第1話 『アイ』
少女は母を待っていた。
少女は母子家庭で、母と二人暮らしをしていた。
しかしある日母が窃盗の容疑で逮捕されてしまい、少女は一時的に施設へと預けられていた。
そして今日が、母が釈放される日。
だから少女は施設の門の前で、母が迎えに来てくれるのを待っていた。
だがどれだけ待っても母は姿を現さない。
朝早くから日が沈むまでずっと待ち続けていたが姿を現さない。
確かに、母は一般的な家庭と比較して良い親とは言えなかった。
家庭内暴力を振るわれたことも何度もあった。
だがそれでも自分を見捨てることはないと、自分を愛してくれているはずだと信じていた。
だから少女は施設の職員の制止を振り切って外へと飛び出した。
そして夜になった町を、母を探して走り続けた。
声をからすほど叫んで、疲れで足をもつれさせて勢いよく転び、地面にうつ伏せたまま思わず涙を流す。
「どうした?お嬢ちゃん」
少女が誰かに声をかけられたと気づき顔を上げると、真っ赤な男物の和服を来た奇妙な女の人が中腰の姿勢で自分に視線を合わせていた。
「迷子かの?」
「……お母さんを、探してるの」
「なんと。どれ、儂も一緒に探してやろう」
「……うん」
他人の感情、特に嘘に対して人一倍敏感だった少女は女性から嘘の気配を感じず、彼女を信じて差し出された手を掴み立ち上がった。
パァン!
「……?」
「……やはり妙に力が使いやすいな。
この発展具合なら西暦2000年頃じゃろ?
もしやこの世界もなんぞオカルトがありふれておるのか……?」
女性は少女を立ち上がらせた後、なぜか勢いよく掌を叩きつけた。
「まぁいいか。好都合じゃし。
この子と似た魂……いた!」
「ほんと!?」
「じゃが離れていく……速いな、電車か何かに乗り込んだのか?
このままでは見失うな……」
「そんなっ」
「……しっかり掴まっておれ!舌を噛むなよ!」
「え?わっ!?」
女性は少女を肩車すると即座に飛び上がった。
そして、夜の空を猛スピードで走り出した。
「わぁぁっ……すごい!すごい!!」
「くけけ、なかなか肝が据わっておるな。
このペースならすぐに追いつく。
……そういえば聞いていなかったな。
お嬢ちゃん、名前は?」
「アイ!星野アイ!!」
――――……
芸能事務所『株式会社苺プロダクション』社長、斎藤壱護は困惑していた。
昨日街で出会った幼くも妖艶な美少女、星野アイ。
一目見て、彼女ならトップアイドルになれると確信した彼は熱心にスカウトした。
すると彼女は『明日おばーちゃんを連れてくる』と言ったので、おそらく祖母が彼女の保護者だろうと考えていた。
そして今日、待ち合わせ場所である昨日と同じカフェの同じ席に向かうと。
「あ、来た来た!しゃちょー!」
「……」
アイの隣にいたのは同年代……いやかろうじてもう少し年上かと思えるくらいの少女だったのだから。
「え、えぇっと……」
「まずはおかけくだされ」
「あ、ご丁寧にどうも……」
促された斎藤社長は困惑したまま彼女らの対面の椅子に座る。
少女の服装は、上下共に真っ赤なジャージ。
隣のアイも昨日と同じく飾り気のない、はっきり言ってダサいパーカーと帽子。
ベクトルは違うがファッションセンスは似たようなものらしい。
「……誤解されておるようなので、先に3つほど。
一つ、儂はすでに成人しております。
二つ、儂はアイの保護者ではありますが血縁ではありません。
訳あって彼女の義母を務めております。
もちろん、彼女の本当の母親には話を通してあります。
三つ、アイが儂を『おばーちゃん』と呼ぶのは彼女の母は別におるのだから、他の名で呼ぶように促した結果です」
「おばーちゃんの話し方が、おばーちゃんっぽいから~」
「え!?あ、それは失礼しました!」
「アイの言葉が足りなかったのでしょう。お気になさらず」
見た目との落差で頭がこんがらがってくるが、彼女が正しくアイの保護者なら問題はない。
斎藤自身、まだこの業界の中では若造と呼ばれても否定できない年齢なので、相手が大人ならばと居住まいを正す。
「では改めまして、斎藤壱護です」
「六道リンネと申します。
……誤解を解いたところで早速話を進めましょう。
この子をアイドルとしてスカウトしたいと聞きましたが」
「っ、はい、その通りです。
私はお宅のアイさんに、是非とも我が『苺プロダクション』に所属していただきたく」
「伺っております。
……アイ。もう一度尋ねるが、お主は本当にアイドルになりたいのか?」
「うん!アイドルってみんなに『愛してる』って言うお仕事なんでしょ?
私、おばーちゃんにもらった愛をみんなに分けてあげるんだぁ~~♪」
「……まっとうな仕事とは言えぬかもしれませんが、少なくとも誰かに恥じる仕事ではない。
当人が望むのならば、その想いを尊重したいと思います」
「では!?」
「アイをよろしくお願いいたします」
「ありがとうございます!」
リンネという女性はいかにもな古風な口調だったので、性格もそちらに準ずるかと考えていた。
であればアイドルなんて水商売には激しく反対されるかと身構えていたが予想以上に理解があり、あっさりと承諾を貰えて斎藤は胸をなでおろす。
「……ただし、一つ条件を出させていただきたい」
「っ!?条件、ですか!?」
しかし続いて発せられた言葉に冷や水を浴びせられた気分になり、何を言われるのかと身構える。
「『株式会社苺プロダクション』。こちらでも調べさせていただいた。
従業員は少数のスタッフのみ。所属する芸能人の名前もない」
「う……おっしゃる通りです。
お恥ずかしながら立ち上げたばかりの、弱小もいいところでして……ですが最善を尽くしますので!」
「あぁいや、この子を厚遇しろとか給料を弾めとか、そういったことを言うつもりではないのです。
ですが可愛い我が子を預けるならばできる限り良い環境でと願うのは道理でありましょう?
ただ人手すら足りないようですからな。御社ではスタッフを募集しているとありました」
「と、おっしゃいますと……?」
「儂を雑用として雇っていただきたい。
苦難の道を歩むこの子を、少しでも支えてやりたいと思います」
外伝5『推しの子』。
バトルもの以外の作品も書いておくべきとずっと思っていたところ、少し前に原作が完結したので踏み切ることにしました。
神様の存在が示唆されており、転生したキャラがいるなど、本作との共通点があってオカルト色が強い作品なので割と絡めやすいはず。
そして何より、作者がハッピーエンドを見たい。
力ずくで救済していきます。
ただし明言しておくと、作者はいわゆる『にわか』です。
アニメは2期まで見たし、漫画も最後まで読みました。
しかし漫画は自分の物ではなく漫喫のような場所で流し見ただけであり、何よりルビー覚醒以降はもうつらくて直視できなくて。
矛盾が生じたりキャラの再現が甘くなるかと思いますがご了承ください。
また、物語はちょうどアニメ2期当たりで完結となる予定です。