『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第14話 有馬かな

 

アクアはひとまず子役として活動してみることを決めた。

彼が初出演した映画の話題はアイが全てかっさらっていってしまったが、だからアイの弟ということになっている彼にはネームバリューがある。

そもそもの絶対数が少ない子役という存在は非常に価値が高く、見た目の愛らしさもあって様々な番組に呼び出され、一躍人気者になった。

 

そして彼は『アクかな』というコンビ名がつくほど有馬かなと共演することが多かった。

アクアがいると彼をライバル視する有馬が全力を出し、そして精神的に大人びている彼が我儘な有馬の手綱を握ってくれるので、番組スタッフが彼らはセット扱いがベストと学んだからだ。

 

付き合いが長くなれば親交も深まる。

有馬は暇があれば苺プロの事務所に遊びに……いや、演技の訓練に来るようになった。

国内最高峰の役者カミキヒカル。

年上とは言え自分以上の天才子役だと認めざるを得ない斎藤大輝。

そしてライバルである星野アクア。共にいて学べることは多い。

有馬の事務所も超少数精鋭ながらトップ俳優を抱える苺プロとの繋がりは是非とも欲しいので全面的に協力していた。

それになにより、彼女の我儘に振り回される頻度が減るので。

 

 

そして付き合いが続くことおよそ2年。

アクア、ルビーは3歳。有馬は4歳。大輝は7歳になっていた。

 

「「……ぬがぁぁぁぁぁああああっ!!」」

 

「どうした二人とも。女子がしちゃいけない声出してるぞ」

 

「どうしたですって……?決まってるでしょ!!」

 

「なんで!?なんで勝てないの!?」

 

演技を見抜く目と、それを翻弄する演技力を身に着けることができるからと、ババ抜きをしていた子供4人組。

大輝に負けるのは仕方ない。彼の演技力は自分以上だ。

アクアには負けていないと思うが、彼は特にポーカーフェイスが得意なのでまだ何とか納得はできる。

 

「げらげらげらげら」

 

だが子供たちの世話役として混ざっているこの年齢詐欺女性スタッフに負けることだけは納得できない。

何度やっても彼女がトップを取り、有馬とルビーがビリを争う結果になる。

子供で負けず嫌いの有馬に耐えられるものではない。ルビーはもう少し我慢してもいいと思う。

 

「懐かしいなぁ。私たちもよくボコボコにされてたよねぇ」

 

「特にたかみーはねー」

 

「お?喧嘩売っちゃう?今なら負けないよ?」

 

「その喧嘩って絶対殴り合いの方でしょ……これ以上悪評広めたくないからやめようね?

 特に今は大事な時期なんだから」

 

B小町の4人が事務所の一画を占拠する子供たちと師匠を眺めつつ不穏な空気を醸し出していた。

 

もうすぐ彼女たち全員が20歳……成人になる。

人生における一つの大きな節目だ。

だから社長はそのタイミングでドームライブを開くと決め、現在ミヤコと一緒に日程の調整に奔走している。

彼女たちもドラマやコマーシャルの撮影の仕事を一時休業し、アイドルとして万全の状態で挑めるように当日まで事務所でレッスンを繰り返している。

 

「マ……おねーーちゃーーーん!

 勝てないよぅ!おばーちゃんに勝てないよぅ!!」

 

「アイツ、イカサマでもしてんじゃないの!?」

 

「「「「してるよ」」」」

 

「してんのかいっ!!」

 

有馬は生粋のツッコミキャラであり、その切れ味は中々のもの。

口の悪さもあって芸人適性が高いと思う。ボケのルビーと組めば漫才師として売り出せるかもしれない。

 

「してるって言うより、してしまうって方が正しいんだろうけどな」

 

「アクア、お前は六道さんが何してるのか知ってるのか?」

 

「姉さんたちがババ抜きでボコボコにされた話はオレも聞いたことがあるから」

 

アクアは兄貴分、相手はそれを知らないが本当に異母兄弟である大輝の質問に答える。

 

 

 

「トランプの裏面の印刷ズレとか小さな傷跡とかで、どれがどのカードかわかっちまうんだってさ」

 

「「「…………は?」」」

 

彼女の動体視力と記憶力を持ってすればこのくらい造作もなく、狙いを定めればショットガンシャッフルした紙束からピンポイントで1枚抜き取ることも可能だそうだ。

海外のカジノにでも行けば大儲けができるだろう。

ギャンブルに頼る必要もないほど収入があるが。

 

「だったら目を閉じるとかすれば解決するんじゃないんですか?」

 

「なんでわざわざ負けてやらにゃならんのじゃ。

 勝負を挑まれたからには全力で勝つぞ儂は」

 

「「……大人げない!!」」

 

「人生を楽しく生きるコツは、童心を忘れないことじゃよ」

 

「ガキっぽいのは見た目だけにしなさい!

 中身までガキならそれはもうただのクソガキなのよ!」

 

「カードがばれてるなら絶対勝てないじゃん!

 悔しいよぅ!ギャフンって言わせたい!!」

 

「おばーちゃんに勝ちたいの?

 だったら簡単な方法があるよ?」

 

「「ホント!?」」

 

 

 

 

そして有馬とルビーはアクアと大輝の同意も勝ち取り、多数決を行使して勝負を『七並べ』に変えると。

 

「あはははははは!そこまでいけばもう才能よアンタ!」

 

「……ギャフン」

 

配られたリンネの手札には『1』『2』『Q』『K』しかない。

何度配りなおしても絶対にだ。

 

リンネは致命的に運がない。だから運の要素が強いゲームでは勝ち目がない。

自分でカードを配ればどうにでも小細工ができるが、公平を期すためニノにお願いしたので不可能。

そして因果律の操作まではしないでおこうと踏み止まっている。

そこまでやったら大人気ないどころか人でなしだ。

 

「あー、スッキリした!」

 

「そうか、ならそろそろ帰る準備しとけよ」

 

「言い方ってものがあるでしょ!

 ……でもそうね、もうすぐマネージャーも迎えにくるだろうし」

 

有馬が立ち上がって壁に掛けられていたトレードマークの帽子と小さなカバンを持ちあげたところで思い出し、振り返って尋ねる。

 

「そういえば大輝。アンタなんでこの間の番組出なかったの?

 今度アタシも出るんだけどその時はいるのよね?」

 

それは彼がここしばらく準レギュラーと言えるほど頻繁に出演している番組を指していると気づいて、彼も答える。

 

「あそこにはもう出ないよ。

 代わりに出演した後輩も番組に馴染んでたし、そっちに後を任せるつもり」

 

「はぁ!?このままなら絶対レギュラーになれるのに勿体ない!」

 

「それがウチの方針だからだよ」

 

「父さん」

 

そこで部屋の扉を開けて斎藤社長が入ってきた。

有馬たちの会話も聞こえていたようで彼女の疑問に答える。

 

「もう十分に知名度は稼いだからな。ここからはブランド価値をつける段階だ」

 

「何それ?今頑張ったらもっともっと有名になれるのに!」

 

「有名になりすぎるのも顔を出しすぎるのもよくないんだよ。

 好きな料理だってずっとおんなじもの食べてたら飽きちまうだろ?

 それでも無理やり食わされ続けたら嫌いになっちまう。それと同じさ」

 

「……え?」

 

「いつもどの番組でもずっとおんなじ顔が映ってたら、よほどのファンでもない限り視聴者は『鬱陶しい』と思い始めちまうんだよ。

 だからこれからは忘れられず、嫌われないラインを狙って露出を絞るんだ。

 それが長く愛されるコツってやつさ。大輝の負担も抑えてぇしな。

 ちなみに、もうちょっとしたらアクアもその段階に入れるつもりだ。

 いいもんだから売れるなんて保証はねぇ。いいもんだからこそ売り出し方を考えなきゃいけねぇんだよ」

 

「……え?でも、だって……」

 

「有馬?」

 

「ママは、たくさん仕事をこなしていけば、どんどんすごい役者になれるって……」

 

「……下手な売り方してんなとは思ってたが、事務所じゃなくて母親の横やりだったか。

 今の嬢ちゃんは将来の人気を前借りしてるようなもんだ。その分芸能人としての寿命も縮めてる。

 嬢ちゃんがどんなにすごい役者でも、どんなに頑張っても、一度嫌われたらもう取返しがつかねぇぞ?」

 

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