『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第20話 『今日は甘口で』

 

新生B小町が鮮烈なデビューを果たしてから数か月。

来年の春からルビーとアクアは高校の芸能科に入学する予定だ。

あの後も何度かライブ活動を行っているため既にB小町の星野ルビーは有名人であり、彼女の希望通り『アイドル』として受け入れてもらえるだろう。

 

ちなみにヒノカミはルビーに付き合うために生み出されたキャラクターなので彼女と同じ年齢で戸籍に登録してあり、なので『一緒に高校に行こう』と誘われたがそれは断固として拒否した。

ヒノカミはB小町のメンバーとなることをやむなく受け入れたが、それ以外の芸能活動の一切を拒絶している。

基本的には本体である新たな六道リンネと共に事務所でスタッフとして働いていた。

 

そしてルビーたちが高校入試試験を受ける頃、有馬にオファーがあった。

『今日は甘口で』という漫画原作のドラマ、その主演だ。

 

アクアと有馬は役者コンビ『アクかな』として長年活動していたが、中学生になった時にアクアの声変わりと成長期が来た。

撮影期間中に大きな変化が起きると支障をきたすためアクアは活動を休止したのだが、苺プロへの参入が遅かった有馬を本格的に鍛えるにはいい機会だったので彼女もアクアに合わせる形で業界から距離を取っていた。

なのでこのオファーは彼女が役者として再始動するのには絶好の機会であるのだが。

 

「かなたん、これ正直爆死する未来しか見えないよ?」

 

ヒノカミと同じくアイドルでありながらスタッフとしても活躍するMEMがドラマの共演者たちの情報を集めてくれた。

そのラインナップはなんと有馬以外の全員が演技経験のない、顔がいいだけの新人だった。

つまりこのドラマは『彼ら新人の名前を売るための踏み台』。

しかもストーリーを大幅に改変して14巻に及ぶ原作をたったの6話にまで極限圧縮するという。

最初から良い作品にするつもりがないとしか思えない。

 

おそらく有馬にオファーが来たのは『彼女が役者を辞めてアイドルに転向した』と思われているからだろう。

実際にしばらく役者を休業していたし、今の彼女はB小町としての方が有名だから無理もない。

『演技経験のある元役者が最近アイドルとして復帰したのでその知名度を利用したい』。

オファーした側の考えはそんなところだろう。最初から有馬の演技にはそこまで期待していないのだ。

しかし休業期間中に己を鍛えなおした有馬は衰えるどころか遥かに成長している。

そして天才役者・有馬かなの復活の狼煙にするには、このような駄作確定のドラマははっきり言ってふさわしくない。

 

「だけど先輩が主演蹴ったら、もっとひどい役者呼ぶんじゃない?」

 

「そうなのよねぇ~……私もこの漫画好きだったんだけど」

 

ここで有馬が見放せば完全にこの作品にトドメを指すことになる。

随分前に完結した漫画だが、当時に有馬もルビーも愛読した名作だった。

だからこそひどいドラマになるのはファンとして受け入れがたい。

 

「この状況、原作者はどう思っておるんかの?」

「…………」

 

六道リンネが口を開く。しかしその隣にいるヒノカミは無言で無表情。

ヒノカミのキャラ作りは関係者しかいない苺プロの事務所の中でも終始徹底されていた。

以前の姿を知る身としては未だ慣れず、一呼吸おいて有馬が答える。

 

「吉祥寺先生が望んでるはずないわ。

 この作品は特に大切にされていたみたいだもの」

 

「となれば押し切られたか、いいように利用されているか、その両方か。

 有馬はどうしたい?」

 

「……生意気かもしれないけど、なんとかしてあげたいわね」

 

「ん、わかった。では受ける方向でいくか」

 

「でもこれ、先輩一人が足掻いてどうにかなるもんなの?」

 

「無理じゃろな。だから神様を味方につける」

 

「「神様?」」

 

「たった今アポも取れた。会いに行こう、創造神様にな」

 

 

 

『今日は甘口で』の漫画原作者、吉祥寺頼子。

彼女は自作のメディアミックスにあたり過剰に口を挟まず現場の良心に任せる方針だった。

だからこそプロデューサーの鏑木に目を付けられたのかもしれない。

彼女もドラマがひどい作品になるに違いないと考えてはいたが、仕方のないことと受け入れるつもりだった。

 

しかしドラマの主演を務める予定の有馬かなが所属する苺プロから連絡があり。

彼女がやたら美人なジャージ姿のスタッフと一緒に押しかけてきて。

口八丁手八丁でいいように言いくるめられて。

混乱した吉祥寺は流されるがままに苺プロの提案に了承してしまった。

 

 

そして始まるドラマ第一話の撮影。

そして始まる『天才役者・有馬かなによる蹂躙劇』。

 

監督の意図を汲むならここで演技を抑え、彼らが売り出したい新人たちが目立つように技量を合わせるのが正しいのだろう。

しかし有馬は『原作者・吉祥寺頼子の委任状』という権限を振りかざし、一切の手加減なく最高の演技を見せつけた。

 

『本作品の主演は有馬かなに任せる』。

『彼女の演技に関しては全面的に彼女に一任する』。

 

これで撮影スタッフ側は有馬に口出しすることも、有馬をすげ替えることもできなくなってしまった。

そんなことをすればドラマ化の許諾そのものが取りやめになるかもしれない。

もし有馬がひどい演技をしていたのなら苦言を申すこともできるだろうが、彼女の演技はまさに最高峰。

こんな低予算の現場に呼ぶこと自体が恐れ多い、本物の女優の演技だった。

 

現場スタッフたちだってどうせなら良い被写体を撮りたいに決まっている。

新人役者たちの事務所と、原作者と苺プロ。

どちらの不興を買うかの二択を突き付けられ、彼らは自身の欲求に従い後者の手を取った。

 

ここで絶望的な状況に陥ったのが突き放された新人たちだ。

このままでは有馬かなの輝きに焼かれて精神的にも業界的にも消滅してしまう。

『この程度で潰れるようならどのみち長くない』と突き放してもよかったが、彼らも大人の都合に振り回された犠牲者である。

後々に余計な禍根を残すのも好ましくないので、苺プロから助け舟を出した。

 

 

 

「はじめまして、カミキヒカルです。よろしくね」

 

「「「「「よ、よろしくお願いします!!!」」」」」

 

「……斎藤大輝」

 

「星野アクアです」

 

「ドラマの撮影終了までの短い期間だけど、僕たち3人で君たちに演技を教えます。

 演技力は突然身についたりはしないから、所詮付け焼刃だ。

 だけどこの経験はきっと君たちの今後に繋がる。一緒に頑張ろう」

 

「「「「「はい!!!」」」」」

 

当初は現場の方針転換に拒絶反応を示した新人たちの事務所も、彼らに超一流の天才役者カミキヒカルの指導を受けさせてもらえると聞き掌を返した。

こんな機会、いくら大金を積んでも積ませられない経験だ。

若きタレントたちにとってもカミキヒカルは憧れの存在。

この一分一秒を無駄にしてなるものかと真摯にレッスンに挑み、ヒカルたちの期待を裏切るまいと全力で撮影に臨む。

 

放送されたドラマの第一話は『有馬かな以外見る価値無し』と酷評されたが、他の役者たちも回を重ねるごとに着実にうまくなっていき、最終回は『文句のつけようのない神回』と評された。

 

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