『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第17話

 

B小町はついにドームライブを成し遂げ、斎藤壱護は己の夢を叶えた。

だがこれで何もかもが終わったというわけではない。

B小町が今すぐ解散するわけでもなく、他にも少数ながら役者を抱えている。

そのどれもが一流となれば、苺プロとスタッフたちの激動の日々は続いていく。

 

 

 

ドームライブから3年後、有馬かなは苺プロへと移籍した。

 

彼女はアクアのサポートを受けて、人前で常に『愛される役者』の演技を貫き通した。

確かに彼女は子供であり、保護者の権限は大きいのかもしれない。

しかし周囲が求めているのは有馬かなであってその保護者ではない。

 

突然の豹変には驚いたが、周囲を気遣い大人な対応をする子役と、子供染みた我儘を続ける母親。

二人の意見が一致しなかったとき、どちらの意見が優先されるかと言えば前者以外になく、有馬が成長するほどに保護者の発言力は急落していく。

今までは母親の顔色を窺っていた有馬の事務所も、苺プロというバックを得て強気に対応できるようになったことも大きかった。

母親の意見を無視して有馬の露出を絞り希少価値を高める方針に切り替え、おかげで有馬の人気の急激な低下はかろうじて避けられた。

この成功も理由となり、やがて周囲は有馬の母親を露骨に遠ざけるようになる。

 

そこで考えを改めてくれることを期待していたが、彼女は結局最後まで変われなかった。

一時の仮初の栄光が忘れられずヒステリー気味に当たり散らし、有馬の父親は妻に愛想を尽かして不倫し失踪した。

まもなく彼女も適当な理由をつけてさっさと実家に引っこんでしまった。

ついぞ娘と向き合うことなく、娘を置き去りにして。

 

有馬は悲しんだが、その事実を受け止めた。

同僚や信頼できる大人と触れ合う内に精神的に成長し、いかに自分の母親が異質かを知った彼女は心のどこかでこの結末を予想していたのかもしれない。

 

しかし稼ぎがあるとはいえ、いや稼ぎがあるからこそ子供である有馬の一人暮らしは危険極まりない。

どこか信頼できるところに身を寄せたいと考えるのは当然だろう。

そして彼女にとって最良の環境とは巨大な自社ビルの中に社員寮を兼ね備える苺プロを置いて他にない。

 

今までの事務所同士の連携と苺プロへの恩もあり、彼女の移籍はスムーズに行われた。

『アクかな』を周知していた世間も『今更か』という反応で、中には『有馬かなは苺プロ所属じゃなかったのか?』という声も多数見受けられたほど。

一切の演技をしなくていい苺プロの事務所は彼女にとって癒しの場所であり、隙あらば入り浸っていたことは割と有名だったので。

 

そして正式に苺プロ所属となったことで、有馬はその秘密の全てを明かされることになる。

オカルトの存在、アイとヒカルの関係、ヒカルと大輝の関係も全て。

少し前にすべてを知らされた大輝自身が『有馬にも知らせておいた方がいいだろう』というので包み隠さずに。

 

まもなく彼女の怒号と絶叫が事務所に響き渡った。

関係者以外に聞かれていたらアウトな発言ばかりだったが、防音設備のおかげでビルの外には漏れなかったのでセーフである。

 

 

 

ドームライブから4年後、苺プロは新たなアイドルを擁立するため動き出した。

 

B小町の面々がアイドル引退を考える年齢になり、しかし苺プロは彼女たちの他にアイドルを抱えていない。

そしてルビーが『将来は絶対にアイドルになる』と宣言しそのためのレッスンを続けているので、一時的にでも苺プロのアイドル部門を閉めるようなことはしたくなかった。

開き直って言えば、ルビーが成長するまでの繋ぎ役がほしかったのである。

 

しかしここで苺プロが大々的にアイドルの募集なんかかけた日には応募が殺到してパンクする。

未だ現役である日本のトップアイドルグループを抱え、業界の中で特に手厚いサポートを受けられると有名な苺プロに所属したいと考えるアイドル志望の少女は日本中にいるのだから。

斎藤夫妻のプロデュース能力と鬼コーチリンネの地獄のレッスンがあれば多少の才能は覆せるのだから、どれだけの熱意があるか、真面目で苺プロの秘密を守れるかが採用基準となる。

面接をしても短時間で判断できるはずもなく、大勢集めても対処に困るだけだ。

 

なので苺プロからアプローチをかけることにした。

B小町にはたくさんのファンレターが届いているが、たまにアンチや厄介なストーカーからの悪意ある手紙が混ざっているので、事務所に届いた手紙は全てリンネが精査してから当人たちに渡している。

そしてリンネは読んだ手紙を全て記憶している。

その中で『アイドルになりたい』と言う記述があり、熱意と人の好さを感じる少女からの手紙があったので直接出向き、身分を隠して接触。

素質も十分と判断して正式にアイドルとしてスカウトしたいと告げた。

 

後日、説得力を持たせるために社長だけでなくアイも連れて彼女のところに出向いた。そこでようやく少女は、自分が苺プロに勧誘されていると理解した。

甲高い絶叫が良く響いた。声量は十分及第点だ。何事かと周囲に警察呼ばれそうになったけど。

少女が落ち着いたところで、苺プロが新たなアイドルを抱えたい裏事情も含めて全て明かした上で勧誘。

ならばと少女も自分の環境と都合を隠さず伝えてきた。

 

少女は母子家庭で幼い弟も二人いて、最終的に彼女は母に推されて高校進学を選んだが、中学卒業後は働こうかと思っていたほど家計が苦しいらしい。

アイドルにはなりたいがそれ以上にお金が必要。

故に図々しい話だが、アイドル業務だけでなくスタッフとしても働くからデビュー前からでも相応の給料をもらえないだろうかと懇願してきた。

 

そして社長が答えを返す前にアイが採用を宣言。

幼い頃は家庭環境で苦労してきたので、少女に共感してしまったようだ。

社長は勝手に決めるなと叱りつつ、しかし少女を迎え入れることに同意した。

金銭面での支援は容易、当人のやる気は十分、おそらくこれ以上好条件の相手はお互いに存在しない。

後日正式に契約が結ばれ、少女とその一家は苺プロの事務所兼社員寮に引っ越した。

パートで働いていた少女の母も清掃スタッフとして雇うことになった。

そして自分たちが足を踏み入れたのが人外魔鏡と知り、少女たち一家は尻込みしつつも新たな環境に一歩踏み出した。

 

 

 

ドームライブから5年後、B小町は解散を発表した。

 

見た目は10代でも通用するほど若々しいが彼女たちはすでに20代半ば。アイドル引退は仕方のないことだろうとファンたちは惜しみつつも受け入れた。

だから同時にアイが同事務所の役者であるカミキヒカルとの結婚を発表したことの方が大きな衝撃だった。

前々から接点が多いと話題の二人だったがアイドル卒業宣言直後にこれでは、やはりアイドル時代から隠れて付き合っていたのだろうという批判もあり、落ち着くまでしばらくの時間を必要とした。

そして残念ながら彼女たちの関係はファンたちの想像を超えている。

なお、発表はアイの独断だった。

今日も斎藤社長は胃痛薬が手放せない。今回はヒカルにも分けてあげた。

芸能界引退により地獄から釈放されたニノたちを恨めしく思っていた。

 

 

 

ドームライブから6年後、ミヤコが第一子を出産した。

 

B小町が解散して精神的にも時間的にも余裕ができていたこと。

既に大輝という義理の息子を挟んで円満な家庭を築いていたことから、斎藤夫妻の関係がもう一歩先へと進むのはおかしなことではないだろう。

 

ただ生まれた女の子が異常だった。

二人の子供であることは間違いないが髪の色がどちらにも似ておらず色素の薄い白銀。

非常に落ち着いており、周囲の会話を理解している様子が見受けられる。まるですでに強固な自我があるかのよう。

 

幸いなことにアクアとルビーという前例があるので、斎藤夫妻はそこまで疑問には思わなかった。

しかし思い当たる節があるアクアたちはリンネに尋ね、その赤子が自分たちと同じく前世の記憶を維持しているという回答を得た。

ただし彼女はアクアたちと比べてもさらに特殊であり、素性については追及しないようにと言い含められ、渋々同意した。

 

 

 

そして、ドームライブから10年後。

 

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