『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第12話

 

センターが半年も不在になっていたアイドルグループ。

並みのアイドルなら世間に忘却されていてもおかしくはないが、生憎彼女たちはそんじょそこらの量産型アイドルとはわけが違う。

 

何しろB小町は他に類を見ない『歌って、踊って、戦うアイドル』だからだ。

 

結成当初から新米アイドルグループとしては破格の数の楽曲を持つB小町はそれと同じ数だけMVがあり、中には彼女たちの優れた身体能力を前面に押し出したアクションムービーのようなものもある。

本気を出した彼女たちの暴れっぷりは合成映像かワイヤーアクションだと誤認して当然だったが、だとしても彼女たちが『動ける』人間だと一目でわかるものだった。

 

もちろん、それは苺プロの狙い通り。

『本格的なアクションができるアイドル』という独自の強みを生かし、アクション俳優に近い形で彼女たちをプロデュースしたのだ。

命の危険があるスタントマンは高給だ。それが必要ないというだけで大幅なコストカットに繋がる。

特に特撮ヒーロー番組などにおいて、年の近い容姿端麗な美少女たちの活躍は少年少女のハートをガッツリと掴むことができる。そこから彼らの親へも名が伝わっていく。

そして彼女たちは歌手でもあるのだから、ついでにそれらの番組の主題歌や挿入歌などの案件も引っ張れる。

どちらかと言えば色物路線だが無名よりは遥かに良い。

能力が知れ渡っていけば正統派アイドルらしい仕事も得られるようになると予想し、それは一応の成功を修めていた。

 

とはいえ、これは消去法で選択した苦肉の策であった。

アイドル業務でまともに学校に行っていなかったことを差し引いても、彼女たちの頭は非常に残念だったので。

頭の回転自体はそこまで悪くないが、知性派キャラで売っていくのは絶望的過ぎた。

『B小町』の『B』は『武人(バトルマスター)』の略というのがファンの間で最も有力な説だ。

ちなみに次点は『蛮族(バーバリアン)』である。

どんなアイドルだとツッコミたいところだが否定できないのが口惜しい。

 

 

 

 

「うんうん、やっぱりアイドルって儲かるんだねぇ~~」

 

「そんなわけないだろ?普通のアイドルなんて下手すりゃバイトより手取りが少ないんだぞ」

 

「そうなの!?……つまりママはスペシャルってことね!」

 

「残念ながら少し違う。仕事がアイドルだけではないからじゃよ。

 コマーシャルやモデルやドラマの出演などがなければアイたちの月給は30万にも届くまいて」

 

「いくらライブで動員人数増やしても、物販でグッズを売っても、舞台のレンタル料やグッズの製作費やスタッフへの給料を差し引いたらほとんど残らないんだよ。

 どれだけ絶対数が増えても所詮は個人だからな。

 大勢の従業員を抱えて、大勢の顧客を持つ企業を相手にしてようやく大きな金が動くんだ」

 

「うぇ~~~……なぁんか夢がないなぁ」

 

「くけけけ。芸能界は『夢を見る』世界ではなく『夢を売る』世界じゃからの。

 役者たちの心身を切り売りして金に換えとるようなもんじゃ。

 相応の覚悟と決意がなければあっという間に枯渇する。

 だからこそ平均寿命も他の職業に比べ著しく短い」

 

一人事務所に残って事務仕事をするリンネの両肩には双子の赤ん坊が乗っていた。

多忙とはいえ産まれたばかりの二人を放置するわけにもいかず、事情が事情なのでベビーシッターを雇うわけにもいかない。

だから義理の祖母であるリンネが二人の世話役を任されていた。

前世の記憶を持つアクアとルビーも事情を知っているリンネと一緒にいた方が自由が利くので『彼女に懐いている』アピールをしてその決定を後押しした。

最近、双子の実母であり自分の娘であるアイからの視線に露骨に嫉妬が混じっているのがつらいところだ。

 

アイドルを夢見ていた少女さりなの記憶を持つルビーは、今度こそアイドルになりたいと願っている。

しかし前世で15歳まで生きたとは言えずっと闘病生活だった彼女は精神的に幼くいろいろと世間知らずだ。

前世でさりなの夢を応援していた吾郎の記憶を持つアクアも、娘であるアイを後押ししたリンネも、ルビーの夢を叶えてやりたいとは思う。

だがその苦労や苦痛を知らぬままの彼女をただ肯定するわけにもいかず、二人して彼女に現実を教え込んでいるのだ。

 

「ぶーぶー!おばーちゃんが一番夢みたいな存在のくせに!」

 

「そこはオレも同意見です」

 

「うーーん、否定できん」

 

「……そうだ!ご自慢の魔法でささっとママをトップアイドルにできない!?」

 

「儂のは魔法ではないと何度言えば……まぁできんことはないが」

 

「ほんと!?」

 

「儂が出資しとる企業全てに要請すれば一瞬でオファーの山じゃ。

 B小町を主演にすることを条件にドラマや映画のスポンサーになってもいい。

 ドームだって札束積めば貸してくれる。すぐにでもドームライブが開けるぞ?」

 

「夢がなーーーい!魔法はどこいったのーーーー!?」

 

「げらげらげら。平和な現代社会では武力や超能力より権力と財力の方が強いんじゃよ。

 ……ま、あの子たちの実力は本物じゃ。

 儂が余計なことをせずともいずれ勝手に辿り着くじゃろ」

 

「いずれっていつよぉ~~」

 

ルビーは口をとがらせて拗ねてしまった。

重度のアイファンとして、娘として、アイの実力が評価されていない現状が気に食わないようだ。

 

「……でも、オレもルビーの言いたいことはわかります。

 アイならもっと売れててもいいんじゃないですか?」

 

「まぁな。じゃが今のところそのきっかけがない。

 こればっかりは運じゃからなぁ~~。

 儂も社長らも、法や人道に背かぬ範囲で手を尽くしてはいるが……お?」

 

そこでとある考えに思い至り、リンネはジャージの袖の隙間から伸ばした帯で肩に乗っていた二人を持ち上げ目の前に持ってくる。

 

「手っ取り早い方法が一つあったな。

 まともではないが違法でもない、バカ受け間違いなしの策が」

 

「なになに!?どんな作戦!?」

 

「げらげらげら。いつの時代も動物と赤ちゃんコンテンツは老若男女問わず愛されるもんなんじゃよ」

 

「「……へ?」」

 

 

 

 

アクアとルビーはアイの子供だが、アイの弟妹として扱っている。

だからアイのSNSアカウントでは二人と一緒に映った写真も公開しているし、苺プロもそれを正式にフォローしている。

そして他のB小町のメンバーにも協力してもらい、『アイが自分をママと呼ばせるほど双子を溺愛している』という情報も流した。

天然おバカキャラとして知られる彼女ならあり得る話だと多くの人が納得しているし、うっかり口を滑らせても冗談で押し通すことができる。

そして幼い双子がアイの仕事を見に来ることも、決しておかしなことではないと認識させられる。

 

だからリンネはサプライズで、アイたちB小町が出演する音楽番組に双子を連れてきた。

招待された一般観客の席の一画を確保し、そしてB小町の出番が来たところで。

 

 

「「ばぶばぶばぶばぶばぶ!!!!」」

 

 

前世からの厄介オタクファンによる渾身のオタ芸が披露された。

 

B小町ならリンネの気配を察知できるが、今日の彼女は完全に気配を消していたので会場に来ていることに気付いていなかった。

突然の事態にアイとB小町だけでなく、スタジオの芸能人もどよめきスタッフはカメラを向ける。

 

 

「……きゃわわぁ~~~~~~っ!!

 アクアー!ルビーーっ!!」

 

「「ばぶーーーーーっ!!」」

 

 

そこで周囲もこの双子がB小町のアイの弟妹であることに気付く。

そしてこの日に先駆けてリンネは独断で苺プロに『子役部門』を設立し、双子を所属させていた。

 

であればテレビ番組スタッフとしてはこれほどのネタを見逃す理由はなく。

放送にあたり編集される際に、双子の映像は削られずそのままお茶の間に放映された。

 

生まれついてのアイドルオタクである双子の赤ん坊と、その姉であるB小町のアイは、今までアイドルに興味がなかった層にまで広く認知されるに至った。

 

 

 

そしてその夜、リンネは斎藤社長にめっちゃ怒られた。

反省も後悔もしていなかったが。

 

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