『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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原作よりデビューが1年早まっています。


第19話 新生B小町

 

かつて突如として彗星のように現れ、その独特のキャラクターと実力で一時代を築いた伝説のアイドルグループ『B小町』。

その名を受け継ぐアイドルが現れグループが再結成されたとあれば、業界の注目度と期待値がどれほどであるかは言うまでもないだろう。

デビューライブがいきなりジャパンアイドルフェス(JIF)の屋内ステージに割り当てられるのも当然である。

 

新生『B小町』。メンバーは3名。

内2名は前々から芸能活動をしていたこともあり知名度も高かった。

 

一人目、星野ルビー。

先代B小町にて最も多くセンターを務め、今なお女優として活動する星野アイの歳離れた妹。

その顔立ちは髪と瞳の色以外はアイと瓜二つ。

今までの活動は子役が少しとモデル業くらいでアイドルとしての実力は未知数だが、アイ本人から指導を受け太鼓判を押されているというのだから期待は高まる。

 

二人目、有馬かな。

星野ルビーの双子の兄である星野アクアとともに活動し、『アクかな』一大ブームを巻き起こした元『10秒で泣ける天才子役』。

現在は15歳の高校一年生。子役という肩書は外れたが、成長した彼女はまさに『美少女』。

数年前にアクアが成長期を理由に役者としての活動を長期休業していたため、同時に彼女もカメラの前から姿を消していた。

久しぶりに彼女が活躍すると聞き、アイドルに詳しくない者も新生B小町に注目している。

 

しかし三人目。『ヒノカミ』という芸名を名乗る少女。

彼女だけは一切情報がない。経歴不明で、苺プロに登録されたのもこのデビューライブ直前。

今のところ判明しているのは簡素なプロフィールと添えられた顔写真だけ。

中性的な顔立ちは、確かに整っている。ルビーと有馬に並んでも見劣りしない。

しかしまるで能面のように無表情で人形かと思うほど。

趣味や好物といった項目もほとんどが空欄で、身長・体重・年齢くらいしかわからない。

先に挙げた二人への期待が大きいからからこそ『この少女が彼女たちの足を引っ張るのではないか』と一抹の不安を覚える者も少なくはなかった。

 

そしてJIF当日、話題のB小町の出番がやってくる。

舞台の上に現れた3人の少女たち。

ルビーと有馬ははじけるような笑顔を見せ、観衆に大きく手を振っている。

しかしヒノカミという少女だけは無表情のまま二人の傍にただ佇んでいる。

この二人と並ばされ、おまけに新人ならば緊張して当然。だがそれを差し引いてもあまりに静かで無反応。

『やはり数合わせに顔がいいだけのタレントを引っ張ってきたのだろう』と、集まったアイドルオタクたちはヒノカミという少女に期待することを止めた。

彼女のカラーである『オレンジ』のサイリウムをしまい、ルビーの『赤』と有馬の『白』を両手に持つ。

 

やがてライブが始まる。

曲が流れ始め、3人がポーズを揃えダンスを始める。

それは寸分のズレもなく、なるほど踊りの方は鍛えているらしいと目が肥えたオタクたちが上から目線で評価した。

そして前奏に合わせたダンスが止まり、3人が大きく息を吸い込み。

 

歌い始める。

 

 

「「「「「!?!?!?!?!?」」」」」

 

 

新生B小町の3人も先代B小町と同じく、自分の感情を歌に込めて伝える力を持っている。

というかリンネ……ヒノカミが本家本元だ。彼女の力が一番強いに決まっている。

 

ルビーの歌声には、ついに前世からの夢を叶えた少女の喜びが込められていた。

有馬の歌声には、『私を見ろ』と人々の視線を惹きつける力が込められていた。

ではヒノカミの歌声に込められていたものとは。

 

『愛』だ。

 

彼女は地球と人類をあまねく照らし続けてきた『日の神』。

ふざけた言動と憤怒の姿に塗りつぶされて隠れがちだが、彼女の本質は『慈愛』。

でなければ人が地球の守護神になどなれるものか。

幾千の世界、幾万の時代、注ぎ続けても未だ尽きることない強大な『愛』。

そんなものが僅かでも、ほんの僅かでも歌声に込められてしまえば。

 

 

 

「「「おぎゃぁぁぁぁああああ!!!」」」

 

「「「ママァーーーーーーーッ!!!」」」

 

 

 

結構な数の人間が幼児退行を引き起こした。

そしてアイドルオタクとなればどうしても成人男性の比率が高い。

いい年したおっさんたちが一斉にオギャり始める様はなかなかの地獄絵図である。

 

フィルターがかかってしまえば彼女の無表情もわずかに微笑んでいるように見えてしまう。

あれこそは『聖母の微笑』と、ドームのサイリウムが一斉にオレンジ色に染まった。

ちなみに彼女の口角は確かにほんの少しだけ吊り上がっていたが、それは諦念からくる引きつり笑いだった。

もうどうにでもな~~れ。

 

一瞬で会場の色を塗り替えられ、自分もオギャりそうになったルビーと負けず嫌いの有馬が、呑まれてたまるかとボルテージを上げる。

するとまた少しずつ赤と白が増えていき、やがて3色が拮抗した。

 

 

そんな中まったく動じることなく、最初から両手に3色のサイリウムを掲げて濃厚なオタ芸を披露する集団がある。

 

苺プロ関係者席の最前列に並び立つ3人のイケメン俳優である。

 

『アイドルのライブにはこうして望むものだ』とそそのかされた父と兄は、その馬鹿みたいに高いスペックをフル活用してアクアのオタ芸を完全にコピーした。

もうすぐ30になるとは思えないほど父が若々しいため、並んだ彼らはまるで兄弟のよう。

その父はいつもの笑顔を浮かべているのに息子二人は無表情。シュール極まりない光景である。

映像が出回ったらこれはこれで惨事になるだろう。周囲からは見えない最前列の関係者席で、本当によかった。

 

 

そしてイケメン3人組の後ろの座席に座る他の苺プロ関係者たち。

その一画はこの会場の盛り上がりに似つかわしくない、悲痛なオーラに包まれていた。

 

「あ、あの、だいじょうぶですか……?」

 

「ウケる」

 

年齢を感じさせない魔性の女副社長と、人を小馬鹿にするような表情をした幼い娘。

彼女たちが視線を向ける先こそが陰鬱なオーラの発生源。

 

「ぐぉぉぉぉおおおお…………!」

 

そこには『ヒノカミという少女を成長させればこのような姿になるのではないか』という絶世の美女が。

ダサい真っ赤なジャージを着て、腹を押さえてうずくまっていた。

 

 

苺プロに所属する一員であるならば、その発展のために最善を尽くすべきである。

加えて『お姉ちゃんたちが困ってるのって貴女のせいでもあるよね?』と月読に痛いところを突かれてしまえば、無駄に律儀なリンネに断るという選択肢はない。

彼女はいやいやながら、断腸の思いで、苦渋の決断で、清水の舞台から飛び降りる覚悟で、新生B小町のメンバーとなることを了承した。神になると決めた時にも負けないくらい重い決断だった。

 

しかし『六道リンネ』が参加するわけにはいかない。例え芸名を名乗らせたところで、この世界での彼女は星野アイの義母であり戸籍上の年齢はすでに50歳を超えている。

あまり積極的に表舞台には立たなかったがそれでも彼女を知る人もいる。

義理の孫と一緒に活動する五十路のアイドルなんて字面だけでも大惨事だ。

火が付けば炎上どころか一瞬で焼け野原になるだろう。

 

だからアイドルになる『端末』の代わりに、新しい『六道リンネ』を名乗る人物を用意しなければならない。

しかし同じ姿の人間が二人いるとなれば絶対に面倒なことになるので分身で済ませるわけにはいかない。

であれば新しい六道リンネは今までの彼女とは異なる姿でなければならず、そちらを六道リンネとして認識してもらうには人々の記憶と世界の記録を改竄しなければならない。

 

そんな規模の能力行使は『端末』では厳しく、『本体』を呼び出すしかなかった。

この世界に負担がかからぬように端末で時間をかけて念入りな準備をした上で、大幅に力を制限した本体を召喚。

そして本体で『ブック・オブ・ジ・エンド』を発動しその刃を地球に突き刺した。

対象は『この世界そのもの』。

この世界における『六道リンネの姿』を『端末』のものから『神霊』のものに書き換えた。

その後端末を『六道リンネの娘』として登録し、『ヒノカミ』という芸名を名乗らせた。

 

この事実を知る、つまり過去改変の対象外とされたのは苺プロに所属する関係者のみ。

彼らは『ヤツがなんかまたとんでもないことしでかしたらしい』、『コイツ想像より遥かにヤバイ奴だったらしい』くらいの認識にとどまっている。それ以上考えることを止めたからだ。正しい自衛策である。

ともかく、この二人は同一人物であり大きい方が小さい方を操作していると、それだけは理解した。理解したくなかったけど。

 

小さい方の性格が豹変しているのは、彼女が嘘をつけないことへの隠蔽工作だ。

アイドルとして歌う以外は一切言葉を話さなければ、必然的に嘘をつかなくて済む。

そして会話をしない設定でいくなら、人形みたいに無表情・無反応の方がミステリアスでそれらしい。

何より『アレは演技している姿』だと自己暗示をかけなければ当人の精神が崩壊しそうだから。

 

 

「……おばーちゃん」

 

「アイ……」

 

アイは腰を曲げて、苦悶の表情でうずくまる新たな姿のリンネの顔を覗き込む。

 

 

「一緒に女優やらない!?」

 

「やらんわぁっ!!!」

 

 

気遣いかと思えばまさかの勧誘だった。そして実は斎藤夫妻もアイと同じことを思っていた。

これが本来の姿だという新たな『六道リンネ』はあまりに美しく、オーラが違う。

まさに『崇めたくなる存在感』。

彼女が芸能人になれば……と思うのも無理はない。

だがその結果生まれるのは彼女のファンではなく信者である。

なにしろ彼女は『アイドル』の語源である『偶像崇拝』すらも経験した、ガチの神様なのだから。

 




鬼滅の世界で竈門一家に崇められてたり、Fateの世界で不動明王像を作られたりしてました。
他の世界でもちょこちょこ経験あります。
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