作り、やり直せばいいだけだ!」

 

「……はぁ~~っ、やっぱりこうなったかぁ。

 俺、ケンカあんまり強くないんだけどなぁ~~」

 

衝撃から再起動し攻撃を仕掛けてくる『フラスコの中の小人』に対処しながら、ホーエンハイムはため息をつきつつ懐を探る。

 

「あれ?たしかここに……あぁ、あったあった」

 

そして取り出したのは、核鉄。

しかし他の者に託された物とは違いその色は『黒』。

 

「……俺はボンクラ親父だけど、ちょっとくらいいいとこ見せとかないとな!」

 

「ぬ!?」

 

 

「武装錬金!!」

 

 

ホーエンハイムの闘志に呼応して黒い核鉄が変形を始める。

やがて彼の右手に収まったのは歪な形の巨大な『斧』。

 

 

「『フェイタルアトラクション』!!」

 

 

「ぐっ!?ぐぉぉぉぉおおっ!?」

 

ホーエンハイムが『フラスコの中の小人』に向けて斧を振り下ろすと、突如彼の正面の大地が陥没し『フラスコの中の小人』が膝をつく。

 

(なんだ、これは!?……重力!?

 馬鹿な、人間が神の力の一端を!?)

 

「立てよ兄弟。本当の『父親』の力を教えてやる!」

 




エドワード・エルリック:サンライトハート+
アルフォンス・エルリック:バルキリースカート
ヴァン・ホーエンハイム:フェイタルアトラクション
ロイ・マスタング:ブレイズ・オブ・グローリー
ティム・マルコー:アンダーグラウンドサーチライト
ラスト:激戦

エルリック兄弟:バスターバロン
ヒノカミ:鬼相纏鎧

以上が今回の外伝に登場した武装錬金となります。
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