『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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後で追いつくかもしれませんが、今のところ20話分のストックがあるので1日2回投稿で行きます。

この時点では未婚のはずで、ミヤコさんの旧姓が判らないので下の名前で描写します。


第2話

 

「六道リンネと申します。よろしくお願いいたします」

 

「……え、えぇ。よろしくお願いします」

 

目の前で深々と頭を下げ、そして姿勢を戻したジャージ姿の小柄な女性。

彼女の顔を改めて見つめ、やはり信じられないとミヤコは顔を引きつらせる。

 

(……これで、成人してるっての!?)

 

身長は、まぁ仕方ない。

遺伝によるところが大きく、子供ほどの背丈しかない大人だっているのは当たり前だ。

だがしかし。

シミやシワの一つもないハリのある瑞々しい透明肌。

肩より少し上まで伸びたふわふわとしていそうな癖のある髪の毛。

少しけだるそうに見えるが引き込まれるような大きな瞳。

ジャージの裾から覗いている指も小さいながらスラリと美しい。

実際に彼女とアイの履歴書を社長に見せてもらった時、どちらもアイドル志望の少女かと誤解したほどだ。

 

(これで……32歳!?私より年上!?噓でしょ!?)

 

嘘である。

本当はもっと上だ。

彼女がこの世界に居を構えるにあたり戸籍が必要になり、あまり幼いとアイを引き取るにあたり面倒が生じるだろうからと、彼女の年齢の20歳上で年齢を登録していた。

つまり『戸籍上は32歳』と言う意味なら嘘ではない。今日も彼女の屁理屈は絶好調だ。

 

「……何か?」

 

「っ、いえ、何でもありません。

 それで、アナタに任せたい仕事なのだけれど……」

 

社長の斎藤はアイを連れてスタジオだ。

同じグループになる予定のメンバーとの顔合わせと、彼女らの素質と実力を見るためである。

なのでリンネの世話は、社内にて彼に次ぐ立場にいるミヤコに一任されていた。

 

「そうね……パソコンは使えますか?

 この書類をデータ化してほしいの」

 

ミヤコもリンネの能力を把握せねばならないと、試しに適当な仕事を与えてみる。

リンネはミヤコから受け取った同じ書式の紙の束をペラペラとめくり確認し、視線をミヤコに戻した。

 

「承りました」

 

 

 

そして2時間後。リンネは作業を完了させた。

ただし書類の文字を打ち込み終えたのではない。

 

スキャンした書類の文字を自動で判別しデータとして吐き出すプログラムを完成させたのである。

 

「誤字や誤変換の疑いがある個所はセルの色を変化させる仕様にしております。

 ただしパソコンのスペック上、どうしても変換には時間がかかります。

 なので夜に画像データをまとめて突っ込んでください。

 翌朝には終わっているはずです。

 内容確認後にマクロのボタンを押してください。

 数値を自動計算して結果を表示します」

 

「…………」

 

時代は21世紀に入ったばかり。

ようやく一般家庭にも広くパソコンが普及し始めた時代だ。

高度なプログラミングができる人材は非常に少なく、どんな業界でも引っ張りだこである。

 

「他にも自動化できる作業はあると思いますので、手を広げていくなら性能の良いパソコンが必要になります。

 よろしければ自作しましょうか?流石に材料費だけはいただきますが」

 

「……え、えぇ。社長に進言しておくわ……」

 

そしてソフトウェアとハードウェアの両方に精通している人材は、更に希少である。

ちなみに後日、一般パソコン並みの値段で当時のスパコン並みのスペックの物を用意してきたのは余談である。

彼女の言う材料費とは『パーツ代』ではなく『原材料費』だったので。

 

「では、次の仕事は?」

 

「え!?えっと……そうですね……」

 

今日が初仕事だからと、軽い仕事しか用意していない。

入力作業ももっと時間がかかると思っていたし、後は掃除とかコピー取りとか。

しかしここまで有能な人材にそんな誰でもできる雑務を押し付けてもいいものか。

ミヤコが言葉を詰まらせていると、リンネが部屋の扉へと視線を向ける。

するとそちらからドタドタと音が近づいてきて、まもなく社長が息を切らせて飛び込んできた。

 

「六道さん!聞きたいことがある!ついて来てくれ!!」

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

時間は少しさかのぼり、場面も苺プロのスタジオへと移る。

斎藤社長はついに集まったアイドル候補たちを一室に集めて対面させる。

高峯、渡辺、ニノ、そしてアイ。

彼女らでアイドルグループ『B小町』を結成すると発表した。

互いに自己紹介をしてもらい、実力を見るために一人ずつ順に歌と踊りを披露してもらう。

 

やがて4人目、アイの順番が回ってきた。

 

『――――……』

 

「「「…………!?」」」

 

そして一瞬で場の空気を飲み込んだ。

 

確かにメンバーの中でも一際優れた容姿を持っていた。

そこに加えてミリ単位で調整された振る舞い。

嫌でも視線を集めてしまう笑顔と、全てを飲み込む星空のような瞳。

全身からあふれ出る炎のように光り輝くオーラ。

そして何より、聞いているだけで伝わってくる彼女の『愛』。

 

(やっぱり本物だ……オレの目に狂いはなかった!)

 

アイ以外のメンバーが衝撃と戦慄で震えていることすら気にかけず、社長は冷や汗を流しながら獰猛な笑みを浮かべる。

 

(…………ん?)

 

しかししばらくしたところで彼も気づく。

彼の狂いのない目を凝らしてみれば。

彼のトレードマークであるサングラスを持ち上げて何度も目を擦ってみても。

 

 

比喩表現でなく本当に『オーラ』が出ているような。

 

 

「っ!?ちょいタンマ!止まれアイ!!」

 

「ほへ?」

 

社長の叫びに応えて、アイは歌と踊りを途中で止める。

他のメンバーも気づいたようだ。

間違いない、彼女の全身から炎のようなオーラがあふれ出している。

風のない室内で静止しているのに、アイの髪の毛やスカートの裾がオーラを浴びて靡いている。

 

「おまえっ、そのっ、なんだそりゃあ!?」

 

「何がー?」

 

「アンタのその体から出てるモンのことよ!」

 

メンバーの一人である高峯が叫び、そこでようやくアイも自分の体に気づいた。

 

「……あ!あちゃー、出しすぎかー。

 張り切りすぎて調整ミスったかも」

 

「だ、出しすぎ……?意図的に、出してるってことか……!?」

 

「いいから、それが何か答えなさいよっ!」

 

「オーラだよ?」

 

「「「…………」」」

 

応えはしたが、答えになってない。

頭を抱える斎藤社長は、今この会社にはアイの保護者も来ていることを思い出した。

 

「お前らちょっと待ってろ!自由にしてていい!」

 

「どこ行くんですか!?」

 

「話が分かる人を連れてくんだよ!すぐ戻る!」

 

そして数分後、彼はリンネとその場に居合わせたミヤコを連れてスタジオへと戻ってきた。

 




日常系の作品であろうと、オカルトパワー全開でお届けします。
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