『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第35話

 

公的に明かしている範囲でいえば、星野アクアにとってのカミキヒカルとは。

姉の夫、すなわち義理の兄。

幼い頃から面倒を見てくれた演技の師匠。

苺プロの大先輩であり国内では知らぬもののいないトップ俳優。

『最も尊敬する役者は誰か』という質問を受けた時には迷わず『カミキヒカル』と答えている。

アイ?彼女は推しの『アイドル』だ。女優になった今でも。

 

以前はそれで通用していたのだ。彼が成長期を理由に業界を離れる、小学生の頃までは。

しかし高校生になって役者として復帰したアクアは、あまりにカミキヒカルに似すぎている。

『彼への憧れから真似ている』というにしても限度があるほどに。

 

アイとルビーは似ている。これは姉妹ならば納得がいく。

ルビーとアクアは似ている。双子なのだから当然のこと。

しかしアクアとヒカルが瓜二つであることには説明がつかない。

 

アイとアクアたちの年齢差は16。

弟妹というよりも『親子』に近いほど離れている。

そして双子が生まれるより少し前にアイとヒカルが出会っている。

 

ここまでピースが揃えば『まさか』と思う者が出てもおかしくない。

 

 

 

「カミキヒカルが出演していたドラマのスタッフを丸め込んで、弁当の箸や飲み物のストローを回収したようだね。

 これから星野アクアの方も同様に髪の毛の一本でも手に入れて、DNA鑑定に踏み切るつもりだろう。

 こっちでどれだけ警戒しても完全に防ぐのは難しい。

 何しろアクア本人ではなく、妹の方でもいいんだから」

 

旅行先から事務所に戻り、広間に集まった一同の前で、腕にとまった眷属のカラスが集めた情報を月読が説明する。

 

「……ついに来たかって感じだな。

 この二人を見て血縁を疑わねぇ奴はいねぇと覚悟はしていたが……」

 

「じゃが今の段階なら止めることはできる。どうとでもな」

 

今動いているマスコミが所属する会社の脅迫材料なら確保している。

別人の品を掴ませてもいいし、ハッキングしてDNA鑑定結果のデータを改竄してもいい。

 

「だが、またすぐ別のマスコミが動き出すだろうな。

 『赤の他人』っつう確たる証拠が示されない限り。

 当初の予定通りとにかく否定して押し切る……のはDNA鑑定までされちゃ厳しいか」

 

アイの出産は自社ビルで行ったので外部の病院を使っていない。

さらにアイの休業期間をギリギリまで削るなど、様々なアリバイ工作はしてきた。

それらの状況証拠を並べれば反論は防げると思っていたが、考えが甘かった。

あの頃の斎藤社長は、こんなに気軽にDNA鑑定なんてものができる未来になると予想していなかった。

 

「しばらくはこの子たちに連中を妨害させるよ。

 でもいつまでしのげるかわからない。早めに対策を取らないとね」

 

「……最後の手段、使うか?」

 

「前言ってたアレか……あんときゃ流石に冗談かと聞き流してたが、神さまっつうなら本当にできるんだろうな」

 

リンネは対象の存在を改変する能力を持っている。

『遺伝子情報を書き換える』なんて朝飯前だ。アクアとルビーからカミキヒカルに関連する情報を取り除いてしまえばいい。

 

しかしこれをした瞬間、カミキヒカルはアクアとルビーの父親ではなくなる。

 

 

 

 

「全て明かしましょう」

 

「「「!?」」」

 

黙って話を聞いていたヒカルが迷いなく宣言する。

 

「僕が二人の父親で、アイが母親だと、暴かれる前に公開します。

 ……いいよね、アイ」

 

「もっちろん!」

 

「なっ……んなことしたらお前らがどんな批判を受けるか!」

 

これが木っ端や引退済みの役者なら見向きもされず話題はすぐに風化するだろう。

だがこの二人は今や日本を代表する俳優夫婦。

月9、朝ドラ、大河への出演経験もあり、現在進行形で撮影しているドラマも出演交渉が進んでいる映画もある。

民衆からの注目度は桁外れだ。

そして苺プロは今までマスコミの干渉を力づくで跳ねのけてきたからこそ、連中からとんでもなく逆恨みされている。

ようやく見つけた明確な攻撃材料だ。鬱憤を晴らすつもりで寄ってたかって袋叩きにするだろう。

加減も忖度もせず、徹底的に。

 

「しゃちょー。私たちはアクアとルビーの親なんだよ。

 二人の全部を受け止めて、それでも親をやるって決めたんだよ」

 

「もう嘘はつけません。

 『二人が僕らの子供じゃない』なんて、口が裂けても言えない」

 

「っ……」

 

「ママ……パパ……!」

 

「交際すると決めたのも、二人を産むと決めたのも僕たちです。

 会見を開いてください。そして社長は『何も知らなかった』と、僕たちを突き放してください」

 

「撮影中の番組への違約金とかそういうのも全部私たちが支払うから!

 ばっちり稼いできたんだもん!何億円だってどんと来いだよ!」

 

「苺プロには迷惑をかけない……のは無理ですが、最小限になるよう努力します。

 だから……お願いします」

 

アイとヒカルが揃って頭を下げる。

絶句し棒立ちになっていた斎藤社長はやがて震え始め、大声を上げた。

 

 

 

「……ばっかやろうどもが!苺プロの社長はオレだ!

 どうするかはオレが決める!タレントが口出しすんじゃねぇ!!」

 

「っ」

「でもしゃちょー!」

 

「月読ぃ!お前宮崎で言ってたよな!?

 『家族や仲間と一緒なら、苦難や苦労も乗り越えていける』ってよぉ!」

 

「……言ったよ、お父さん」

 

「その『家族』を切り捨ててどうするんだよ!

 そんなんじゃここを『乗り切った』としても、『乗り越えた』ことにはならねぇだろ!」

 

「「!?」」

 

アイの義母がリンネにしてヒノカミであり。

アイの夫がヒカルであり。

アイとヒカルの子がアクアとルビーであり。

アクアに想いを寄せているのが有馬と黒川であり。

ヒカルの息子が大輝であり。

大輝に想いを寄せているのがMEMであり。

大輝の義理の親が斎藤夫妻であり。

斎藤夫妻の娘が月読である。

 

アイから始まった繋がりは今やこの場にいる全員に広がり、彼らは誰に恥じることのない『家族』になっていた。

 

「オレたちは一蓮托生だ……勝つも負けるも、全員で!

 アイの言葉を借りるなら、どこまでも欲張りに行く!」

 

「でも壱護、どうやって……」

 

「……いいか、よく聞け!」

 

 

 

 

 

「「「「「…………」」」」」

 

「馬鹿者!そんな大博打をうつ奴があるか!

 危ない橋を渡らずとも儂がどうにでも……!」

 

「何度も言わせんな!オレが社長だ!

 こんな時にオレたちが命懸けねぇでどうすんだよ!

 いつまでもアンタにおんぶに抱っこでいろってのか!?」

 

「っ!」

 

「……巻き込まれたくねぇ奴はウチを辞めていい。

 よその事務所を紹介してやるし、見舞金もたんまり積んでやる」

 

しばらく待ったが、誰も声を上げなかった。そして斎藤社長が沈黙を破る。

 

 

 

「やるぞ。オレたちが、本当に家族になるために」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

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