『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第30話 慟哭

 

スタジオの外で呆けていた鴨志田のところに現れたのは、美人の二人の女子高生。

どこかで見た気はしていたが、女遊びの激しい彼は『舞台練習に参加している知り合いを迎えに来た』という彼女たちに粉をかけようとした。

その直前でメルトに止められた。そこで彼女らの内一人は星野アクアの妹、星野ルビーであると知る。

 

鴨志田は即座に掌を返して、誠実な好青年としての演技を始めた。

今までの稽古でアクアの戦闘力の高さは嫌というほど思い知らされている。

そして彼の妹もまた同等の超常の力の持ち主だというではないか。

ブラコンのアクアに殺されるのも嫌だし、化け物みたいな強さの女の子で遊ぶのも怖い。

あと単純に、苺プロのタレントはまずい。社会的にも物理的にも抹殺されかねない。

彼は九死に一生を得たのだ。当分メルトに足を向けて眠れない。

 

「迎えに来たんだとさ。玄関で待ってもらってる。

 友達っつぅ女の子も連れてて、そっちは苺プロじゃねぇみたいだから案内するのもまずいかってな」

 

「友達?……みなみか?」

 

ルビーの友達と言えば2人しか思い至らない。

その一人である不知火フリルはとんでもない知名度を誇る国民的美少女。

であれば鴨志田が知らないはずもなく、消去法で寿みなみの方だと推測した。

 

「確かに、いつの間にかもういい時間ね。

 私たちも、今日はもう上がりましょ」

 

「そうだな」

「うん」

 

「いやだが、まだオレの演技が……」

 

「無理やり続けて解決するようなモンじゃないでしょ。

 あのバカとバカやってリセットしときなさい」

 

仮にも同じグループのメンバーに何たる言い草、ではあるものの誰もそれを否定しない。

彼女は正しく『アイの後継者』なのだ。おつむの方も。

 

 

「……わかった。今日はもう……っ!?」

 

 

「どうしたの?」

 

 

「……すいません金田一さん、ルビーをここに呼んでいいですか!?」

 

「?同じ苺プロのタレントなら、構わんが……」

 

「もう少しだけ稽古していく。3人は先に帰ってくれてていい」

 

「稽古って……ルビーちゃんと?」

 

「あぁ」

 

アクアは思い出した。蘇った死者との対面。

それを初めて経験したのは訓練中ではなくもっと前だったということに。

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

「……で、この鞘姫ってのをやればいいの?

 これあかねちゃんの役でしょ?」

 

連れてこられたルビーが台本をパラパラとめくっていく。

結局アクア以外の苺プロ組も残り、スタジオの真ん中で向かい合う双子を見ている。

 

「その最後のシーンだけがうまくいかないんだ」

 

「最後の……これって……」

 

「一度感覚掴めば後は反芻でいけると思う。

 やりやすいようにアレンジ加えても構わない。

 ……協力してくれ、『さりなちゃん』」

 

「……いいよ、『せんせ』♪」

 

互いの名を呼ぶときは声に出さず、唇を動かすだけだった。

だから優れた聴力を持つ大輝たちにも聞こえていなかった。

 

 

「「「…………!?」」」

 

ルビーの纏う空気が変わる。

はつらつとした天真爛漫な少女ではなく、息絶える寸前の病人のように。

そして力なく倒れた。命が尽きたかのように。

アクアは慌てて駆け寄り、震える腕でその小さな体を抱きかかえる。

 

呼吸が荒くなる。

胸が締め付けられる。

嫌でも目じりに涙が浮かぶ。

そうだ、『彼女』とはこうして別れた。そして。

 

 

「……『せんせ』」

 

 

「っ!!」

 

腕の中の少女がうっすらと目を開けて、か細い声を出し優しく微笑む。

 

青年は涙をあふれさせ、力の限り、しかし壊れないようにやさしく抱きしめる。

 

死に別れた大切な人と、生まれ変わって来世で出会う。

望外の奇跡だこれ以上の贅沢などない。

 

でも本当は、どうせ蘇ってくれるのなら本当は。

 

彼女と別れたあの瞬間に、こうなればいいと願っていた。

 

 

 

『ーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!』

 

 

 

胸を締め付けられるような悲痛な叫び。

しかし悲しみの中に感じられる確かな喜び。

爆発したアクアの感情が周囲を飲み込んだ。

 

興味本位で二人の稽古を見ていた金田一やスタッフたちも息をのむ。

……これだ。自分たちは、これが見たかった。

 

 

 

「……大丈夫?『お兄ちゃん』」

 

「っ、あぁ、大丈夫だ。

 ……ありがとな、『ルビー』」

 

 

「……すごい!すごいです!

 刀鬼の激情が流れ込んでくるかのようでした!

 それに妹さんもこんなに演技がお上手だったなんて!」

 

真っ先に沈黙を破ったのは、この状況ではいい意味で空気が読めなかったアビ子だった。

 

「えへへ~~そうでしょ?

 先輩やあかねちゃんには敵わないけど、私も結構演技得意なんですよ~~♪」

 

「次回の舞台化には声かけさせていただきたいです!」

 

「まだ1回目の公演も終わってないでしょ……」

 

「だがこの出来なら続編を望む声はきっと出るさ。

 何しろ、『究極の舞台』だからな」

 

 

 

「……ねぇ、アクアくん。

 どうしてルビーちゃんが相手だったら感情移入できたの?」

 

「……そう、だな。

 いずれ話すよ、皆に。……絶対に」

 

 

 

 

ついに『東京ブレイド』の2.5次元舞台が公開される。

 

原作者鮫島アビ子監修。

それも何度も稽古に足を運び、その出来を絶賛しているとあれば、舞台にまでは興味を持たない原作ファンの中からも『見てみようか』という者が現れる。

 

そして一瞬で心を奪われる。

 

舞台は舞台、現実だ。空想を模倣しただけでこの現実世界の延長線でしかない。

しかしここには夢があった。

原作者が、ファンが、業界関係者が、足を運んだすべての人たちが夢見た世界があった。

 

ヒリつくような殺気。

命がけの戦場。

超人たちの舞。

そして演者たちからあふれ出る感情の濁流。

現実の延長線上にある世界だからこそ、観客たちはまるで自分もこの夢の世界にいるかのように錯覚する。

漫画でも、アニメでも、小説でも、それぞれの強みと素晴らしさはあるだろう。

だが『臨場感』。この一点においては舞台演劇を上回るものはまずない。

 

原作ファンからの導線が大きかったからこそ、舞台を見るのは初めてという人が多かった。

そしてその初めてが『究極の舞台』ならば、受ける衝撃も相当。

どうしても知名度が低く敷居が高い舞台というものを舐めていた彼らも想定との落差にやられ、舞台というジャンルそのものに興味を持った。

関係者たちは業界がにぎわったことを喜ぶべきか、ハードルが高くなったことを嘆くべきか。

ともかく、風は吹いた。

停滞しつつある舞台演劇に新たな風を送り込みたいと2.5次元を引き受けた金田一の目論見は成功した。

 

一度来た人が、もう一度見に来て。

中には三度四度と足を運ぶ人もいて。

1か月の公演、最後まで客足が途絶えることもなく。

舞台『東京ブレイド』は万雷の拍手を受けて千秋楽を迎えた。

 




舞台そのものに関してはどうか、原作か他の作者さんの二次創作で……。
悩んだけど無理でした。
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