『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第25話

 

二つの三角関係の行方を追ってきた『今ガチ』もついに最終回。

鷲見ゆきと星野アクア、彼らは一体どちらを選ぶのか。

 

……という体で視聴者を煽っているが、彼らの中では既に結論は決まっていた。

黒川たちに裏事情を話した際に、アクアは『番組内で誰かに告白するつもりも応えるつもりもない』と宣言しているからだ。

視聴者は『アクかな』を見慣れているだろうが、今のところアイドルとして活動する有馬に男ができることが全面的に肯定されることはありえない。

そして『アクかな』が健在な状況で有馬以外の相手を受け入れると、その相手である黒川の方にも批判の矛先が向かいかねない。

だから仮に彼が本気になりどちらかと付き合うことになったとしてもそれを表明するわけにはいかないのだ。

『演技を学ぶために来た』という建前を最後まで貫き通し、彼から有馬に告白することも、黒川の告白に応えることもしなかった。

結果、『二人の女性をその気にさせておきながら袖にしたスケコマシ』という肩書がついてしまった。

しかし『重度のシスコンでアイドルオタク』という称号を誇らしげに掲げる彼に、その程度のブーイングはそよ風のようなものだ。

『自分の風評に一切頓着がない』というのは芸能人としてかなり強力な個性である。

 

ゆきも当初は番組内での告白は避けるつもりだったが、1組のカップルも成立しないというのは番組としておいしくない。

なので彼女は告白に応えることにした。相手はダンサーのノブユキだ。

彼はこの番組の中でただ一人、純粋に恋愛をしに来たタレントだった。

ゆきがこの番組に出演したのは『事務所の先輩がなんでも仕事を持って行ってしまうので暇』な現状を変えるためであり本格的な恋愛は考えていなかったが、明るく裏表のない彼の性格に絆され、いつしか彼とならと考えるようになっていた。

彼女に少なからず好意を持っていたケンゴも、二人の決定を祝福した。

 

今回の件では、ゆきたち3人を苺プロの都合に巻き込んでしまった。

収録を終えた後の打ち上げで『何かあれば力になる』と約束し、彼らも名高い苺プロの名刺を手に入れたことで今後の躍進に繋がると満足し撮影の全てを終えた。

 

 

 

「というわけでぇ~~……今日から苺プロに新しい仲間が加わりましたぁ~~っ!

 みんな拍手で迎えてあげてねぇ~~!」

 

「よ、よろしくお願いします!」

 

「そういう音頭取ってると、MEMってなんか先生っぽいよな」

 

「お?美人女教師に見えちゃったかなぁ~~?」

 

「いや、年上だってのを強く再認識してる」

 

「ぐぼぁぁっ!!ひどいよアクたん~~~っ!」

 

MEMは体格も雰囲気も幼いが、実年齢と精神性は有馬や黒川よりはるかに上。

こういう場でイジられるのはもはや様式美だ。だが吾郎の記憶を持つアクアがどの口で彼女を揶揄するのか。

 

彼女が以前の事務所に所属していた時に受けていた仕事は全て片付いた。

これで黒川あかねは、正式に苺プロの所属となる。

加えて彼女は劇団ララライにも所属しているが、OBのカミキヒカル、ワークショップに参加した経験を持つアイ、現劇団員である斎藤大輝を抱える苺プロとララライのパイプは結構太い。

ララライ側としても前の事務所より苺プロの方が黒川とのやり取りが容易になるため彼女の移籍を歓迎していた。

 

そしてサインしていた苺プロの守秘義務契約が適用されたことで、彼女はこの会社に隠された恐ろしい秘密を知らされることになる。

 

アイがアクアとルビーの姉ではなく親。父親がカミキヒカル。

大輝の父親もカミキヒカル。

前者は黒川も可能性には思い至っていた。

休業期間の短さなどから除外していたが、オカルトの存在なんてものが明かされれば一応の説明はつく。

……いや、そんなもの出されたらどんなことでも説明がついてしまうのだが。

 

「…………」

 

「どうしたのよアンタ?」

 

証拠となる力も見せられて、もっと劇的な反応をするかと思いきや、黒川は口元に手を当て考え込んでしまった。

 

「……あの、六道さん!それとヒノカミさん!」

 

「なんじゃ?」

「…………」

 

 

「もしかして、お二人は同一人物ですか!?」

 

「「ぶへぁっ!?」」

 

「「「「「なぁっ……!?」」」」」

 

無口無表情なヒノカミが、六道リンネと全く同じ反応と挙動をした。

衝撃で久しぶりに演技が解けて、二人が完全にシンクロしている。

 

「やっぱり……!」

 

「「ゲホッ、ゲホッ……な、なんでわかった!?」」

 

「嘘だろ、オカルトの実在を確信したばっかで……!」

「私たちだって、本人から説明されても受け入れるのに時間がかかったのに……!」

 

「……黒川。なんでその結論に至ったか聞いてもいいか?」

 

「うん、えぇと……」

 

 

 

 

「アイさんの情報を集めるにあたり過去の映像を調べてたんだけど、義母でありスタッフである六道さんの姿が映っているシーンもいくつか見つけたの。だけどその中での周囲の反応が明らかにおかしくて。普通の感性を持つ人ならこんなにスタイルのいい美人の女性を見たら誰だって思わず振り向くはず。周囲の人たちも目を惹かれるままに撮影していそうなのに、映像や動画の数が少なすぎる。いくら著作権に厳しい苺プロだってそれらをしらみつぶしに規制していったとは考えられない。それに、記録の中で六道さんと対面している人たちや周囲は、どちらかというと幼い子供を相手にするような視線が多かったの。並んで歩いている動画なんて特に顕著で、まるで六道さんの歩きに合わせて抑えようとしているみたいだった。そう、今の六道さんと動画の中の六道さんは歩幅と歩く速さがまるで違う。特に歩く速さは今のヒノカミさんと同じくらいだった。だから、当時の六道さんの姿がヒノカミさんの物で、何らかの方法で記録の姿だけを無理やり差し替えたのだとすれば諸々の違和感に説明がつくの。そして何よりヒノカミさんの経歴が不透明すぎる。本当に最低限、かろうじて存在していた証明となる記録があるだけ。それらがなければまるで突然現れたみたいに。過去の映像の差し替えはできても、過去そのものを改変するのは難しくて、だからヒノカミさんの経歴を一から作り上げるのは無理だったんじゃないかな?そしてヒノカミさんが表舞台に姿を現したのはB小町の再結成を発表する直前。六道さんがB小町に参入するためだけに生み出されたのが、ヒノカミという人間だとしたら。彼女は六道さんの子供ではなく、分身した六道さん自身。つまり本当は同一人物。分身した上で六道さんを続ける方だけが姿を変えていて、その事実に気付かれないようにヒノカミさんになった方は全く別のキャラクターを徹底して演じ続けている……って、推測したんだけど……」

 

 

「「「「「…………」」」」」

 

「……おおむね正解じゃ。ルビーがどうしてもB小町としてグループを組みたいというので、その数合わせに参入した」

「こっちの大人の姿は、もう一つの儂の姿のようなもんじゃ」

 

「なるほど、だからその姿にも慣れていたんですね。

 体格が全然違うはずなのに違和感なく動けているようだから、少し自信がなかったんです」

 

 

 

「おっかねぇよ……ウチの闇が全部暴かれる一歩手前だったんじゃねぇか!」

「大輝、よくやったわ。よくこの子をうちで引き取ろうと言い出してくれた」

「うっす」

 

「先輩、ホントにあかねちゃんのライバルなの!?

 先輩ってあかねちゃんのライバル務められてるの!?」

「……ちょ~~~っとだけ自信なくなってるわ」

 

 

 

「……儂に何ができるのかはこれから少しずつ教えていく。

 そしてお主もオカルト方面の修行をしていこう。

 長期の休みを取るのは難しい状況じゃから仕事と並行して……1年もすれば片鱗は出てくるじゃろ。

 高校卒業する頃には、今の有馬たちと同じくらいの輝きは持ってほしいがな」

 

「はい!頑張ります!!」

 

 

 

「…………」

 

「どうしたの、アイ?」

 

「……ちょっとね」

(おばーちゃん、やっぱりそういうつもりかぁ♪)

 

一番付き合いの長いアイだけは、今のリンネの思考を正確に見抜いていた。

冷遇されている子供を助けてやりたいという気持ちも確かに本当だろう。

だが彼女には彼女の目的がある。

彼女は高校卒業までに有馬と同等に『なってほしい』と言った。

それは目標設定ではなく彼女の願望。

 

つまりリンネはヒノカミである自分がB小町を脱退するために、黒川あかねを加えるつもりなのだ。

 

(そんなにアイドルやりたくないかなぁ、かわいいのに。

 ……ちょぉ~~っとだけ、いじわるしちゃおっかなぁ~~☆)

 

思い立ったが吉日と、スマホを取り出し操作を始めたアイ。

彼女の小悪魔の笑みを見て『またろくでもないことをしそうだ』とヒカルは察したが、口に出して止めることはしなかった。

円満な夫婦関係を築けているが、力関係はアイの方が圧倒的に上なので。

収入や知名度ではなく、物理的な力という意味で。

 

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