『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第22話 『今からガチ恋始めます』

 

やがて始まった恋愛バラエティ番組『今からガチ恋始めます』。

出演するのは芸能活動をしている高校生の男女6人。

 

ダンサー『熊野ノブユキ』

バンドマン『森本ケンゴ』

ファッションモデル『鷲見ゆき』

女優『黒川あかね』

 

以上の4名が、アクアにオファーが来た時点で既に確定していた出演者たちだ。

 

「星野アクアです。最近役者に復帰しました。よろしくお願いします」

 

そこに5人目として彼が参入する。

ここまでは予定通り。想定外なのは。

 

「有馬かな、アイドルです!よろしくね!」

 

斎藤社長に泣きついてねじ込まれた有馬の存在だ。

 

 

説得を受けたアクアが出演を決意すると同時に、適当な理由を並べて『自分も参加する』と駄々をこねたルビーと有馬の両名。

彼女らの内心は今更語るまでもないだろう。

ちょうど女性側に1名空きがあるのでどちらか一人なら割り込めるかもしれない。

黒川のサポートをする予定のアクアの傍に、彼の意図が分かっている出演者がいれば取れる手も多くなるというのも事実。

 

結局女子二人の勢いに根負けして、社長は『有馬かな』を『アイドル』として参加させることにした。

数年のブランクがあるが、星野アクアと言えばやはり『アクかな』だ。

そして有馬がアクア以外の男に靡くはずがなく、視聴者にも久しぶりの『アクかな』は受けるだろう。

本来アイドルを恋愛バラエティに参加させるなどもっての外だが、アクアと有馬が長年コンビを組んでいることは周知の事実であり、仮に恋愛を匂わせても違和感も反発も大きくはならないと判断した。

何しろ有馬がアクアに恋してるのは視聴者たちにもバレバレだから。

 

この決定にルビーだけは猛反発したが、仮に有馬が出ないとしても彼女は参加させられない。

彼女もまたアクア以外の男に靡くことはないが、流石に妹はまずい。

ブラコンで有名だとは言え番組側も難色を示すだろう。カップルが成立してしまったらさらにひどいことになる。

どれだけ泣きわめいても決定が覆らないと理解した彼女は、兄の隣を有馬に託した。

『絶対に抜け駆けするな』と野獣の眼光で釘を刺した上で。

生まれ変わりを経験しずっとリンネの隣で育ってきたアクアとルビーは、苺プロの中でリンネに次ぐ力を持つ。修行年数は短いがアイよりも戦闘力が上だ。

特にこの漆黒の闇を瞳に宿した時のルビーはアクアでも手が付けられない。

出し抜く気満々だった有馬は気圧されて、渋々『普段通りにする』と約束した。

但し一般人から見れば、苺プロでの普段の有馬はツン2割デレ8割くらいのツンデレである。それはもうツンデレではないのではないのだろうか。

 

そして鏑木プロデューサーに連絡すると、彼も復活した『アクかな』を是非使わせてほしいと二つ返事で了承した。

普段の有馬は聞き分けが良くて使いやすい役者なのだが、クールで天然気質なアクアとセットにすると生き生きとした毒舌ツッコミキャラに変貌する。

下手な漫才師よりよほど面白い彼らの掛け合いはヤラセの少ないリアリティショーにうってつけだ。

 

 

そして撮影が始まり、二人は『役者として演技の幅を広げようと参加を決めたアクア』と、『彼が馬鹿なことをしないように相方として見張りに来た有馬』という設定で自己紹介する。

 

「でもアクアも恋愛の演技を勉強したいなら、私に教わればいいのにねー。

 わざわざこんな番組にまで出ちゃってさー」

 

「確かにこの間のドラマでもしっかりこなしてたけど、有馬も恋愛経験はないじゃん。

 折角だから、有馬もこの機会に恋人作れば?」

 

「ふにゃっ!?……ま、まぁ?アンタがどうしてもって言うなら……」

 

「ノブユキ、ケンゴ。ウチの有馬どう?」

 

「余計なことを言うその口縫い合わせてやろうか……!?」

 

どこまでが本気でどこまでが演技か悟らせない軽快なやり取り。

まだ導入部の撮影だと言うのに、二人はすでに出演者たちの中心となっていた。

 

その注目度を利用して、本格的な撮影が始まった直後にアクアが仕掛ける。

 

「黒川さん」

 

「星野くん?」

 

「アクアでいいよ。妹いるから紛らわしいし。

 黒川さんのことは、大輝さんから良く聞いてる。凄い役者だって」

 

「大輝……あ、斎藤さん?

 そっか。同じ苺プロだもんね」

 

「さっきも言ったけど、オレは演技の幅を広げたくて参加したんだ。黒川さんは?」

 

「事務所からの指示で、よくわかんないまま放り込まれちゃって……でも期待されてるみたいだし、頑張らないと!」

 

「……そっか。役者としてはそっちの方がベテランだろうし、色々教えてくれると助かる。

 ついでに、劇団での大輝さんの様子とかもな」

 

「あはは、斎藤さんのことは本人も知られたくないこと多いだろうし、あんまり漏らすのは良くないかな。

 でも演技のことならなんでも聞いてね」

 

 

「へぇ〜〜、なんでもねぇ〜〜。

 私がアクアに教えたこと以上を、アンタが教えられるのかしら?」

 

 

黒川と話しているアクアの後ろに、腕を組んだ有馬が立っていた。

 

「……かなちゃん。今日は演技してないんだね。

 あぁ、もう役者じゃなくてアイドルだもんね?」

 

「さぁて、なんのことかしらね」

 

黒川が明らかに声のトーンを落とし、有馬も挑発するように返す。

 

「おい有馬、これからしばらく一緒に番組作ってくんだ。

 あんまりトゲトゲすんなよ」

 

「わかってるわよ、お仕事だもの。

 ちゃんと折り合いはつけるわ。最低限ね」

 

「ったく……。んじゃ、黒川。また後でな」

 

悪くなった雰囲気を払拭しようと、アクアが有馬を掴んで黒川から離れた。

 

 

(……いい演技だったぞ、有馬)

 

(演技じゃないわよ。ほとんど本音。

 ……でなきゃ見破られてたかもね)

 

これで番組スタッフに『黒川あかねに話かけようとする星野アクア』と、『星野アクアの動きを妨害しようとする有馬かな』、そして『有馬かなに敵愾心を抱く黒川あかね』の構図を印象付けることができたはずだ。

面白い映像を撮りたいスタッフたちもこの三角関係を推し進めようとするだろう。

あとは番組が中だるみしないように注意しつつ、積極的に彼女と関りを持って情報を吸い上げていく。

 

 

(しかし有馬、お前お互い嫌い合ってるって言ってたけど、本当か?)

 

(はぁ?見てたでしょ?

 いつもあんな感じ……いえ、さっきのは比較的マシだったかしらね)

 

(……なんか、黒川の感情がおかしかったんだよな。

 愛憎渦巻くっていうか、単純に嫌いってだけとは思えなくて……)

 

(知ったこっちゃないわよ)

 

演技や観察眼は有馬が上だが、霊能力はアクアの方が優れている。

だから彼はこの時すでに、黒川あかねの奥底にある複雑怪奇な想いをなんとなく感じ取っていた。

 

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