『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第31話 VS『フラスコの中の小人』

 

「……どういうつもりだ、異国の者どもよ」

 

グリードに最後の武器も破壊され、反撃で深刻なダメージを受け、それでも命尽きるまで戦い続けようとしたブラッドレイ。

しかしリンの命令を受けたフーとランファンが乱入し、ブラッドレイの両腕を掴んで地面へとたたきつけ拘束した。

 

「キング・ブラッドレイ。確かに貴公は王ダ。

 しかし軍事国家であるアメストリスの王ならば同時に将でもあるハズ」

 

「それが、どうした?」

 

「将であるならば敗戦の責を負うべきダ。

 兵でもある将は己の命すら戦に勝つために使わねばならなイ。

 ならば敗軍の将が自己満足で命を捨てる権利はないハズダ。違うカ?」

 

すでにブラッドレイ以外の軍人は全て拘束し、シェルターへと連行している。

この軍司令部に残っているのは彼と、グリードと、リンたち3人の計5人だけだ。

そしてブラッドレイが取り押さえられた以上、アメストリス中央軍の完全な敗北が決定している。

 

「……なるほど、道理だ。

 死にざますらも選べぬとは、全くもって腹立たしい」

 

「オイコラ、コイツを倒したのはオレだろうが。

 なぁんでテメェらが勝ったみたいになってんだ」

 

「我々ではなイ、ヒノカミ様の勝利ダ。

 その力もあの御方から与えられた物だろウ?」

 

「こいつぁ正当な報酬だろうが。だったらもうオレのモンだ」

 

「ヒノカミ……あの少女か。ホムンクルスを強化できるほどの錬金術師とは。

 ……あの時に何としても捕えておくべきであったな」

 

 

「いや無理だろ。あいつが『イシュヴァールの鬼神』だぞ?」

 

「あの御方は真理すら上回る太陽神ダ。

 時を操ったのもその御業だゾ?」

 

 

「…………は、はっはっはっは!そうか、アレが、神か!

 随分と愛らしい神もいたものだ!」

 

「……知らねぇとはいえ、あれを『愛らしい』ときたか。

 初めて本気でテメェを尊敬したぜ、弟よ」

 

ブラッドレイは脱力し、完全に戦意を失ったようだ。

念のため腕を縛り上げ、フーたちが持ち上げようとする。

 

「良い。己の足で歩く」

 

しかし彼は自分で立ち上がり一歩踏み出す。

 

 

 

直後、軍司令部の地下が崩落した。

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

ホーエンハイムと『フラスコの中の小人』は丁度彼らの真下で戦いを繰り広げており、彼らの破壊の余波が地上にまで届いてしまったのだ。

 

 

「「「ヌォォォォッ!?」」」

 

なすすべもなく落下していくリンたち。

硬化で落下の衝撃を無効化できるので平然としているグリード。

一緒に落ちる瓦礫を踏み台にして飛び跳ね落下速度を落とすブラッドレイ。

三者三様のリアクションを取っていたところで、彼らのすぐ下に突然真っ白な網が現れる。

 

「!?神ヨ!」

 

地上から転移してきたヒノカミが左腕の捕縛布を広げて網を作り上げ、落下する5人を受け止めた。

 

「状況は?」

 

「中央軍は全て捕えタ。互いに死者が出たとの連絡はなイ」

 

「エドたちの方は……たった今終わったようじゃ。

 これで残る戦場はここだけじゃな」

 

「……ホーエンハイムに、加勢はせんのか?」

 

「必要ない。あ奴らも自分でケリを付けることを望んでおる」

 

ヒノカミはかろうじて無事な床の上に降り立ち彼らを降ろし、眼下で繰り広げられるホーエンハイムと『フラスコの中の小人』の戦いを見守る。

 

 

 

 

クセルクセスの国が滅び袂を分かった瞬間は、二人の力はほぼ互角だった。

それからおよそ二千年の間で、『フラスコの中の小人』は闇に潜んで人間を賢者の石に変え、更に力を蓄えていた。

ホーエンハイムは自分の中の賢者の石に語り掛け、50万人を超える魂と対話し力を合わせることを覚えた。

これだけならまだ二人の力は拮抗していただろう。

しかし『ホムンクルスに対する特効を持つ武装』の存在が、天秤を大きく傾けていた。

 

ホーエンハイムは自分の重力を操って空に浮かび、周囲に力場を形成している。

だから『フラスコの中の小人』が『周囲の物体を作り変える』錬金術で攻撃を仕掛けても、常に攻撃の起点から距離を取っている状態なので容易に対処されてしまう。

対してホーエンハイムは重力操作で周囲の瓦礫を浮かべて引き寄せ、それを錬成することで錬金術を行使し攻撃してくる。

そちらだけなら互いに距離があるので条件は相手と同じ。しかし錬金術による攻撃は牽制でしかない。

本命の重力波は『炎』や『雷』といった実体を持つ現象ではなく、純粋な力そのもの。錬金術で干渉することができない。

 

互いに命のストックは膨大。

故に簡単に決着がつくことはないが、『フラスコの中の小人』は少しずつ、着実に劣勢に陥っていく。

 

(何か、逆転の一手は……!?)

 

周囲に視線を向けた『フラスコの中の小人』は、ホーエンハイムの更に向こうにいる存在に気づく。

 

(……グリード!?)

 

壊れた階層の瓦礫に座る幾人かの中に、かつて己を離反したホムンクルスの一体がいる。

よく見ればその隣には縛り上げられたラースの姿も。

 

一瞬の迷いもなく、『フラスコの中の小人』は光を走らせ彼らの座っていた足場を破壊した。

 

「「「!?」」」

 

続いて『フラスコの中の小人』は即座にその真下へと移動する。

グリードとラースから、自分を『父』と呼ぶものたちから、その命と力を取り上げ糧にするために。

 

 

 

 

「前言を撤回する」

 

 

 

 

落ちてくるグリードたちを狙って突き出した腕は、その前に立ちはだかった小娘の体に突き刺さった。

余計な邪魔をと考えた『フラスコの中の小人』はその腕を引き抜こうとして。

 

「……!?」

 

出来なかった。

力で抑え込まれているというより、自分の体が動かない。

腕も突き刺さっているのではなく、半ば取り込まれている。

 

「私欲のために子を殺そうとは、それでよく『父親』を名乗れたな」

 

「っ!?ぎぃぁぁぁああーーーーっ!!!!」

 

感情を捨てたはずの『フラスコの中の小人』が絶叫を上げた。

無理もない。彼が奪い捕えていた賢者の石、クセルクセスの民の魂が。

 

一つ残らず目の前の小娘に吸い取られていくのだから。

 

「はなせっ、がっ、返せぇぇえええ!!」

 

「最初から貴様のものではあるまい。盗人猛々しいの」

 

腕ごと切り離そうとしてもできない。

全身がまったく動かず、ただ悲鳴を上げることしかできない。

間もなくすべての石が奪い取られる。

そうなれば『フラスコの中の小人』は文字通り『フラスコに囚われていた無力な存在』に逆戻りだ。

容れ物の外に出るだけで、外気に触れるだけで消滅してしまう、本当に無力な存在に。

そして消滅した彼が還る場所は、彼がかつていた場所。

 

 

「いやだ……戻りたくない……!

 真理(あそこ)に縛られ続けるのはいやだぁぁぁあああ!!」

 

 

「安心せい。貴様は真理に戻らずとも良い。

 儂がもっと素敵なところへ招待してやる」

 

そして小娘の姿を取った神は、異界に住まう本体に呼びかけその眷属を呼び寄せた。

 

『…………』

 

「ひぎゃ……っ」

 

かろうじてこの地下に収まるほどの大きさにまでサイズを抑えた炎の巨人が、無言で罪人を見据える。

巨人はゆっくりと口を開き、小さな黒い靄へと迫る。

 

 

 

「地獄に堕ちろ。下衆が」

 

 

 

グチャリ

 

 

 

決着は、因縁あるホーエンハイムに任せるつもりだった。

本当に最後まで見守るつもりだったのだ。

しかし彼女は『コイツは真理に帰すだけでは生ぬるい』と前言を撤回し。

 

「手を出してしもうた。すまんな。

 まぁ約束してたわけではないから、大目に見てくれ」

 

『…………』

 

 

「「「「「………………」」」」」

 

少女の背後にたたずむ炎の巨人の圧を前に、ホーエンハイムもホムンクルスも人間も、完全に硬直していた。

 

やがて一人が絞り出すように言葉を発する。

 

「グリード」

 

「ンだよ」

 

「前言を撤回する」

 

「わかってくれたか兄弟」

 




あっさりとした終わりになってしまいましたが、これにて決着となります。
次回、エピローグとなります。
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