苺プロの役者たちはその地位と比較しては少なめだが、やはり仕事は多い。
アイ・ヒカル・大輝の大御所役者組はドラマや映画やCMをいくつも抱えており、大輝は舞台公演の最中もそちらの仕事を並行してこなしていた。
『前世の記憶持ち』という子役としては反則なツクヨミも、多彩な演技と謎の貫禄で多くの現場を蹂躙し続けている。
黒川は過剰に露出を増やさない社長の方針と超常を得るための修行時間を確保するために仕事自体は少し減ったが忙しさはむしろ前以上。
有馬は『今日あま』、『今ガチ』、『東京ブレイド』と立て続けに話題作に登場して役者としても健在であるとアピールしており、最近は露出を増やして知名度回復に努めている。
有馬の復活により『アクかな』効果で役者復帰を表明したアクアへのオファーも増えた。
MEMはネットアイドル寄りな活動が中心なため、高い人気を維持するために頻繁なSNSの更新や動画投稿を続けねばならず、加えてスタッフとしても働いているため非常に多忙。
では今の苺プロで最も暇をしているタレントは誰か。
タレントとしての活動量でいうならヒノカミが最下位だが、彼女は特殊な事例なので除外する。
むしろ他のタレントが多忙だからこそサポートスタッフとしての仕事は多い。
「ミヤえも~~~ん!B小町の仕事増やしてよぉ~~~~!!」
「勘弁してちょうだい……これ以上業務を増やしたらパンクしちゃうわ」
「やだやだやだやだ!私も仕事したい!もっとB小町をアピールしたい!!」
ルビー単独でも多少の仕事はあるが、B小町として動くなら3人揃わねばならない。
その一人である有馬が先日まで舞台に専念しており、途中からヒノカミも参加したためB小町の活動はここしばらく完全に止まっている。
その間に大御所作曲家に依頼した曲も届いているし、MVの撮影も決まっている。
しかし苺プロの業務の多忙を理由に後回しにされているのだ。
「もう少し辛抱しろって。あと1か月もすりゃいろいろ区切りがつく。
その後でB小町を再始動させてくつもりだ。ずっと忙しい有馬にゃ悪いがな」
あわただしく動くうちに正月は終わってしまった。もう少しすればドラマ関連は本年度分の撮影が終わる。
いくら肉体的には超人とはいえ、精神的には人間だ。流石にこの状況を続けるのはよろしくない。
「……そうだな、いっそ慰労会ってことでタレント全員で社員旅行にでもいくか?
その時期なら2,3日くらい空きも取れるだろ」
「いいですね!写真や動画がたくさん取れそう!
苺プロ大集合って意外と少ないし、これはバズりの予感……!」
「そういうのから解放されるための旅行でしょうに……職場病ね」
「それでしたら、ちょぉ~~っとオススメ……というか、お願いしたいことがあるんですけど……」
社長たちの傍でスタッフとして働いて事務処理していたMEMが食いついてきた。
彼女が提案してきたのは、B小町のMVの撮影についてだ。
MEMの友人に地方で活動している『アネモネ』というクリエイターがいて、彼女の会社もMV撮影を依頼する候補になっている。
ネックなのは彼女の移動距離が大きいことだったが、逆に出向いてくれれば友達価格で大きく割引してもいいと言っている。
なので旅行先をアネモネのいるところにすればコストが抑えられるし、業務の短縮にもなるので休みも長めに取りやすい。ついでにそこは観光地としても有名。
MEMが即興で組み立てたプランを見せて斎藤夫妻は好意的な反応を示し、その方向でスケジュールを調整するようMEMに指示した。
「「「宮崎?」」」
「そう、B小町のMV撮影も兼ねた3泊4日の旅!
社長たちとウチのメインタレント全員でさ!
スタッフさんたちはその前後も使って長い休みを取ってもらう予定なの。
タレントと一緒に旅行に行ったら気が休まらないだろうしね」
「ふ~~ん……お土産買ってくるわね!」
「行くよぅ!私も行くの!私タレント!アイドルなの!
第一アネモネは私の友人なんだからね!」
「……実は私、『MEMさんってスタッフが本業なのかな』って思ってました」
「MEMさんの働きぶり見たら、誤解するのもおかしくないよな」
「ねぇヒカル。ここって現場でもちょくちょく名前聞くよね。なんで?」
「芸能の神様が祀られているからね。あやかってお参りする芸能人が多いんだよ。
……僕たちも芸能人なんだから、それくらいは知っておこうか」
ワイワイと賑わう苺プロのタレントたちだが、ルビーは珍しくその輪に入っていなかった。
彼女は部屋の隅にいるアクアの隣にいる。
「宮崎、か……」
「どうしようか、せんせ。今からでも変えてもらう?」
宮崎県高千穂、それはアクアの前世である雨宮吾郎が働いていた病院があって、そこにはルビーの前世である天童寺さりなが入院していた。
そしてその二人が最期を迎えた土地である。感傷的にならずにいられない。
「……いや、いい機会なのかもな。色々と清算するには」
「それって……!」
「あぁ……覚悟はいいか、さりなちゃん」
「……うん!」
そして暗い顔をする者がもう一人。
「高千穂……高千穂はなぁ……」
「貴女ならみんな歓迎してくれるよ?」
「だから渋っとるに決まっとるじゃろ。出雲に次いで行きづらいわ。
わかっていて揶揄うのはほどほどにせいよクソガキ」
「ふふふ……貴女にだけはガキと言われても仕方がないね」
「……お主経由で、『今回はオフ』って伝えといてくれるか?」
「言うだけ言っておくよ。無駄だと思うけどね」
「…………はぁ~~」
B小町のMV撮影を兼ねているならヒノカミが同行しないわけにはいかない。
スタッフだがその本体であるリンネも参加しなければならないだろう。
異界よりの来訪者であっても、彼女は八百万の神々よりも遥かに高い神格を持つ存在。
それが訪れるとあれば、神はできる限りを尽くして彼女を歓待するだろう。
高千穂は天岩戸伝説の際に神々が集まった逸話が残る場所なので、出雲と同様に神が集うのにはうってつけの場所なのだ。
元が人間であり腰の低い彼女にはそれが心苦しいというのもあるが、日本の神々のノリはちょっと破天荒で陽気すぎて気おくれしてしまうのだ。
……陽気におびえる太陽神ってなんなんだろう。
ともかく、そういった事情で彼女は神々の力が強いパワースポットから距離を取っていたのだが、今回ばかりは避けられそうもないと観念していた。
その様子を銀髪の幼い少女がニヤニヤと見つめていた。
そして時間は流れ、苺プロ御一行は宮崎へと飛んだ。