『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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原作とは全く違う、ひどい理由でアクアが苦労してます。


第29話

 

「大輝ぃ……お前なぁ……!」

 

「悪い父さん。つい勢いで」

 

「……普段我儘を言わない貴方だもの。やりたいことは尊重してあげたいわ。

 でもこれは流石に……!」

 

リンネは基本的に事務所でスタッフとして働いていて、ヒノカミを遠隔操作している。

であれば劇団ララライのスタジオの一幕は当然把握しており、大輝たちが戻ってくる前にそれを斎藤夫妻に伝えている。

 

守秘義務契約違反による多額の罰金は抑止力として設定されたもの。

情報が漏れて広まってしまえばいくら金を積まれても何の慰めにもならない。

そもそも贅沢な話だが、苺プロは金に困っていない。

とっくにリンネからの多額の融資も、自社ビルの建築にかかった費用も耳を揃えて突き返している。そのうえで資金がうなるほどにあるのだ。

リンネは返却を要求しなかったが、これからも付き合いを続けていくならできる限り対等でなければと斎藤社長が言い出したので。

すでに返せないほどの恩があるのだが、体裁として。

 

「やらせてやればよかろう」

 

「はぁっ!?騒動になれば一番困るのはアンタだろうが!」

 

「止めるつもりならその場でヒノカミを動かし止めていたさ」

 

苺プロが超人集団と判明すれば、次にその力をどうやって手に入れるかに注目が集まるだろう。

そしてその方法とはリンネから力の種火を預かり、その指導を受けるしかない。

種火を受け取った者が己を鍛え上げれば新たな種火を生み出すこともできるようになるが、平和なこの現代社会でその域に辿り着くまでの修練を積むのはまず不可能だからだ。

 

しかしその力の源は彼女自身の魂。

彼女が拒絶するような人格の者が種火を受け入れれば、燃え上がった炎に己の魂を焼かれてしまう。悪党には最初から力を手に入れられる可能性がないのだ。

それを知ってこちらを排除しに来るような外道ならば、こちらも相手を排除するのみ。

彼女はすでにこの世界に来て20年以上経過しており、しかも今は端末ではなく神霊で顕現している。

例え国家が敵になろうが、連中の後ろ暗い秘密で脅迫することも、武力で鎮圧することも容易い。

この世界での大切な人の魂もしっかりと記憶したので巻き込まれても蘇生ができる。

 

世界を荒らすのは彼女の本意ではないが、歯向かってくる外道を殺さぬ理由もまた彼女にはない。

最悪の場合はまた世界に『ブック・オブ・ジ・エンド』を突き刺して『誰も苺プロの超常に気付かなかった』という過去を差し込んでしまえばいい。あるいは、排除した外道そのものの存在を。

そんな恐ろしい思考を巡らせていることはあえて告げず、斎藤社長に不敵に微笑む。

 

「儂の力は散々見せたじゃろ?飛び火しようが焦げ付きすらせぬよ。

 お主らはお主らのことだけを考え、思うままに動くがいい」

 

「……本当だな?本当にアンタは大丈夫なんだな?」

 

「儂は嘘はつかん。意図的に広めてほしいわけではないが、広まったところでどうとでもできる」

 

「……とっくに明かしちまってるんなら、今更『やっぱやめた』なんて突き返す方があぶねぇか……」

 

「……壱護、来客よ。多分その雷田さんね」

 

「わぁった。応接室に通してくれ。すぐ向かう」

 

斎藤社長は先ほど飲み込んだばかりの胃薬の箱を机の引き出しに入れようとして、少し考えた後そのまま持っていくことにした。

いろいろ飲み比べてみたのだが、これが一番よく効いたのだ。おすすめしておこう。

 

ちなみにこの胃薬。リンネが出資している製薬会社が、彼女の技術と情報を用いて作り出した製品だったりする。

胃薬はとっても体に優しいのに、作った本人がどこまでも優しくない。

ひどいマッチポンプもあったものだ。社長たちに知られたら胃が荒れそうである。

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

苺プロ社長と面談し正式にヒノカミの雇用計画を結んだ雷田は、まずは金田一代表と協力してこの舞台に関わる者の数を絞り始めた。

人の口に戸は立てられぬならば、少しでも口の数を減らすしかない。

 

人員削減に伴う人手不足は全てヒノカミが対応する。そういう契約になっていた。

 

まずアクションシーンに使う大掛かりな舞台装置は不要になった。役者たちの身体能力でどうとでもなるから。

 

次に衣装や小道具どころか、大道具すらも彼女が用意することになった。

ちなみに掌を叩けばいくらでも作り出せるのだが無駄に力を見せびらかす理由もなく、普通に裁縫や大工で対応した。

彼女は死神の世界にて修多羅千手丸と浦原喜助を配下としている。

彼らには及ばぬがどちらも達人を名乗れる腕前だ。

 

名もなきモブキャラを演じるエキストラ。これは流石に超常で対応するしかなかった。

大勢の分身を作り出し姿を変えた。数時間なら姿を変えたままで維持できる。百人くらいなら余裕で対処可能。

 

そして役者たちの仕事はこの舞台だけではないので常に稽古に参加できるわけではなく、その場合の代役も必要だが彼女が同じ方法で対応した。

大輝や黒川たちの見た目だけでなく声や口調、性格まで模倣されており、演技力は一段落ちるが元が最上位なので役者としては十分及第点。

本当にこれが無口無表情なヒノカミが変身しているのかと役者たちは冷や汗を流した。

 

「……これ、その気になれば彼女だけで劇ができちゃうんじゃ……」

 

「できるでしょうね」

 

雷田のつぶやきに大輝が冷徹に答える。だがこんな劇団ひとりは嫌だ。

 

そして肝心の『一時的な能力の譲渡』。

エキストラを除いたとしても役者全員が一斉に舞台に上がれば人数は10人を超える。

途中で補助が切れたら大事故につながるだろう。本当に大丈夫なのかと彼女を知らぬ者たちは気を揉んでいた。

 

しかしそれは完全な杞憂であり、彼女は数十人を相手に自分の力を遠隔で注ぎ続けた実績が既にあった。あまり遠く離れられると無理だが、建物全域を余裕でカバーできる。そしてこの程度の消耗が負担になることもない。

既に数時間もの間、アクアたち3人を除く役者全員に加え一人のゲストにまで能力を行使しておきながら彼女はまるで疲れた様子を見せなかった。

 

「きゃっほーーーーーぅ!!!」

 

そのゲストとはアビ子である。

漫画も漫画以外も全ての仕事もすっぱりと終わらせ久しぶりの自由を満喫する彼女は、舞台の視察を名目に足繫く劇団ララライのスタジオに通い、超人の力を体験してハッスルしまくっていた。最高にハイってやつである。

まぁバトル漫画の作者として超人の視線を実体験できるのは大きいし、舞台稽古を見てインスピレーションも湧いているようなので確かに作品の質の向上につながるのだろうが。

ちなみに稽古の邪魔にならないよう、ヒノカミの帯がリードのように繋がれている。

 

役者たちも当初は突然超人レベルになった身体能力に振り回されていたが、すぐに順応した。

彼女の術は特に肉体の強度を上げるものなので多少の失敗をしてもケガをしない。それを理解したからだ。

そして役者は体で感情を表現する仕事。体の動かし方なら人一倍理解している。

そして役者だからこそ、物語の中の人物のような超人への憧れも人一倍強い。

術に付随する疲労回復効果により濃密なトレーニングを行うこともできたので、しばらくすれば演技をしながらの迫力あるアクションシーンも堂に入るものになってきた。

主演の中で唯一超人でない黒川は苦労していたが、だからこそやりがいがあるとやる気を漲らせていた。

 

これは素晴らしい舞台になる。役者冥利に尽きる究極の舞台に。

成功は約束されたかのように思われた。

 

しかし厄介な問題が一つ浮上していた。

 

舞台の最後のシーン。死に瀕した鞘姫が奇跡の復活を遂げ、彼女を抱きしめる刀鬼の慟哭。

刀鬼を演じるアクアが、感情表現ができずにいたのだ。

 

「ストップ!……どうしても無理か、星野」

 

「すいません」

 

「他は完璧なんだがな……」

 

並の舞台、並の役者ならとっくにOKを出している出来だ。

だが究極の舞台、その最後を飾るにはやはり物足りない。

 

「まぁ仕方ないわよ。こればっかりは」

 

「何とか少しずつ理想像に近づけていこう」

 

「……?有馬、斎藤。お前らは星野がうまく演じられない理由がわかるのか?」

 

「えぇ、まぁ。苺プロのタレントに『このシーンの感情表現しろ』ってのは難しいんですよ。オレだって正直自信ないです」

 

「どういう意味だ?」

 

 

 

 

「「「ウチじゃ死ぬのも生き返るのもよくあることなんで」」」

 

 

 

 

「…………」

 

「人死にを見て慌てたのなんて最初の2,3回までよね。

 自分が体験するといよいよ何も感じなくなっちゃったわ」

 

「そうだアクア、初めて体感した時のことを思い出せないか?」

 

「感傷に浸る余裕もなかったからな……そこで動揺したら失敗してすぐ死んだし」

 

「「あ~、あるある」」

 

金田一は深く追求しないことにした。

そして『やはり超常の力を得るのは相応の覚悟とリスクを背負うものなのだな』と自分の中で完結させた。

 

 

「おぉい、星野」

 

「鴨志田さん?」

 

外に休憩に行っていたはずの鴨志田がスタジオの扉を開けてアクアを呼ぶ。

その後ろからはメルトが顔を出していた。

 

 

「お前に客だぞ」

 

「客?」

 

「妹さんだ」

 

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