『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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今までのバトルものの世界では腕力と能力で暴れてきたヒノカミですが、バトルものでない世界では制限が多いので、財力と権力でも暴れる方向で行きます。
容赦なく札束でビンタします。
でも相変わらず素手でもビンタします。


第4話 B小町

 

ヒノカミ……六道リンネは異界からの来訪者である。

故に初めて訪れた世界では財産も金銭も持たない、文字通りの無一文である。

 

彼女自身が万物を創造する能力を持っているのだから、金銀財宝を作り出して売ればいくらでも金を得ることができるが、訪れた世界が20世紀後半以降、特に日本やそれに準ずる先進国だと話が変わってくる。

インターネットの普及、情報のデータ化と共有化、そして厳密な管理により、金や宝石類は出所が不確かな物は引き取ってはもらえないのだ。

特に金は世界全体の保有量すらある程度目星がついているため不用意に増やすと大問題。

即座に警察に御用になる。

 

ならば彼女にとってその時代が生きづらいかと言えばそんなことはない。

遥かに科学が進んだ世界で技術者を務めていた経験を持つ彼女にとって、インターネットを通じてのハッキングとデータの改竄なんて朝飯前だからだ。

むしろ情報改竄が非常にやりやすい。

適当な経歴を打ち込んで戸籍を登録すれば、その世界での出自を捏造できる。

どうしても彼女の関係者となってもらわねばならない人間には『ブック・オブ・ジ・エンド』で偽りの記憶を差し込めば、アリバイも作れる。

『対象の過去を改変する』という危険な能力なので使用は最低限に、かつ当人に悪影響が出ないよう細心の注意を払わねばならないので、彼女自身としても多用はしたくないのだが。

 

そして遥かに科学が進んだ世界の知識を、彼女はすべて記憶している。

来訪先の世界をあまり荒らすことは望まない彼女だが、医療関係と地球環境保全につながる技術だけは話が別。

未だ彼女の本質は人類の守護者であり地球という惑星の守護神だからだ。

急激な変化が起きないように少しずつ段階を踏みながらだが、難病の治療薬や画期的な手術法、CO2排出量の少ないゴミ処理法などを次々と公開し特許を取得。

そのライセンス料を得る形で多額の金銭を得ることができる。

そして得た金を見込みのある企業に投資したり株を買って支えたり。

慧眼を持つ彼女は投資の失敗もほとんどなく、時間をかければかけるほど倍々ゲームの要領で資金を増やしていく。

 

そして出費はほとんどゼロ。

食事も睡眠も不要で病気もしないし、必要な物は自分で作ればいい。

彼女一人なら『衣食住』すら満たす必要がないので、避けられないのはもろもろの税金くらいだ。

 

結論として、リンネは転移した直後でもなければ金に困ることがない。

数年もあればその世界でも有数の富豪になれるし、方々に影響力を持つ権力者になれる。

 

だから『B小町』を当初の予定よりもデビューを遅らせることになり、そのせいで生じた金銭的な負担を減らすために、彼女は苺プロに多額の出資をした。

ついでに苺プロの株も出回ってる分は全部買い集めた。

今のリンネは苺プロの雑用全般をこなす新米スタッフであり、所属するアイドル達の専属トレーナーであり、筆頭株主であり、際限なく金を出してくれるスポンサーなのだ。

下っ端なのかお偉いさんなのかはっきりしていただきたいものである。

 

そして彼女はその財力と権力を使って、かなり大きなアイドルフェスにB小町のデビューライブをねじ込んだ。

斎藤社長は地下アイドルから始めさせるつもりだったが、リンネは『今の彼女たちを地下アイドル扱いする方が問題になる』と断言し突っぱねた。

 

この半年で社長やミヤコとリンネの間にも遠慮がなくなっており、そして社長はリンネの性格を正確に把握していた。

アレの本質は『暴君』だ。

周囲を慮りはするが核心の部分は絶対に意見を曲げてはくれない。

そして最終的には彼女のやり方が最良の結果を引き寄せるため余計にたちが悪い。

結果は良くても過程が散々だったりするので更に悪い。

そんな二人にも最近友達ができた。胃薬である。

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

「いやもう……場違い感ハンパないんだけど!?」

 

「騒いだら迷惑だよたかみー?」

 

「ねぇめいめい!私の衣装変じゃない!?髪とかはねてない!?」

 

「大丈夫、大丈夫だからニノ……ていうかアタシの方も大丈夫かなぁ!?」

 

このフェスに参加する資格を持った名だたるアイドルたちが出番を待っている控室の大部屋、その一角に苺プロが誇る無名の新人アイドルグループ『B小町』がいる。

半年の修行を乗り越えて……いや、己を保つことに必死だったうちに半年が過ぎ去って、見事超人の枠に片足を突っ込んだ彼女たちは、それでも自信なさげに慌てふためいている。

超人になってしまったからこそ、同じ部屋にいる周囲のアイドルたちが『コネで割り込んできた連中』である自分たちに向ける視線に込められた感情も感じ取ってしまうので猶更だ。

 

「なんでアイは平然としてられるのよ!?」

 

「ん~、慣れてるから?」

 

「……ごめん」

 

それが大舞台に上がることではなく『他人から向けられた悪意を受け止めること』だと気づいた高峯は素直に謝罪した。

なるほどリンネの言う通り、こんな悪意を向けられ続ければ気が弱い者でなくとも心を病んでもおかしくはない。

 

「それに、おばーちゃんより怖くないよ?」

 

「……たしかに」

 

そういえば心を病みそうになったのはリンネの修行中の方が先だった。

ニノと渡辺もその事実に気付いて、荒波のようだった彼女たちの心が一気に凪になる。

 

「考えてみれば、失敗したって死ぬわけじゃないのよね」

 

「「うんうん」」

 

若造が緊張感を紛らわせるために言いがちなセリフを堂々と吐くものだから、周囲は『何を今さら』とか『死ぬ気で取り組むつもりがないのか』と冷ややかな視線を向けられるが、あいにく彼女らの発言は比喩表現でなく実体験である。

半年に圧縮されたスペシャルハードコースは彼女らが耐えられるデッドラインギリギリアウトに設定されており、あの世とこの世の反復横跳びを前提としたスケジュールだった。

失敗は文字通り死を意味する。三途の川を渡る前に引き戻されてたけど。

 

 

「『B小町』さん!まもなくです!準備お願いします!」

 

彼女たちが平静を取り戻したところでタイミングよくスタッフがやってきた。

彼女らは円陣を組み、メンバーの中で一番勝気な高峯が音頭を取る。

 

「うだうだ考えるのはやめよ!

 私たちはあの日々を……あの地獄を乗り越えて、やっとここまで来たの!

 だったらまずはこの自由を楽しまなきゃ!」

 

「「「うん!」」」

 

「じゃあ行くわよ!せーのっ!」

 

「「「「『(アンテ)』っ!!」」」」

 

不可視の枷が砕け散り、4人の全身から強烈な威圧感が放出された。

新米アイドルを気にかけてすらいなかった者も含めて、同じ部屋にいた全員が一斉に視線を向ける。

まるで突然熊が……いや、鬼が現れたかのような存在感。

一瞬でも彼女たちから目を逸らすなと、防衛本能が警鐘を鳴らし続けている。

 

自分たちに向けられる視線に込められた感情が変化したことを察知し、4人は勝ち誇ったように不敵な笑みを浮かべる。

そうだ、何を恐れることがある。

仮にここにいる連中が一斉に襲い掛かってきても薙ぎ払える力が自分たちにはあるではないか。

ナイフを持っていても恐れるに足らず。拳銃だったら少し厳しいが多分ギリいける。

4人は別れた人垣の間を堂々と進み、残されたざわめきを気にも留めず大部屋の外へと歩いていく。

 

B小町の少女たちはアイドルの勝敗が何で決まると思っているのだろうか。

少なくとも腕っ節でないことは理解していると信じたい。

 

 

 

そして気持ちを切り替え『楽しむ』ことを選んだ彼女たちの選択が、結果的に最善だった。

 

人間は共感性を持った生物だ。

笑顔を向けられれば、人はつられて笑顔になる。

好意を向けられれば、よほどでない限りは相手を好意的に感じる。

そして彼女らは己の感情をダイレクトに伝える力を持っている。

 

だからようやく立てた夢の舞台を楽しむ気持ちがあふれ出せば、観客たちもつられて楽しくなる。

『愛してる』の言葉を受けて本当に愛を感じた観客たちは、彼女らを愛しいと思い始める。

4人もまた向けられた好意を純粋に受け止め、感謝の気持ちを込めて好意で返す。

 

想いが好循環し、光り輝く少女たちと会場を埋め尽くす人々の心は互いに高まりあっていく。

 

 

そして『B小町』というアイドルグループは、確かに人々の心にその名を刻みつけた。

 




現代社会で荒事が少ない世界だと戸籍だ記録だとかがとんでもなく厄介ですが、それを全部解決してくれるのがBLEACHの月島さんの完現術です。
全部月島さんのおかげです。
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