「こ、これは……」
「……いかにも。これが儂の前世の個性じゃ」
瓦礫の山の中で、オールマイトはヒノカミを中心とした球状の結界に覆われていた。
それがAFOの攻撃を防ぎ、降り注いだ瓦礫から彼らを守っていた。
林間合宿にて、ヒノカミの正体を知ったラグドールがこう言った。
――だからあなたは……個性が”3つ”あるのね。
一つ目は『六道リンネ』の『OMT』。
二つ目は『轟舞火』の『炎舞』。
ならば三つ目とは何か。
決まっている。
六道リンネの来世にして轟舞火の前世、『大貝 令』の個性。
個性の名は『領域』。
両の掌を強く叩きつけることで、込めた力に応じた大きさの絶対防御壁を一時的に作り出す個性だ。
「どうやら『ワン・モア・タイム』は、個性すら引き継ぐ個性だったらしい」
ラグドールに指摘されて試すと、意識しなければ気づかないほど小さく一瞬だったが、個性『領域』を発動することができた。
轟舞火に生まれ変わってから一度も使っていないせいか著しく衰えていたが、合宿中に個性伸ばしをすることでなんとか実戦で使える程度には力を取り戻していた。
しかし長年のブランクのせいで咄嗟の事態に発動が遅れた。
本当は衝撃波の前、黒い爪の攻撃からオールマイトを守るつもりだったのだ。
「かっか……もっと早くに気づいていれば、6年前に奴を取り逃がすこともなかったろうに……ゲホッ」
「ヒノカミ!?」
彼女が掌を放すと、十数秒後に結界が消える。
結界の上に乗っていた小石や砂が彼らの上に降り注いだ。
「無駄じゃ……どうやら、これが儂の最期だったらしい」
ヒノカミの胴体にはいくつもの孔が開いていた。
彼女は残っていた木札に火をつけて傷口を焼き、止血を始める。
気を失いそうな激痛が走っているはずだが、彼女は表情すら変えない。
もうまともに痛みすら感じていないのだろう。
これでは止血を終えたとしても、訪れる死を数分先延ばしするだけだ。
「……すまない……!私は迷ってしまった……!
少年たちに戦う覚悟を説いていながら……!」
「それは儂も同じよ。一歩、出遅れた。
まったく……菜奈に合わせる顔がないなぁ」
AFOは他人への嫌がらせをすることにかけては右に出る者がいない外道だ。
死柄木弔が7代目の孫というのは、嘘ではないだろう。
7代目は危険な戦いに巻き込ませないよう一人息子を養子に出し、遺言に従ってオールマイトらもその消息を辿らなかった。
そしてあんなに歪むまで放置し、敵として彼を傷つけてしまった。
「……頼みがある」
「……なんだい?」
個性の発動は間に合わなかったが、ヒノカミがオールマイトを庇った形になり、オールマイトの胴体は無事だ。死ぬことはないだろう。
しかし手足を何か所も貫かれ、下手に動かせばちぎれてしまうかもしれない。
もはや戦うどころか身をよじることくらいしかできないが、それでも彼女の願いに可能な限り応えようとした。
「お主の中の『ワン・フォー・オール』……その残り火を、儂にくれ」
「!?」
しかしヒノカミの願いはオールマイトの予想とは大きく異なるものだった。
彼女はまだ戦うことを諦めていなかった。
「残り火を……!?そんなことが、可能なのか……!?」
「わからぬ……じゃが儂は元ワン・フォー・オール継承者。
親和性ならあるはずじゃ。
持って数分の命だとしても、儂の手足は、まだ動く。
この状況で我らがオール・フォー・ワンを倒す術があるとしたら、これしかない……!」
緑谷にOFAを渡してから、オールマイトの力は少しずつ弱くなっている。
果たして残り火を渡せたとしても、今の彼女の体でどれほどの力が発揮できるか。
継承に失敗してオールマイトの中の残り火だけが消える可能性もある。
残り僅かな時間しかないヒノカミのために捧げるには、あまりに分の悪い賭けだ。
「頼む……!このまま兄上に、出久や勝己たちに責を押し付けるような最期では、死んでも死にきれぬ……!」
「……わかりました」
オールマイトは血だらけの腕をゆっくりと持ち上げ、ヒノカミの前に差し出す。
「6代目ワン・フォー・オール継承者、六道リンネ。
私の想いも、貴方に託します」
ヒノカミはその腕に噛みつき、傷口から勢いよく血を吸い始めた。
「ぐっ……おぉぉぉ……!」
大量に取り込んだからと言って成功率が上がるわけでもない。
緑谷も彼女自身の経験でも、DNAを受け取ってから個性が使えるようになるまで数時間がかかった。
しかし今、ヒノカミの胸には怪我の熱ではない、暖かい炎が宿り始めていると感じた。
(……応えろ!『ワン・フォー・オール』!!)
・個性『領域』
柏手を打つことで発動。
自分を中心とした球状の結界を作り、内外の干渉を遮断する。
発動時に結界の境にあった物は内外のどちらかに移動すると出入りできなくなる。
発動時に掌に込めた力が大きいほど結界のサイズは大きくなる。
掌を放して暫く経過すると結界は消滅する。
結界を維持するには、結界の大きさに応じた力で掌を押さえ続けなければならない。
発動後に結界の大きさを変えたり、位置を動かすことはできない。