『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第3話

 

「なるほど、アイが力を使いましたか」

 

「ごめんねおばーちゃん」

 

「謝る必要はない。長く深い付き合いになるようだからいずれは伝えねばとは思っていた。

 初日にやらかしたのは流石に想定外じゃったがな」

 

「がーん!」

 

「……そ、それで、アイの力はなんなんですか!?

 アイは……人間なんですか!?」

 

人間離れした容姿とダンスの腕前を持っているが、まさか本当に人間ではないのだろうかと、斎藤はリンネに詰め寄る。

 

「もちろん人間です」

 

人間でないのはアイではなく自分の方だが、それは今は置いておく。

 

「彼女の放つオーラは、彼女自身が努力により習得した『技術』です。

 正しい指導を受け正しく修めれば、習得の早さに差はあれど誰でも身に着けることができる」

 

「いやでもオーラって……オカルトですよね!?

 どこで、どうやってそんなものを……」

 

「おばーちゃんがししょーだよ?」

 

「はぁ!?」

 

「『学びたい』というので教えました」

 

「「「はぁぁっ!?」」」

 

リンネがこの世界に来てからしばらく調べてみたが、やはりこの世界はオカルトが否定された時代と社会だった。

なのに世界の強度がとんでもなく高いということは、おそらく隠れて勢力を維持する神霊か超常の組織でもあるのだろう。

そして強度が高い世界に生きている人間は、強度相応の強さにまで成長できる可能性を秘めている。

幼いアイに『天神武装』の炎を与え1年ほど修行してみたら、あっさりと超人にまで成長した。

 

「儂の正体は……そうですな……」

 

個性という異能を持つ能力者。

死神であり滅却師であり完現術者。

霊能力者の頂点たる霊光波動拳継承者。

シャーマンにして大陰陽師の直弟子。

肩書や能力はいくつもあれど、この状況を簡潔に説明するには不足している。余計な混乱と説明を増やすだけだ。

厳しい修行により超常の力を身に着けた存在といえば修験者が近いが、一般には馴染みが薄いだろう。

 

「……仙人、とでも思っていただければ」

 

「せ、仙人……!?」

 

「アイの放ったオーラ。あれは体外に放出された精神エネルギーであり、身体能力と自己治癒力を高める効果があります。

 今のアイの全力なら、大型トラックに撥ねられても骨折すらしないでしょう」

 

「そもそも轢かれないけどね!時速60キロくらいなら出せるし!」

 

「「「ぶっ!」」」

 

「そして精神エネルギーを体の外側に放出し物理的な力を発揮させるのですから、オーラを纏った状態での行動に自らの感情が上乗せされます。

 心を込めて歌でも歌えば、聞き手の魂にダイレクトに伝わるでしょう」

 

「!?さっきのはそういうことか!」

 

「尋ねられた疑問への回答はこんなところでしょうか。

 まだ何か聞きたいことはおありか?」

 

あるに決まっている。聞きたいことだらけだ。

しかし混乱しすぎて質問どころか自分の頭の中すらまとまらない。

斎藤が言葉を詰まらせていると、彼の後ろから質問が飛んでくる。

 

 

 

「そのオーラというものは、私たちでも身に着けることはできますか!?」

 

「「ニノ!?」」

 

 

「……先ほど言った通りじゃ。これは技術。

 誰でも身に着けることはできる。

 しかし相応のデメリットは覚悟せねばならぬ」

 

「……寿命が縮む、とかですか?」

 

「いや、むしろ寿命は延びる」

 

「「「……はぁ!?」」」

 

「……というか老化そのものが遅くなる。

 自己治癒力を高めるから怪我以外にも疲労の回復、肌荒れの防止などにも効果を発する」

 

「アナタの見た目が幼いのってソレ!?」

 

残念ながらリンネは別件であり、成長しきってコレである。

 

「あとは精神が肉体に及ぼす影響が強くなるから、当人が強く望む形に成長しやすくなる。

 もちろん本来の遺伝子から極端に逸脱はせぬが、身長とかスタイルとか……女性なら太りにくくなる傾向があるな」

 

「いいこと尽くめじゃないですか!」

 

「ここまではメリットじゃ。

 単純に習得難易度がとんでもなく高いが、これは習得するまでの話であり習得することによるデメリットとは言えぬ。

 そしてデメリットとは……『直感が鋭くなること』じゃよ」

 

「え?……メリットに聞こえますけど?」

 

「普通の社会ならな。迫る悪意や害意を察知できるし、好意的な人間も判別できるわけじゃから。

 しかしお主らがこれから足を踏み入れようとしておるのは『芸能界』じゃぞ?」

 

「っ!?」

 

アイドル志望の少女たちはピンときていないようだが、元タレントであるミヤコは気づいたようだ。

 

「嘘と悪意と欲望が渦巻く世界じゃ。

 異性はお主らに性的な視線を、同性は嫉妬と敵意を向けてくる。

 同業者や民衆たちも無遠慮な感情をぶつけてくるじゃろうな。

 本来なら嘘や笑顔の仮面というオブラートに包まれているそれらをダイレクトに受け止めることになるんじゃ。

 ……生半な覚悟では、心を病むぞ?」

 

「「「…………!」」」

 

だからリンネはアイが『アイドルになりたい』と言い出した時も同じ忠告をした。

彼女は超常の力などなくともとびぬけた素質を持っていたが、その精神はただの少女でしかない。

先ほどまでも社長やメンバーの少女たちから向けられる奇異の視線と怯えを一心に受け止めていたはずだ。

 

「そしてもう一つのデメリット。行動に感情が乗ると言うたじゃろ?

 ゆえにお主らの感情を隠すことが難しくなる。

 嘘がつけなくなるほどではないが、強い嫉妬や傲慢などの悪意を抱けば周囲に与える印象も悪くなる。

 そこで止まらず更に悪意の炎が燃え上がれば自分自身を焼き尽くす」

 

今のところ、彼女たちはやる気や負けん気が人一倍に溢れているくらいで危惧するような人格ではない。

しかしまだ幼い少女たちが『芸能界』にもまれて、それでも善人でいられるだろうか。

 

「……じゃがまぁ、はっきり言おう。

 今のお主らではアイの隣には並び立てぬ」

 

彼女らが未熟なのではない。

むしろ選りすぐりと言っていい。

彼女らを見出し集めた斎藤社長の目はまさに狂いなどなかっただろう。

 

だがアイの桁が違いすぎる。

 

アイをグループユニットに加えること自体に無理がある。

それでは他の者たちは彼女のバックダンサーにしかなれない。

アイ単独とB小町を別々でデビューさせれば解決するが、立ち上げたばかりの苺プロで両方を万全にサポートするのは難しい。

何より彼女らが別のグループとしてデビューしてもアイ一人に敵わず、雑多なアイドルの一つとして時代の波に飲まれて消えてしまうだろう。

 

よってアイ以外の3人がトップアイドルグループを目指すならば、選択肢は二つ。

 

「アイの引き立て役になることを許容するか。

 アイに並び立つために地獄を見る覚悟をして超人に至るか。

 ……お主らはどちらを選ぶ?」

 

この世界に超常の存在がいる可能性が高いのだから、彼女は超常の力を広めることにあまり抵抗はない。

リンネがカバーできない範囲まで広げるつもりはないが、同じ事務所に所属する仲間となったなら身内も同然。

そして苺プロのスタッフの一人として、リンネには彼女らが大成できるように最善を尽くす義務があると考えていた。

 

 

 

「「「……お願いします!!!」」」

 

 

トップアイドルを夢見る純粋さからか、己の自負か、超人的な力へのあこがれか。

3人の少女は決意をもって宣言した。

 

「……社長。B小町のデビューまで半年頂きたい。

 それまでに彼女らを、最低でもアイの隣にいても霞まぬように鍛え上げます」

 

「……わかった。よろしく頼む」

 

これによりリンネはB小町のトレーナーを兼任するスタッフとなった。

アイを育てた実績があるなら信用は十分。

社長とミヤコがスケジュールを組みなおすために、リンネが訓練の準備をするためにと部屋を出ていく。

 

 

 

「……あーあ。私知らないよー?

 そんなに簡単に決めちゃって。まぁ当時の私もそうだったんだけど」

 

「どういうことよ?」

 

4人だけが残ったスタジオで、アイが妹弟子になる少女たちに声をかける。

 

「おばーちゃんが言ってたでしょ?

 『習得難易度がとんでもなく高い』って。

 私がみっちり修行したのは1年くらいだったけど、皆は半年なんでしょ?」

 

「……!もしかして、死ぬほどハードだったりするの!?」

 

「うぅん、死なないよ。それは絶対にない。だけど……」

 

 

 

「死にたくなっても死なせてもらえないよ?」

 

 

 

「「「……え?」」」

 

「おばーちゃんの術は私よりずっとすごいからね、どんな病気もケガもすぐ治しちゃうの。

 疲労骨折するまで走らされても、肺や心臓が破れても、血反吐を吐いてもきれいさっぱり治しちゃうの。

 『あ、死んだ』ってなって、綺麗な川にたどり着いて、知らない人たちが向こう岸で手を振ってて……気づいたら現実の血だまりの中で目が覚めるの」

 

「「「…………」」」

 

「そんなことを繰り返してたらね……自分が生きてるのか死んでるのかわからなくなるの」

 

「「「………………」」」

 

光り輝く星のようなアイの瞳が、ブラックホールのようにすべてを吸い込む闇に染まる。

全身からあふれ出るオーラが熱でなく寒気を伴い始める。

 

 

 

「でも大丈ブ、すぐニ慣レるかラ……ミンナも……コッチニオイデヨ……!」

 

 

 

「「「いやぁぁーーーーーーーーっ!!!!」」」

 




最初は仲が良かったらしいので、最後まで仲良しで行きます。
揃って『ヒノカミ被害者の会』に参入させます。
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