『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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今回の話は独自設定、独自解釈を多分に含んでいます。


第34話 月読

 

「月読が、僕とさりなちゃんを転生させた……!?」

 

「どういうことなのおばーちゃん!

 月読ちゃんって、私たちと同じ前世の記憶がある人間じゃないの!?」

 

「なっ!?月読もアクアたちと同じなのか!?」

 

 

「同じなものか。こ奴の前世は人間ではない。

 この国に住まう八百万の神々、その一柱よ」

 

「神様、ですって!?」

 

 

「貴女がそれを言うの?

 『日の神(ヒノカミ)』を名乗る異界の太陽神が」

 

「……たい、よう?」

 

「そうだよ、星野アイ。

 彼女は幼いキミの叫びに応えて、こことは別の世界からやってきた神。

 それも私みたいに数多いる神の一柱なんてちっぽけな存在じゃない。

 地球どころか太陽系全域をも支配する力を持った、正真正銘本物の最高神さ」

 

「「「「「!?!?!?」」」」」

 

 

 

今から20年以上前に、世界の壁を越えて侵入してきた異邦の神の化身。

この世界に日本に住まう八百万の神々は、当初は彼女を警戒し恐れていた。

何しろ彼女は端末と呼ぶ分体ですら、この国どころか星すら滅ぼす力を持っていたのだから。

 

例え勝ち目がなかろうと、この国を守護する神としていざとなればその命を懸けて戦う覚悟はあった。

彼女が訪れてから初めての神在月、出雲に集まった日本中の神々が協議を行い一致団結して事態にあたると決定した。

特に武神たちは神在月が終わっても出雲にとどまり、彼女との戦の日に備えていた。

 

「だからおよそ17年前、突然彼女が出雲を訪れた時は驚いたよ。

 圧倒的強者であるはずの彼女がいきなり土下座して、『あの世の場所を教えてくれ』って懇願してきたんだもん」

 

「17年前……?」

 

「……本当は星野アイのお腹の胎児には魂が宿る予定はなかった。

 双子は揃って死産になるはずだったんだ。

 それに気づいた彼女はあの世へ向かい、『転生予定の死者の魂をアイの子に宿してくれ』と閻魔大王たちに頼もうとしていたんだ。

 『アイとヒカルの悲しむ顔を見たくない』。

 たったそれだけの理由で世界で一番すごい神様が、自分に敵意を向ける神々が集う場に乗り込み、無防備に頭を下げたんだよ」

 

「「……!」」

 

神々は面食らい、衝撃を受け、彼女の心意気に惚れ込んだ。

たかだか数年世話をしただけの人間のためにここまでできる者がこの世界を滅ぼそうとするはずがない。そう信じた。

 

しかし現世の神々の一存であの世の場所を教えるわけにはいかない。あの世にも神々がいて、規則がある。

だから彼女の代わりに神々があの世に頼みに行ったのだが、交渉は難航した。

あの世だって意図的にアイの子供を見殺しにしたいわけがない。

ただ運悪くこのタイミングで、アイの胎児に適合できそうな転生予定の魂がいなかった。

このまま悠長にしていてはアイの子供が魂を宿さぬまま生まれ、そして死んでしまう。

異邦の女神に『我々が何とかしてやる』と見栄を切った手前、『できませんでした』なんて言えるはずがないし言いたくない。

 

「悩んだ神々はあの世に頼らず、他の方法を考えることにした。

 そしてあの世に行く前の、転生の輪に入る前の魂をあてがうことにしたんだ。

 そこで私が『雨宮吾郎』と『天童寺さりな』を推薦したんだよ」

 

「つまり、僕たちに前世の記憶が残っていたのは……!?」

 

「あの世を経由せず、死んですぐに生まれ変わったからさ」

 

当時の雨宮吾郎と天童寺さりなは亡くなったばかりでまだ現世に魂が残っていた。

住んでいたのもこの高千穂……神々の力が強く干渉しやすい土地だった。

アイのお腹にいるのは男女の双子、記憶が残るのだから同じく男女の二人組が相応しい。

そしてこの二人の間には縁があり、わずかとは言え件の星野アイとの縁もあり、二人ともアイへの強い憧れと敬意を持っていた。

アイの子供の双子に生まれ変わらせるのに、彼ら以上に相応しい魂はいなかったのだ。

 

「そして神様たちは、揃って不幸な生涯を終えた君たちに新しい人生をプレゼントしてあげたのさ。

 ふふふ、神様って優しいでしょ?」

 

「そ……んな……!」

 

「……どんな形であれ、骨を折ってくれたことには感謝しておる」

 

リンネが神々の行いに気付いたのはアクアとルビーが生まれてその魂を目にした時だった。

交渉は失敗したのだと察し、それでも規則を曲げてまで対処してくれた神々を責めるなど恥知らずな真似ができるはずがない。

巻き込んでしまった二人の魂の記憶や人格を消すことも同様にだ。

この件に関しては無理を通そうとした自分に非がある。

神々にも、アイの子供になってくれた二人の魂にも、感謝しかなかった。

 

 

 

「だが……貴様が『アイの子に生まれ変わらせるために雨宮吾郎を殺した』のではあるまいな?」

 

「「「「「な!?」」」」」

 

「…………ふふふ」

 

 

先ほど月読自身が言ったとおりだ。

ここ、高千穂は神々が力を行使しやすい土地。

『事故を起こして人ひとり殺す』ことなど容易い。

 

天童寺さりなはわかる。重い病に侵されていたし、彼女が亡くなったのはアイの妊娠が発覚する前だった。

だが雨宮吾郎の死はリンネが神々に頼みに行ってまもなくのこと。

あまりにもタイミングと都合が良すぎる。

『アイの子に転生させる魂として推薦するために雨宮吾郎を殺した』と邪推してもおかしくないほどに。

 

神の感性は人間とは違う。

時間の捉え方も命の考え方もまるで異なる。

『来世で幸せになれるから』と不幸な人間の今世を奪うことは、彼らの感覚では善行にあたるのだ。

 

「おそらく貴様は、生前の雨宮吾郎と天童寺さりなを前々から見ていたのじゃろう。

 二人へ向ける慈愛の瞳、それを嘘と思ったことはない」

 

さりなが亡くなってルビーに生まれ変わるまで数か月……いや1年近くの開きがある。

とっくにあの世からのお迎えが来ていてもおかしくない時間だ。

なのに彼女の魂が現世に残っていたということは、月読が隠して保管していたのかもしれない。

その可能性があると思えるくらいには、月読は天童寺さりなと雨宮吾郎を愛していた。

 

「……じゃがな!」

 

そこでリンネの全身から炎があふれ出し、服装が変わる。

真っ赤な羽衣を纏った、女神としての姿を現す。

 

「同時に貴様や他の神々が彼らを……我らを見世物にしていたことも知っておる。

 貴様が独善と自らの愉悦のために彼らの命を弄んだというなら……」

 

突如として空に暗雲が立ち込め、太陽が姿を隠す。

 

 

 

 

「消すぞ。クソガキ」

 

 

 

 

そして女神の頭上に炎を纏う、上半身だけの巨大な鬼が現れる。

 

直接向けられているわけでもないのに、意識を失いそうになるほどの殺意と怒気。

超常に触れ慣れている人間たちでも膝をつかないようにするだけで精一杯だった。

 

対して『月読』を名乗る幼女は眷属であろう無数のカラスを従えたまま、不敵に笑う。

 

 

「……してないよ。私も、私が知る限りでは他の神々も。

 雨宮吾郎の死は避けられない運命だったのさ。

 貴女なら私が嘘をついていないとわかるでしょ?」

 

「…………」

 

「それに私が近くで見物して楽しむためだけに人間になったと思われるのは心外だなぁ。

 私が貴女に近しいところに生まれたのは、貴女を支えるためでもあるんだよ?

 仮にも『月読』を名乗る者なんだから『天照大神』としての権限を持つ貴女に仕えるのは当然でしょ?」

 

「……嘘では、ないか。疑って悪かった」

 

リンネは頭上の鬼を消し、頭を下げた。

空の雲が流れ、再び太陽が顔を出して地上を照らす。

 

 

 

「……それに私がアクアとルビーの二人にちょっかいをかけることはもうないよ。

 そんなことをする必要もないから」

 

「どういう意味じゃ?」

 

 

 

 

「だって今のところ貴女以上の見世物(おもちゃ)はないし」

 

「このクソガキャーーーーーーーーッ!!!!」

 

 

 

日差しが強くなった。まだ冬のはずなのに夏の日差しのように。

 

「貴女の初ライブ、天鈿女が覗きに来てたの気づいてたでしょ?絶賛してたよ?」

 

「言うなァーーーッ!!」

 

「彼女、人間のふりして新生B小町の物販にも顔出してたんだよね。

 大量にCD買い込んでたんだけど、あれ高天原の神々への布教用だったんだ」

 

「やめろォーーーッ!!

 神が神に布教活動をするなァーーーッ!!!」

 

「最近は他の芸能の女神たちとグループ結成して、B小町の歌と踊り完コピしてるんだって。

 『今度の神有月、出雲で一緒に踊ろうね』って。確かに伝えたから」

 

「いやじゃいやじゃいやじゃぁーーーーーあ”ぁーーーーっ!!!」

 

幼女にささやかれる度に女神が地面をゴロゴロと転がりのたうち回る。

先ほどまでの緊迫した空気はどこへやら。

人間たちは言葉を失い、温度差で頭痛がしてきた。

まだ寒いので風邪をひかないようお気を付けください。

 

 

 

 

「……引き籠りたい」

 

「近くにちょうどいい穴倉があるよ。

 蓋は遠くにぶん投げられちゃってここにはないけど」

 

「……自分で作る」

 

「ほとぼり冷めたら出てきてね。

 あんまり遅かったら天鈿女と手力雄を呼んじゃうよ?」

 

「現代で天岩戸神話を再現する気かアンタら!?」

 

すっかり元気をなくし、女神は膝を抱えて頭を伏せたまま動かなくなった。端末の少女の方も同様に。

太陽の光がいつのまにか弱くなっていた。見上げればどんよりとした雲が空を覆っている。

予報では今日はずっと晴れのはずなのに、突然暗くなったり夏の日差しになったりまた曇ってたり。

この場にいない人々は原因がわからず異常気象と騒ぎ立てていることだろう。

 

 

「……どう?お父さん。

 少しは溜飲が下がったかな?」

 

「っ、月読……」

 

「今後もこの神さまの扱いは任せてよ。

 ふふ、私って孝行娘でしょ?」

 

「……あぁ!まったくオレってやつは、とんでもねぇ幸せモンだ!

 こんな美人のカミさんと父親思いの娘がいるんだからな!」

 

「……えぇ、そうね。可愛い息子もいるしね」

 

「流石にこの年で可愛いって言われるのは、恥ずかしいんだが」

 

「親にとって、子供は可愛いものよ。

 いくつになっても、どんな子供でもね。

 ……そうでしょう?ヒカル、アイ」

 

「はい」

「そーそー!」

 

 

「ふふふ……でもごめんね、お父さん。

 せっかく吹っ切れたところ悪いんだけど、ちょっと頭の痛いお話をしなきゃいけないんだ」

 

「……へ?」

 

 

 

 

「マスコミ連中が感づいたよ。星野アクアとカミキヒカルの関係に」

 

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