『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第32話 高千穂

 

飛行機に乗って、車を乗り継いで、ついに高千穂に到着した苺プロ御一行様。

 

そしてルビー・有馬・ヒノカミの3人は合流したアネモネに速攻で捕獲された。

 

「「ちくしょぉーーーーっ!!」」

「…………」

 

MV撮影2本分、しかも3人とも18歳未満だから夜中に働かせられないのでスケジュールが非常に厳しいのだ。

ヒノカミも戸籍上は16歳だ。中身は遥か上で見た目はそれ以下だけど。

 

「んじゃ、私たちは早速この辺の観光に……」

 

「アンタもくんのよMEM」

 

「んにゃっ!?」

 

「私を紹介したのはアンタでしょうが。

 動画、見てるわよ。腕を上げたみたいじゃない。

 スタッフとして協力しなさい。精々こき使ってあげる。

 でもその分安くしてあげるからね♪」

 

「……ちくしょぉーーーーっ!!」

 

4人のアイドルがドナドナされていき、斎藤夫妻とリンネと他のタレントたちが取り残される。

高千穂峡や天岩戸、天安河原といった名所には、連行された彼女たちも連れて行ってやらねばかわいそうだろう。

今日と明日はMV撮影で潰れるようだから残された一行はまず宿へと向かい、そのあと周辺を散策することにした。

アクアが妙に周辺地理に詳しく、彼の先導で宿から徒歩圏内の史跡などの名所を巡っていく。

アイとヒカルを筆頭に知名度の高いタレントばかりだったので地元の人に囲まれることも多く、落ち着かずあわただしい散策だったが。

そのアイとヒカルがばっちりファンサして視線を集め、的確にファンをさばいていたあたりは流石である。

 

 

一方撮影組はというと、アネモネはこの仕事は難航するだろうと予測していた。

ルビーと有馬は問題ない。どちらも実力があって感情や表情が強く表現されている。

 

だがヒノカミ。彼女が厄介だ。

常に上下ジャージ姿という致命的すぎる私服は、こちらで用意したものに着替えさせればなかなか見れるものになった。

だがとにかく彼女は感情が薄く動きと表情がない。

静止画ならば絵になるものの、動画にするには被写体として素材が悪すぎる。

最悪の場合は彼女の出番を極限まで減らして他の二人をメインにしてもいいとは言われている。

彼女は自他ともに認めるB小町の『数合わせ』なのだから。

 

しかしクリエイターとしてそれはしたくないし、プロとしてもできない。

ヒノカミはその独特なキャラクターと図抜けた歌唱力でルビーや有馬と並ぶカルト的人気を誇るアイドルなのだ。

当人たちが認めていようが、彼女の出番がほとんどないMVをお出ししてもファンが認めてくれるとは思えない。

そしてその無表情で神秘的なキャラクターが受けている以上、『もっと表情や動きを出してくれ』と指示するわけにもいかない。

 

「それじゃ、ヒノカミさんの撮影はじめまーす」

 

(映像じゃ歌唱力は無意味。彼女単体じゃどうやったって活かせない。

 ……偶然いい絵が取れることに期待するしかないかもね……)

 

プロとしてはあるまじきことに、内心で天に運を任せるアネモネ。

彼女の指示でスタッフたちがヒノカミにカメラを向ける。

 

(…………!?)

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

その夜、今日の撮影を終えた4人が宿でみんなと合流し報告する。

結論からいうと、撮影は当初の予定を大きく上回る速さで進んだ。

このペースなら明日は半日でも十分かもしれないとアネモネもご満悦だったそうだ。

 

なぜそんなことになったのかというと……起きたのだ。奇跡が。連続で。

 

ヒノカミが空を見上げると突然雲の切れ間から光が差し込み彼女を照らしたり。

人に懐くはずのない野鳥が彼女の肩に集まって歌いだしたり。

風に乗って飛んできた季節外れの花びらが彼女の周囲を舞い踊ったり。

リスや狸や狐といった野生動物が現れ彼女を慕うように囲んだり。

 

ヒノカミの撮影を手助けするかのような現象が次々と発生した。

こんな偶然狙って出せるものではなく、むしろこの奇跡のような状況ならば表情に乏しい方が美しく神秘性が増す。

『まるで神話の絵画のような光景だった』と、撮影スタッフたちは口をそろえていた。

 

「『本当に神さまみたいだった。彼女の信者になるファンの気持ちがちょっとだけわかったわ』って、アネモネも言ってました……」

 

「六道、お前が……やったんじゃなさそうだな。その様子だと」

 

斎藤社長がリンネを見るが、彼女は大広間の隅で腹を押さえて青い顔をして転がっている。

思えば日中の散策の途中も、彼女は口数が少なく元気がなかった気がする。

 

「ふふふ。大丈夫?」

 

「貴様ぁ……本当に連中に伝えていたんじゃろうなぁ……!?」

 

「もちろんだよ。むしろ伝えてたからこの程度で済んだんじゃない?」

 

「うごごごごご……!」

 

アネモネが『神さまみたいだった』と評したのも当たり前だろう。

何しろヒノカミの撮影の演出を担当していたのは、この地に集まっていた神様たちだったので。まさに『神がかり』である。

 

隠そうとしていたので霊感のない者はもちろん、ルビーと有馬も気づいていなかっただろう。

しかしヒノカミには見えていたのだ。木陰や雲に隠れてチラチラこちらを見ている神々の姿を。

つとめて無視してたけど手を振ったりしてきたし。女神たちなんかキャイキャイ騒いでたし。

 

つまるところ、これがリンネが恐れていた『神々の接待』である。

 

翌日の半日の撮影を終え、午後からとその翌日の観光でもヒノカミの心労……いや『神労』は続く。

 

神社に参ると苺プロの皆や他の参拝者の祈りに反応して大願成珠が光りそうになるし。

商店街で突発的なくじ引きとかやってて流れに逆らえず引いたら特賞出てくるし。

一行に悪質なファンとか迷惑な観光客とか地元メディアが近づいてきたら残雪や鳥の糞の絨毯爆撃で追い返されてるし。

そもそも天気予報では旅行の後半は曇りか雪の予報だったのにいつの間にか全部晴れになってるし。

 

 

「だからいやだったんじゃよ神が集まっとるところに来るのぉ!!」

 

「ひどいなぁ、みんな歓迎してくれてるんだよ?

 実際おかげで助かってるじゃない」

 

「ちくしょぉーーーーっ!!」

 

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