『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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展開上、後半会話文ばかりとなりましたがご了承ください。


第33話 雨宮吾郎/天童寺さりな

 

苺プロタレントたちによる三泊四日の宮崎高千穂の旅、その最終日。

昼には空港に向かわねばならないので、残る時間は本当にわずか。

アクアとルビーはその数時間、自分たちに付き合ってほしいと願い出た。

 

二人に連れられて一行が辿り着いたのは。

 

「……墓地?」

 

「誰か、知り合いでも?」

 

「「…………」」

 

先を歩く二人、アクアは手桶を、ルビーは花束を持っていた。

やがて彼らは一つの墓の前に立ち止まる。

 

「……わかっちゃいたが、ひどい荒れようだな」

 

「早く掃除しなきゃ!」

 

二人は周囲を無視して、書かれている文字が読めないほど荒れ果てた墓石の掃除を始める。

やがて無言で黒川や有馬が手伝い始めて、十分もするとようやく名前が見れる程度には綺麗になった。

 

「『雨宮』……?」

 

「僕の墓だ」

 

「え?」

 

アクアの発言に聞き返した黒川に、ルビーが答える。

 

「ここにはね、私とせんせが眠ってるんだよ」

 

「さりなちゃんのは、もっとちゃんとしたお墓があるだろう?」

 

「でも私があげたキーホルダーもここにあるんでしょ?

 だったら、私の墓でもあるよ」

 

「……あぁ、そうだったね」

 

ルビーが体を預け、アクアが彼女の頭を優しくなでる。

普段の彼らとは全く違う、兄妹としての関係には見えない振る舞い。

しかし演技とも思えない。まるでこれもまた彼ら自身であるかのよう。

 

「……どういうことだい。アクア、ルビー」

 

「言った通りの意味です、ヒカルさん」

 

アクアはヒカルを父と呼ばなかった。

そしてヒカルたちも思いだした。

アクアとルビーは時折、互いを『せんせ』『さりな』と呼んでいた。

その時の二人の雰囲気はちょうど今の彼らのようだった。

 

 

「ここに眠ってるのは僕らの前世……『雨宮吾郎』と『天童寺さりな』です」

 

「「「!?」」」

 

 

「少し長い話になります。聞いていただけますか?」

 

「……聞かせてくれ」

 

 

二人は隠していた過去を明かす。

 

雨宮吾郎とは十数年前にここ高千穂の病院に勤務していた医者であり、天童寺さりなはその患者だった。

生後間もなく難病を発症したさりなはその人生の大半を病院で過ごしていた。

家族の見舞いはなく、病室の外に出ることすら容易ではなく、彼女の傍にいてくれたのは吾郎だけだった。

 

「でも心の支えはもう一人いたの。

 それが……アイちゃんだった」

 

自分と同い年のアイドル、アイ。

こんなにかわいい子がいるんだと驚き、彼女のようになりたいと憧れた。

一度だけだが病気の体を押して吾郎とともに地方ライブに参加したこともあるほどだ。

 

「その後でいろいろあって、もしかしたら治るかもってなってね。だけど……」

 

「彼女は4歳で『余命数年』と言われていたんです。

 ……15歳まで生きられただけで奇跡でした」

 

「『16歳になったら結婚して!』って、せんせと約束してたからね。

 頑張ってたんだけど……だめだったんだぁ……」

 

結局家族は顔を見に来ることもなく、ただ一人最期まで傍にいてくれた吾郎にお気に入りのアイのキーホルダーを預けて、さりなは息を引き取った。

しかし憔悴していた吾郎も後を追うように事故によって死亡。

そして気付けば二人してアイの子供であるアクアとルビーに生まれ変わっていた。

 

「さりなのママはね、私の次の子を産んで幸せに暮らしてるんだって。

 私なんて最初からいなかったみたいに。

 ……『愛してる』って言葉、信じていたかった」

 

「僕は母の命を奪って生まれた人間でした。

 父親は誰かわからず、母方の祖父母に預けられて……祖父とは分かり合えず、死に別れました。

 祖母は気遣ってくれてたけど、そちらも僕が成人した頃に。

 だからもう『雨宮』のお墓を掃除してくれる人もいません。

 ……ですが、同じ墓に入れてもらえただけありがたいです」

 

「……どうして今になって、その話を僕らに?」

 

「最初はそれこそ、次の墓に入るまで持っていくつもりでした。

 『生まれ変わりなんて信じるはずがない』から……普通の人間なら。

 でも苺プロのみんなはそうじゃないでしょう?」

 

「「「……」」」

 

濃密にオカルトと関り、実際に死と蘇生を体験している。

であれば『輪廻転生』だけを嘘と断じるはずがない。

信頼するに足る情報の下地があれば『あり得る』と認識するはず。

 

「だったら、隠し通すのはただの不義理でしかない。

 だからいずれ皆にちゃんと話そうと、さりなちゃんとも話し合って決めていたんです。

 ……ずるずると今日まで伸びてしまいましたが、故郷に戻ってきてようやく決心がつきました」

 

「……そうかい」

 

代表として最後まで聞き終えたヒカルは、隣で震えるアイに視線をやる。

 

「アクアはお医者さんで……ルビーは私と同い年の女の子だったんだよね?」

 

「……はい」

 

「それってつまり……」

 

 

 

 

「二人が天才なのは私からの遺伝じゃなかったの!?ショック!!」

 

 

 

「「「「「……は?」」」」」

 

 

 

「うわぁ~~、私ずっと『流石私の子!』とか言ってたのに!

 完全にうぬぼれてたじゃん!

 完全に親馬鹿だったんじゃん!はっずぅ~~っ!!」

 

「……アイさんは、気持ち悪く、ないんですか?

 さりなちゃんはともかく、僕なんてアラサーのおじさんで……」

 

「気持ち悪いよ!今のアクアの呼び方、すっごい気持ち悪い!

 いつもみたいに『母さん』って呼んでよ!

 ルビーも『ママ』って、ね!?」

 

「い……いいの……?」

 

 

「私は、二人が私の子でよかったって思ってるよ。

 それ以上の理由が必要なの?」

 

「「!?」」

 

「それとも二人は、私がお母さんじゃイヤ?」

 

「……イヤなワケないじゃん!

 ママは世界一……ううん、宇宙一のママなんだから!」

 

 

 

「有馬」

 

「っ……何?」

 

「オレだってそこまで馬鹿じゃない。

 お前がオレにどんな感情を向けているか、わかっているつもりだ」

 

「!」

 

「だがオレは……オレはまともな人間じゃない。

 年齢だってアラサー……いや、星野アクアとしての人生も加えたらアラフォーもとっくに超えてる。

 お前の隣はこんなヤツじゃなくて、もっと、ふさわしい奴が……」

 

「っ!?バカ!バカ、バカ!

 私の気持ちまで勝手に決めないでよ!

 私の恋を、勝手に終わらせないでよ!

 アラサーだろうがアラフォーだろうが……私は!『星野アクア』を好きになったんだから!」

 

「……有馬」

 

「……ふしゃぁぁぁぁぁああああっ!!

 せんせと結婚するのは私だもん!

 16歳になったけど、この話を皆にするまで我慢してたんだもん!

 先輩は……そう!第二夫人で我慢しとけばいいんだもん!」

 

「はぁぁっ!?第一夫人は私よ!

 前世がなんだろうが今は兄妹なんだからアンタが第二夫人で我慢しろ!」

 

「……あの!第三夫人の席は空いてますか!?」

 

「「なにぃぃぃいいいいっ!?」」

 

「く、黒川……なんでお前まで、オレなんかに……」

 

 

「『オレなんか』なんて言っちゃ駄目だよアクア。

 それは君の価値を認めてくれている人を貶める言葉だ」

 

「父さん……」

 

「……とはいえ、君も僕と同じ過ちを犯してしまうのか……。

 すいません、あゆみお義母さん。不出来な義息をお許しください……」

 

 

「なんでだよ……なんでまたウチのアイドルに男ができるんだよ!?

 しかもなんでまた男関係が他所に明かせねぇドロドロなんだよ!?

 B小町って呪われてんのか!?いや呪われてるのはオレなのか!?」

 

「……いいなぁ、かなたんたち。

 私だって……もうちょっと……」

 

「頑張りなさい、MEM」

 

「なんで私は止めないんですか!?やっぱり年齢ですか!?」

 

「……ウチの大輝、かなり女遊び激しくなりそうなのよ。

 ある日突然『できちゃった』とか見知らぬ女を連れてこられたらそれこそ大惨事だわ。

 だから信頼できるアナタにさっさと落としてもらいたいの。

 本気で応援してるからね!早く私を『お義母さん』って呼んでちょうだいね!」

 

「……私ってそんな人を好きになったんですね……トホホ」

 

 

 

「……オレだって、耳も感もいいんだが。

 母さんもMEMさんも忘れてんのかな」

 

 

 

 

パチパチパチパチ

 

 

 

 

「「「「「?」」」」」

 

「おめでとう、雨宮吾郎くん。そして天童寺さりなちゃん。

 君たちは見事ハッピーエンドに辿り着いた。

 きっとこれから先もそれなりに苦難や苦労はあるだろうけど、家族や仲間と一緒なら乗り越えていけるだろうさ」

 

「月読……?」

「どうしたの?月読ちゃん」

 

 

「お主ら下がれ」

 

 

一団を離れたところから見ていた銀髪の幼女がいつもの人を小馬鹿にするような顔で拍手をして、彼女から全員をかばうようにリンネとヒノカミが立ちはだかる。

 

そしてリンネが更に一歩前に出る。

 

 

「アクアとルビーが決心したんじゃ……あやふやなままで済ませるのは、もうやめた」

 

「六道……?」

「六道さん?」

 

「問うぞ、月読」

 

「どうぞ」

 

 

 

「雨宮吾郎と天童寺さりなをアイの子に転生させたのは貴様か?」

 

「そうだよ」

 

 

 

「「「「「!?!?!?」」」」」

 

いつの間にか月読の周囲には。

無数のカラスが集まっていた。

 

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