『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第13話

 

当人たちの同意と希望があったとはいえ、赤子を利用するゲスな策略を企てたリンネによりB小町は時の人となった。

今まで女優としての彼女たちが取りざたされていたのはアクションシーンばかりで、むしろそちらが派手なせいで影に隠れていた。

だが彼女たちが普通に演技もできるアイドルだということは、業界では既に周知の事実。

若き天才役者カミキヒカルの薫陶を受けたというのは伊達ではないのだ。

最初はアイだけだったが、その後高峯・渡辺・ニノも指導を受けている。

 

苺プロはその性質上仕方がないのだが、守秘義務契約がとんでもなく厳しい。

わずかな情報漏洩も許さず、仮に問題が起きた場合はとことんまで責任追及しとんでもない額の賠償請求が生じるような契約になっている。

だからその差分として、苺プロの役者の雇用コストは平均よりもかなり低くなっている。

潤沢な資金を持つ弱小プロダクションという、あまりに矛盾した存在だからこそできた強気な設定である。

 

よってB小町はその能力に反して著しく安価で雇用することができる。

そして今回の一件で知名度が爆上がりしたため、企業のコマーシャルやドラマ出演のオファーが一気に押しかけた。

 

普通ならプロダクションの処理能力を超えるに決まってる。

特に今、苺プロの事務処理担当は実質的に一人しかいないのだ。

しかしその一人が比喩表現でなく千人力だった。

B小町の4人は超人だが、こちらは超人どころか人外である。

元々の事務処理能力が図抜けているくせに、24時間不眠不休で活動する。

加えて双子の赤ん坊の世話も担当している在宅勤務なので、周囲の目がないのをいいことに分身を使い始めた。

後日、社内の監視カメラの映像を見た社長と副社長が盛大に噴き出したのは言うまでもない。

多忙な業務と常識外れな連中に囲まれた斎藤夫妻にとって、引き取った義理の息子との触れ合いが唯一の癒しだったりする。

 

そんな激動の日々を過ごすことおよそ1年。ついにアイに映画の出演依頼がやってきた。

かなりの低予算映画で主演でもないが、初めての銀幕デビューだ。斎藤社長がはしゃぐのも無理はない。

しかしここで問題が一つ。

映画監督が『星野アクアも出演させたい』と言い出したことだ。

先日双子がアイのドラマの撮影に同行し、そこで五反田監督に気に入られたらしい。

 

これが斎藤大輝へのオファーだったら理解できるし問題もない。

リンネが勝手に子役部門を設立したことを契機に、彼は自分の意志で苺プロの子役として活動を始めた。

そしてわずか1年でB小町、カミキヒカルと並ぶ苺プロの看板役者となっている。

まだ幼い彼は秘密を漏らす可能性が高いので双子の真実や自身とヒカルの関係性などは伏せられたままだが、ヒカルの弟分として育った彼の演技力は同年代の中でも突出している。

 

対してアクアは『アイの弟』という地位しかない。

ようやく歩くことと言葉を話すことができるようになったばかりの赤ん坊だ。

オタ芸動画は有名だが演技とは無関係、アイが演技派アイドルだからといって弟がそうとは限らない。

知名度を使った話題性が狙いならルビーでもいいはずだ。

監督に見せたことはないが演技なら彼女の方がうまいと断言できる。

なのに彼は『星野アクアがいい』と断言している。

 

悩んだ末に、アクアはこのオファーを受けた。

自分が役者になるなど想像していなかったが、ここで監督の不興を買って万が一にもアイの出演が流れるような事態に陥りたくない。

何より『一緒に出演したい』というアイの懇願を断ることができなかった。

 

「というわけで、アドバイスがほしいんだけど……」

 

「……なるほど。監督がアクアに求めているものがわかったよ」

 

「本当?」

 

「自分の息子にこんなことは言いたくないんだけど、つまりね……」

 

少しでも良い映画にするためにと、アクアは父親であるヒカルに台本を見せて尋ねた。

 

「ぶっすぅ~~~~~」

 

自分が相談に乗ると言い出す前に、アクアがヒカルを頼った。

その事実にアイはわかりやすく不貞腐れた。あざとすぎる母親もいたものだ。

 

「……よし、ゆけぃルビー!」

 

「ママだっこしてーーーっ!」

 

「うん!おいでーー♪」

 

そしてすぐ笑顔になった。チョロすぎる母親もいたものだ。

 

 

 

 

低予算映画だからこそスケジュールもかつかつ、出番の少ないアクアは1日ですべてのシーンを撮り終えてきた。

 

「父さんの予想通りだったよ」

 

「アクアなら、自分一人でも気づけたと思うけどね」

 

五反田監督がアクアに求めていたのはむしろ『演技しないこと』だった。

映画のジャンルは和製ホラー。アクアの出番は気味の悪い子供たちが主人公を出迎えるシーンだ。

そして五反田監督がアクアを雇用した理由。ヒカルが渋々自分の息子に代弁した彼の考えとは。

 

『お前は気味が悪い』

 

監督の意図を正確に理解し実行したアクアは100点の演技だと絶賛された。

 

「ぷっぷー!あのお子ちゃまの悔しがる顔ったらなかったなぁー!

 写真撮っときゃよかったー!」

 

「お子ちゃまって、オレたちの方が年下だろ?

 それに演技自体は、有馬の方がずっと上手かった」

 

「有馬?あぁ、『10秒で泣ける天才子役』じゃったか?」

 

「そうそう!『重曹を舐める天才子役』!」

 

「まだ言うか……有馬がかわいそうになってきた」

 

映画の共演者として、今話題の子役もその場にいたらしい。

現場でどんなことがあったのか、ヒカルと一緒にアクアとルビーから話を聞いていく。

 

自他ともに認める天才子役である『有馬かな』はアクアたちより一つ年上の幼女だ。

彼女は『苺プロの子役が来る』と聞いて、自分と同じく天才子役と呼ばれている『斎藤大輝』の方だと勘違いしていたらしい。

自尊心の高い彼女は『子役としてどっちが上か』をはっきりさせるため意気揚々と乗り込んできたのだが、相手が別人であり無名の子供と知り露骨に落胆した。

カミキヒカルが所属する苺プロの子役であり、それなりに演技ができるらしいアイドルの弟なら全くダメということもないだろうと言葉にしつつも、『自分の足を引っ張るな』とアクアを馬鹿にしたらしい。

有馬は確かに能力は高いが、それ以上に傲慢で我儘な性格だった。

あまりのクソガキっぷりにアクアだけでなく、溺愛する兄を馬鹿にされたルビーにも青筋が浮かび上がった。

 

そして盛大にわからせた。

有馬の演技は大口をたたくだけのことはあったが、それ以上にアクアが適役過ぎた。

見下していた相手に敗北した有馬は盛大に泣き、アクアを一方的にライバル宣言してきたそうだ。

 

「オレは役者になるって決めたわけじゃないんだけどな……」

 

「そうなのかい?アクアならいい役者になれると思うんだけど」

 

「そう言ってくれるのはうれしいし、演技は楽しかったよ。

 でもオレ、夢があって……医者になりたいんだ」

 

アクアは前世である雨宮吾郎の時になれなかった『外科医』を目指そうと考えていた。

彼は研修医時代にさりなと出会い、そのまま小児科医となっていた。

頭脳をそのままに生まれ変わった今世なら、今から勉強すれば問題なくなれるはずだ。

 

 

「だったらどっちもなればいいのではないか?」

 

「……どっちも?」

 

「俳優やって25くらいで引退して、その後で医者になればよかろう?」

 

「えっ!?いや、医者になるのはすごく大変で……!」

 

「大変かの?」

 

「…………そうでも、ない!?」

 

ここでようやくアクアも気づいた。

前世の記憶をそのまま持ち越している彼はすでに医者としての知識と頭脳を保有している。

それを維持する程度の勉強ならばそれほど時間を割く必要もないだろう。

医学校に通うのは金がかかるが資金は潤沢。

そして自分の事情を知ってサポートしてくれる祖母は、未知の医術を次々と放出している世界最高峰の医者。

環境が良すぎる。前世に比べたらあまりに低いハードルだ。

 

「いいじゃん!だったらおにいちゃん、私と一緒にアイドルやろーーっ!」

 

「はぁっ!?いやそれは流石に無理!

 だったら父さんみたいに役者一本の方がマシ!」

 

「えぇ~~?絶対バズるよ、双子アイドル!」

 

「ははは、まぁ嫌じゃないなら両立も考えてみてほしいかな。

 僕も息子と共演してみたいからね」

 

「欲張りになっていいんだよ?

 だってアクアは私の息子なんだからね!」

 

「……そう、だな。わかった。しばらくはどっちも頑張ってみるよ」

 

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