『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第11話 転生

 

双子を出産した直後、まだ休業期間は残っているがすぐにアイを人目に晒させた。

仕事をさせたわけではない。外に出して姿を見せただけだ。

それだけでも彼女の妊娠と出産をごまかすためのアリバイ工作になる。

半年足らずでお腹が膨れて出産して産後の休養を終えたなんて思うはずがない。

アイ自身もその産婆も普通の人間ではなかったからこそできた荒業だ。

 

双子の赤ん坊はすくすくと成長していき、3か月もすれば首が据わり、周囲をきょろきょろと見回すようになる。

そして周囲の大人たちの言葉がわかっているような反応をする。

 

その頃にはとっくに休業期間は開けて、アイが復帰したB小町は超過密スケジュールで活動を再開している。

斎藤社長もミヤコも、本業は役者であるヒカルでさえもそのサポートに駆り出されている。

 

そしてリンネは他に誰もいなくなる日を見計らって、双子へと声をかけた。

 

「……お主ら、前世の記憶があるじゃろ」

 

「「!?」」

 

二人の赤ん坊は明らかに言葉を理解し、反応した。

前世がどれくらいの年齢だったかは知らないがどちらも若いようだ。老獪さを感じられない。

 

「……ば、ばぶー?」

 

「隠さんでもいい。儂も同類じゃ」

 

「「ぶ!?」」

 

「他の者に口外もせん。……言葉は話せるか?」

 

 

「……はい。話せます」

 

「!?」

 

兄であるアクアが口を開き、ハイハイで少しリンネに近づいてきた。

おいて行かれた妹のルビーが驚いており、少なくとも彼女は兄も転生した存在だと気づいていなかったようだ。

 

「他の連中の前では言えぬことがあるなら、今のうちに儂に伝えておけ。

 ……成長した自我を持つまま赤子を演じるのは、それなりに苦痛であるからな」

 

「ですね……自我がはっきりしてきたのは最近なので問題が表面化するのはこれからでしょうが。

 しかし本当にアナタも転生した経験があるんですね。

 初めてお会いしたときから、ただ者じゃないと思っていましたが……」

 

「……もしや?」

 

「えぇ、僕は生前に一度アナタにお会いしています。

 およそ4年前に、九州で……覚えていらっしゃるでしょうか?」

 

4年前に九州と言えば、B小町の地方ライブの一環で訪れたことしかない。

しかも彼の口ぶりではすれ違った程度ではなさそうだ。

最低限でも会話はしている様子。そして一人称から男性と推測。

ここまで絞れば該当する人物は数えるほど。

アイとヒカルの魂が混ざってわかりにくいが、彼の魂の質を一つずつ記憶の中の人物と照らし合わせていけば。

 

 

「……会場にいた、医者の青年か?」

 

「え……!?」

 

「そうです」

 

しかしリンネとアクアは、少し離れたところにいたルビーが呆然としていたことに気付かなかった。

 

「しかし、まさか本当に覚えておいでとは。

 アナタがアイの義母だということにも驚きましたが……」

 

「儂は一度覚えたことは忘れんよ。

 そうか、あの時の青年がアクアか。そして……」

 

 

 

「あの時一緒にいたお嬢ちゃんが、ルビーか」

 

 

 

「…………え?」

 

リンネが引きずり出した彼に関する記憶には、当時彼の隣にいた病に侵された少女の魂の情報も付随していた。

だから改めてルビーの魂を見ればすぐに気づいた。

そして彼らは互いに気づいていなかったようだ。

 

「……せんせ、なの?」

 

「……さりな、ちゃん?」

 

 

「わぁぁぁぁぁん!せんせ!せんせぇーーーーーっ!!」

 

顔をぐしゃぐしゃにしたルビーが小さな手足を必死に動かして進み、アクアもまた彼女を受け止めようとする。

しかし赤ん坊の体では耐えられず、まるで押し倒されるかのように後ろに倒れこむ。

 

「っとぉ!」

 

リンネは咄嗟に傍にあったクッションを掴みアクアの背中へと投げつける。

アクアの後頭部と床の間にすっぽりと収まり、怪我をさせずに済んだ。

 

「うぁぁぁ、うぁぁぁぁーーーっ!」

 

自分の胸に顔をうずめ叫び続ける妹。

アクアはその背中に腕を回してやりたかったが届かず、小さな掌を頭の上に添えて撫でるに留めた。

 

彼女が泣き疲れて眠るまで、兄は静かに彼女の傍にいた。

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

眠ったまま自分にしがみつくルビーをそのままに、アクアがリンネの質問に答えていく。

 

病に侵された少女……『天童寺さりな』は、ついぞ完治することはなかった。

彼女が4歳の頃に『余命数年』と宣告されていたが、近年になって急速に関連分野の医術が発展し光明が見えてきたところだった。

しかしわずかに死を遅らせただけで、彼女は15歳という若さで息を引き取った。

 

医者の青年『雨宮吾郎』にとって、彼女はただの患者の一人。

だが医者としては不適格なことに、彼はさりなに感情移入をしすぎていた。

彼女を安心させるためのでまかせだったはずの『16歳になったら結婚を考えてやる』という口約束を、彼女の生きる意志に繋がるのならと真剣に考えていたほどに。

だからこそ約束の日を前にした喪失は彼の心を深く傷つけた。

上司から『気持ちを切り替えろ』と命じられ、憔悴したのまま病院の外に散歩に出たところ、足を滑らせて崖から落下。

彼もまた、そのまま帰らぬ人となった。

 

「『雨宮吾郎』……これか?」

 

「……はい。見つかったんですね、僕の遺体。

 自然の多いところだったから難しいかもと思っていましたが」

 

検索したニュース記事の画面を見せて、当人に確認を取った。

彼らの遺族に伝える言葉があればと尋ねたが雨宮吾郎は血縁もおらず、天童寺さりなの母は娘を病院に預けたまま、見舞いどころか彼女の死後ですら顔を出さなかった最低の親だそうだ。

二人とも前世に未練がないなら新しい人生を望むとおりに生きればよいと諭したが。

 

「……いいんでしょうか?」

 

「何がじゃ?」

 

「だってさりなちゃんはともかく、僕はアイより年上だった大人の男です。

 そんな奴が自分の子供だなんて……気持ち悪いでしょう?」

 

「お主が『雨宮吾郎』のままだったらな。

 しかしお主はもう『星野アクア』じゃぞ?」

 

前世の記憶と自我を持っていたとしても、生まれ変われば両親の影響は必ず受ける。

魂すらも変質するのだ。人格にだけ変化がないなんてありえない。

 

「少し、怖いです。自分が自分でなくなるみたいで……」

 

「衝撃的な経験をすれば考え方が変わるのは当たり前じゃろ?

 むしろ『生まれ変わる』ような劇的な経験をして変化がない方が異常じゃ。

 人は思考し経験を積み重ねて常に変化し、新しい自分に生まれ変わっている。

 今回はその振れ幅が大きいと言うだけじゃ。

 変化を恐れるなとは言わんが、拒絶はするな。

 アイのためを思うのならば猶更じゃ」

 

「……アイの名前を出されちゃ言い返せませんよ。

 僕もさりなちゃんも、アイのガチ恋オタクですからね」

 

「げらげらげら。……そして儂からも、伝えておきたいことがある」

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

「ただいまぁ~~っ!

 アクア!ルビー!ママが帰ってきましたよぉ~~っ!!」

 

夜中にドタバタと音を立てて仕事から帰宅したアイの後ろに、呆れながらヒカルが続く。

彼も一人用の部屋を一つ与えられているが、都合が合うときには家族用の広さがあるアイの部屋に泊まるようにしている。

息子たちが妙にアイになついているのに父親である自分には今一つなので、彼も必死だった。

 

「……」

 

「アイ?」

 

「しーっ」

 

先に部屋に入ったアイが突然静かになったのでいぶかしんで声をかけると、アクアとルビーがベビーベッドで眠っていた。

二人は互いの手をしっかりと握りしめている。ルビーの眼には涙の跡があったが、二人とも笑顔だった。

アイがベッドの淵に顔を乗せ眠る双子をじっと見つめている。

ヒカルも荷物を置いて隣に行こうとしたが、そこでリンネの姿が見えないことに気付く。

いくつか部屋を見て回るがおらず、残るはここだけとベランダの窓を開けた。

 

「リンネさん?」

 

「おぉ、おかえり」

 

「煙草、吸われるんですか?初めて見ました」

 

「ん、まぁ、たまにな」

 

「……ヒカル、こっちに」

 

「えっ?」

 

二人の会話が聞こえていたアイは、ヒカルを無理やり連れ出しリンネを一人にする。

 

彼女のソレが、不器用でうまく泣けない彼女が『涙を流す代わりの儀式』だと知っていたから。

 

 

 

 

この煙にもすっかり慣れ、むせることもなくなった。

今ではかつて父だった人の仕草を真似る余裕すらある。

人差し指と中指の付け根に挟み、掌を顎に添えるような形で口元に持っていく。

母だった人が彼の見た目を褒めたのは、その姿だけだったそうだ。

 

「……はぁー……」

 

リンネはすべて暴露した。

転生を繰り返した自分は超常の力を持つ仙人のようなものだと。

かつてさりなの体調を回復させたのは自分が持つ超常の力であり、あの場で彼女を完治させることも容易かったと。

脳腫瘍に関する医術を公開していたのも自分であり、もっと早く多くの情報を出していれば治療に成功する見込みも高かっただろうと。

しかし全てを聞いたアクアはその行いの理由を察し、湧き上がってきた言葉を飲み込んだ。

 

リンネは今でも自分の選択が間違っていたとは思わない。

似たような状況に陥ればまた似たような選択をするだろう。

さりなの親の話を聞けば、病気が治れば彼女が幸せな生活を送れたという保証もない。

奇跡の治癒に伴う騒動に巻き込まれ不幸に陥る可能性の方が高かったのも間違いない。

 

だが自分なら助けることができた命を理由をつけて切り捨ててしまったという事実を、改めて目の前に突きつけられると。

 

 

 

 

「しんどいの」

 




原作よりさりなは長生きしていますが、それはつらい闘病生活が長く続いたということでもあり、中途半端な期待を抱いて結局裏切られたという現実は二人の魂をひどく摩耗させる結果となりました。
だからこそリンネも余計に罪悪感を感じています。
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