『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第28話 究極の舞台

 

「GOAさんのおかげもあって、素晴らしい脚本になりました!

 皆さんの演じる姿が目に浮かぶようです~~♪」

「…………」

 

(……とんでもない台本が来たわね)

 

アビ子は現在アシスタントを務めているヒノカミを伴って、再び劇団ララライのスタジオに足を運んでいた。

1か月先までの原稿が終わり、アニメやグッズ関連の監修やカラーイラストなどの仕事も全て終わったので彼女は完全に自由。時間ならいくらでもある。

自分のせいで舞台練習を一時止めてしまい迷惑をかけたと演者たちに正式に謝罪し、完成した台本を自分の手で彼らに渡す。

 

役者たちは改訂された台本をめくり、その難易度を理解する。

だが大半は『むしろこのくらいでなければやり甲斐がない』と不敵な笑みを浮かべていた。

劇団ララライは国内有数の役者が集う演劇集団。どいつもこいつも演劇バカで、劇団所属ではないが有馬もそちら側だ。

 

例外の内の一人はメルト。『こんな役が本当に自分にできるのか』と眉間にしわを寄せていたが、有馬が見る限りすでに彼にはそれだけのポテンシャルがある。

舞台そのものが中止になるかもしれないと言われていた間も、彼は中止になった練習時間を使って苺プロのスタジオに来てアクアと大輝に指導を願い出ていた。

今の彼に足りないのは度胸と成功体験だけだ。前者は残り1か月で、後者は舞台が終わる頃には手に入れているだろう。

 

「…………」

 

だが大輝の反応が気にかかった。

常に無表情な彼だがわかりにくいだけでちゃんと感情と表情があり、直感に優れる苺プロのメンバーなら察せて当然。

だから彼がアクアのように静かにやる気をみなぎらせているのではなく、純粋に悩んでいることに気付いていた。

 

「……どうしたのよ大輝」

 

「……有馬、アクア、黒川。オレたちはこのままでいいと思うか?」

 

「「「?」」」

 

「これは本当に『いい脚本』だ。オレたちなら最高の舞台にできる。

 だがGOAさんやアビ子先生が己を削り、ヒノカミにも協力してもらって出来上がったコレを『最高』で終わらせていいのか?」

 

「……!アンタ、まさか!?」

 

「劇団ララライは苺プロとの繋がりも深い。

 それにこれは『2.5次元』だ。ワイヤーアクションなんかを使うのも当たり前。

 ……だったら誤魔化しようはいくらでもある」

 

未だにキャイキャイとはしゃぐアビ子。

苦笑しながら彼女に相槌を打つ雷田。

役者たちに申し訳なさそうにするGOA。

無表情で考え込む金田一。

大輝はその一団の前に歩み出て宣言する。

 

 

 

「すいません……苺プロの『守秘義務契約』を行使させてください」

 

「「「!?」」」

「?」

 

アビ子はちゃんと契約書を読んでおらず理解していないようだが、雷田たちは一斉に反応し顔をこわばらせる。

苺プロ所属のタレントを雇う際に必ず結ばれている契約。

その行使を要求するということは、『今から行うことは他言無用にしなければならない』ということ。

ララライの団員やメルトたち外部の役者にも彼らの緊張が伝わったようだ。

 

「今から『本気の』、オレと有馬の演技を見せます」

 

「本気……?」

 

「……ハァ、もう、しょうがないわね!私知らないわよ!!」

 

 

 

大輝と有馬が木刀を握ってスタジオの中央に立ち、他の人間がアクアと黒川の指示に従い壁際にまで避難する。

今から行われるのは『ブレイド』と『つるぎ』の出会い、二人の殺陣のシーンだ。

 

 

 

「「「「「…………っ!?」」」」」

 

突然二人から濃密な闘気があふれ出し、アクア以外の人間が息をのむ。

 

「『私とやる気か!?』」

 

「『話し合いで解決できる雰囲気じゃなさそうだしなぁ。

  強い方が刀の相棒になる!それでどうだ!?』」

 

「『ヒャッハッハッハ!確かに!わかりやすい!!』」

 

つるぎが刀を振りかざし、ブレイドへと斬りかかる。

 

 

 

ガキィン!!!

 

「「「「「!?」」」」」

 

激突の瞬間、周囲に衝撃波が広がった。音も木刀同士がぶつかって出るものではない。

霊視能力のない人間には見えないようだったが、今彼らが持つ武器は使い手の腕から伝わるエネルギーの膜に覆われていた。

 

「『死んでも文句言うなよ!』」

 

「『そっちこそ……なぁっ!!』」

 

続いてブレイドが刀を振り下ろすと、つるぎは目にもとまらぬ速さで横へと躱し、そのままブレイドの背後に回り込む。

しかし予測していたブレイドは振り下ろした勢いのまま体をひねって切り上げで迎え撃つ。

攻撃を自分の刀で受け止めたつるぎは反動を利用して数メートルの高さまで宙を舞い、空中で何度も体をひねって優雅に着地。

更に獰猛な笑みを浮かべて、一足跳びでブレイドの前まで接近し鍔競り合いを始める。

 

 

「……い、今有馬さんめちゃくちゃ跳んだよな……!?」

 

「なんだコレ!?まだ舞台装置の手配はしてないぞ!?」

 

「ブレイドだ……本物のブレイドとつるぎがいる!」

 

 

狼狽する役者たちやプロデューサーたちを無視して、ブレイドとつるぎの鍔競り合いは続く。

やがてつるぎは弾かれ、いやあえて力を抜き反動を利用して距離を取る。

そしてブレイドの周りを高速で移動。残像が見えるほどの速さだったがブレイドは不敵に嗤い、正確につるぎのいる場所に突きを放つ。

つるぎは一方の刀の腹で突きを受け止め、もう一方の刀をブレイドに振り下ろす。

体を捻って躱したブレイドは回転の力を利用して袈裟切りに移行、二刀を構えたつるぎが受け止める。

 

「『……っはっはっはっは!』」

 

「『何が可笑しいっ!?』」

 

「『お前、強いなぁ!』」

 

「『っ……離れろぉっ!!』」

 

 

そして一幕が終わり、夢は覚め、大輝と有馬が戻ってくる。

しかし驚愕冷めやらぬ観衆たちは硬直したままだ。

 

「……?」

 

(かなちゃんかなちゃんかなちゃんかなちゃんかなちゃんかなちゃんかなちゃん……!)

 

「戻ってこい黒川」

 

パコン

 

「……ハッ!?」

 

 

 

「……今のが、オレと有馬の『本気の』演技です」

 

「え、あ、いや……本気って……?」

 

「すごい!すごいです!本当にブレイドたちがそこにいたようでした!!」

 

顔を引きつらせのけぞる雷田とは対照的に、アビ子は子供のように目を輝かせて心からの称賛を口にする。

 

「……これが苺プロの秘密です。

 苺プロでは『超常』の実在が証明されていて、その習得方法が確立しています。

 演者たちはトレーニングの一環として長く厳しい修行を積み、その力を習得している。

 入ったばっかりの黒川は無理ですが、今くらいの動きなら下っ端のオレたちはもちろん、ヒカルさんやMEMさんでもできます」

 

「超常……オカルト……!?」

 

「そしてオレたちより、アクアとルビーの方が上です。

 二人は赤ん坊の頃から苺プロにいるので。そして……」

 

大輝はゆっくりと右手を上げ、アビ子の後ろに佇む人物を指さす。

 

 

 

 

「ヒノカミは更に遥か上を行きます」

 

「「「「「!?」」」」」

 

「…………」

 

「苺プロに超常をもたらしたのは彼女の血縁です。

 彼女はオレたちみたいにちょっと動けるようになったり、頑丈になったり怪我や疲労の回復が早かったりする程度にとどまらない」

 

「ちょっと……『ちょっと』ぉっ!?」

 

「彼女は本物の仙人です。多彩な術と能力を習得している。

 その中には自分の力を分け与え、『他人を一時的に超人にできる』ものもある」

 

「な……!?えっと、つまり……!」

 

 

 

 

「彼女が裏方につけば、東京ブレイドを本物の『2.5次元舞台』にできる。

 『最高』の舞台どころじゃない、唯一無二の『究極』の舞台になる。

 ……見たくありませんか?『夢見た世界』を、『現実』で」

 

「う、あっ」

「見たいでぇっす!!!!」

 

以前この場に来た時の、最初の緊張と弱々しさはどこへ行ってしまったのか。

アビ子は真っ先に手を上げ大輝の、苺プロの提案に賛同してしまった。

 

(……ぁぁぁぁああああっ!嘘だろ!?

 ようやく脚本の方が一応解決したってのにこんな爆弾が突っ込まれるなんて!?

 神さまぁ、僕何か悪いことしましたぁ!?)

 

「…………」

 

サングラスの下で涙目になっている雷田を、アビ子に抱き着かれているヒノカミがじっと見ていた。

でも見てるだけだった。

 

(隠し通せるわけないだろ!?この作品に何人の人間が関わってると思ってるんだ!?

 緘口令を敷いたとしてもどこかで漏れる!

 仮に漏れなかったとしても、演劇に詳しい人が見たら装置じゃないって気付かれる!

 そしたら追及はプロデューサーである僕にも来る!

 お偉いさんに圧力かけられたら白状するしかなくなるのに、そんなことしたら契約違反で破産確定だ!!)

 

苺プロは妙に堅苦しい守秘義務契約で有名だったが、実際にその権利を行使される機会は一度もなかった。

だから業界では『自社タレントを広く使ってもらうためにわざとコストを落とす理由を用意したのではないか』という説すらあったほどだ。

しかし雷田たちは苺プロタレントたちの『やる気スイッチ』を押してしまったのだ。

それが核弾頭の起爆スイッチだと知らされぬままに。

 

(アビ子先生は完全に乗り気になってる!

 ここで拒絶したら今度こそ舞台化取り消されかねない!

 最初っから選択肢なんてないじゃないか!

 やるしかない……やるしかないんだ……!)

 

雷田は必死に自分に言い聞かせる。

だが逃げ道がふさがれたことで彼の中にある小さな闘志に火がついた。

 

(……見たいに決まってる。僕だって、夢を現実にしたくてこの世界に足を踏み入れたんだ!!)

 

「……わかりましたぁっ!!苺プロと交渉し、正式にヒノカミさんを舞台『東京ブレイド』のスタッフとして雇用させていただきます!!」

 

 

 

 

当日の夜、菓子折り持って苺プロに馳せ参じた雷田。

斎藤社長は彼を快く迎え入れ、契約書と共に彼に何かを差し出した。

 

「…………!」

 

それが何かに気付いた瞬間、雷田は顔を上げ斎藤社長を見つめて、サングラスの下で涙を流した。

そして二人は無言で力強く抱擁を交わしたのだった。

いつの間にか斎藤社長のサングラスからも涙が溢れていた。

 

以降、彼らは長く長く付き合いの続く竹馬の友となった。

よく事務所の私室にたむろしては、愚痴を肴に胃薬を飲み交わしていた。

 

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