『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第36話 苺プロ緊急会見

 

ある日、苺プロからメディア関係会社に一斉にメールが届いた。

自社ビルにて緊急会見を開くとのこと。

参加は自由。会見内の発言も映像も好きに扱ってくれて構わない。

ただし生放送だけは行わないこと。それが条件だった。

 

芸能界でも知らぬ者のいない大会社でありながら、秘密主義と過剰な情報漏洩対策を敷く苺プロが会見を開くなど前代未聞。

これを無視する者は報道関係者にはいない。

懇意な者も、そうでない者も、かつて苺プロに辛酸をなめさせられた者もこぞって会見の場に集まった。

 

 

 

 

広い会議室。

そこに並べられたたくさんの椅子に記者たちがずらりと座る。

収まりきらず立っている者もいて、会議室の後ろに並ぶカメラの邪魔にならないようできるだけ壁際に移動していた。

彼らの視線の先には、壇上に立つ斎藤壱護社長とその少し後ろに妻の斎藤ミヤコ副社長。

そして二人の後ろには苺プロのタレントたちが座っていた。

日本を代表する役者夫妻の星野アイとカミキヒカル。

アイドルグループ『B小町』に所属する星野ルビー、有馬かな、ヒノカミ。

ネットを中心に活動するトップアイドルMEM。

イケメン役者として活躍する大輝とアクア。

移籍してまだ間もない黒川あかね。

ヒノカミの膝の上には5歳の子役ツクヨミが座っている。

 

会見開始予定時刻になると同時に、沈黙していた斎藤社長が口を開く。

 

「……時間だ。そんじゃ今から、会見を始める」

 

これだけのマスコミがカメラを向けている前だというのに、斎藤社長は敬語を使わなかった。

記者たちの間にいきなりどよめきが広まる。

 

「取り繕うつもりはねぇ。テメェらも敬語なんざ使う必要はねぇ。

 まともな奴もいるが……はっきり言ってオレはテメェらマスコミが嫌いだからな」

 

今度はどよめきだけでなく敵意すらも広がっていく。

この発言も当然録画されており、苺プロを叩く材料になり得る。

散々な目にあわされ苺プロを逆恨みしている連中の中には露骨に口角を釣り上げている者さえいた。

構うことなく、斎藤社長は続ける。

 

「今回会見を開いたのは、テメェらの中に余計な動きをする奴がいると察知したからだ。

 ……『星野アクアとカミキヒカルに血縁関係があるか調べようとしている奴』がな」

 

社長の後ろに並んで座る二人は、確かにそっくりだ。

同じ疑問を抱いた者はいくらでもいるだろう。

 

「結論から言う。事実だ」

 

「「「!?」」」

 

「星野アクアと星野ルビーは、星野アイの弟と妹じゃねぇ」

 

「……二人は、僕とアイの子供です」

 

「「「「「!?!?!?」」」」」

 

後ろに控えたままヒカルが口を開く。

否定するどころか、全面的な肯定。流石にこれには記者たちも言葉を失った。

 

「今からおよそ17年前……姫川愛梨さんの事件を覚えていますか?」

 

かなりの年数が経っているが、大きな事件だったので記者なら知っていて当たり前。

女優・姫川愛梨が若い俳優に肉体関係を強要していたと発覚し逮捕された事件だ。

その被害者は秘密になっていたが、ここでその話を口にするということは。

 

「僕がその事件の被害者です。

 彼女と肉体関係を持ったのは……10歳の頃だったかな」

 

記者たちの驚愕を無視して、ヒカルは話を続ける。

 

「その事実を知って僕を助けてくれたのがアイと斎藤社長たち、苺プロの皆でした。

 ですが恥ずかしながら……トラウマになってしまいまして。

 不安定になっていた僕を受け止め、愛してくれたのがアイでした。

 そして僕がアイを妊娠させてしまった。当時のアイは16、僕が15。

 僕たちは周囲の反対を押し切り、二人を産み育てると決めました」

 

「……それでもこれだけは言わせてくれ。

 子供産んでもアイドル続けるって言い張ったのはこのバカだ!

 オレやヒカルは引退しろっつったのに!そこだけはかばいきれねぇ!!」

 

「えへへ~~」

 

斎藤社長が振り向いて睨みつけるが当人はまるで反省した様子もなくにこやかに笑い、隣のヒカルが目元に手を当て頭を抱える。

 

「……だがオレが全て知っていたのも、最終的に隠すことに同意したのも事実だ!

 オレが苺プロの社長で、責任者だ!『責任取れ』っつうなら取ってやらぁ!

 世間からの批判が多ければ……この苺プロを畳んでやる!」

 

カメラが一斉にフラッシュを焚く。

業界最大手の芸能事務所の解散。

これは大きなスキャンダルになる、部数を稼げると、記者たちはほくそ笑む。

 

 

 

 

「そして所属タレントは全員、芸能界引退だ!!」

 

 

 

 

しかしその後に続く言葉を理解するには、しばらくの時間を要した。

 

「……引、退?」

「全員!?」

 

「そうだ。苺プロを解散すると同時に、ここにいる全員が芸能界を引退する!」

 

記者たちが漏らしたつぶやきに斎藤社長が応える。

やがてどよめきが、いや、怒号が響き渡る。

しかし斎藤社長はサングラスの下の厳しい視線を緩めず、後ろにいるタレントたちは静かなものだった。

 

「所属タレント全員が、芸能界を辞めると!?」

 

「そうだ!了承はすでに取った!」

 

「B小町のライブツアーは!?東京ブレイドの舞台続編は!?」

 

「皆さんが出演している放映中の番組はどうなるんです!?

 朝ドラは!?月9は!?大河は!?撮影が進んでいる映画もあるはず……!」

 

「んなもん知るか!番組が代役立てんだろ!!」

 

「そんな無責任な!違約金がどれほどになると思っているんですか!」

 

「無責任だぁ?責任取れっつうから取ってやるっつってんだろうが!

 違約金の方はとっくに試算は済ませてらぁ!

 一銭も値切らず全額耳を揃えて支払ってやるよ!!」

 

「っ……皆さんは本当にいいんですか!?

 努力してここまで上り詰めてきたのに……!」

 

社長が本気だと察した記者たちは、後ろにいるタレントたちの説得を試みる。

しかし無駄だ。とっくに覚悟はできているから彼らはここにいる。

 

 

「ママとパパを拒絶する世界なら、そんな世界は私も拒絶する」

 

「オレは元々、若いうちに役者を辞めるつもりでした。予定が少し早まっただけです」

 

 

「私は、苺プロに拾われ育てていただいた身です。

 最初からここに骨をうずめる覚悟はできています」

 

「同じく。ガキだった私の味方になってくれたのはここの人たちよ。

 だったら私も最後まで味方でいるわ」

 

「私が先日移籍した理由は、皆さんもご存じかと思います。

 とっくに潰れているはずだったのに、もう少し夢を見れた。それで充分です」

 

 

「ちなみにオレは、他人事じゃないんで。

 ヒカル兄さんはオレの血縁上の父親なんで」

 

「「「……!?」」」

 

「姫川愛梨がヒカル兄さんを襲って産んだ子がオレですよ。

 ヒカル兄さんが11歳の時の子です。托卵してたんですよね、あの人」

 

説得は不可能、それどころか追加の爆弾まで投下されいよいよ悲鳴が響く。

 

 

一つの芸能事務所がつぶれ、10人の芸能人が引退する。

芸能界全体でみれば微々たる量だ。

しかしその芸能事務所は多くの番組にスポンサーとして出資もしていた業界最大手。

その所属タレントは芸能界のほぼ頂点に位置している有名人ばかり。

地上波やネットを問わず、番組の種類も問わず、視聴率の高い番組には一人か二人は苺プロのタレントがいる。

特にアイ、ヒカル、大輝、ツクヨミは役者として多くのドラマや映画にメインキャストとして出演している。

彼らが突如として姿を消せば撮影中のもの、撮影予定のもの、その計画全てがとん挫する。

違約金などでは取り返しのつかない損失が業界全体を襲う。

 

この事件は彼らマスメディアが望んだ一大スキャンダルになるだろう。

彼らの記事に多くの視聴者と購読者が見込めるだろう。

 

だがその後はどうなる?

比喩でなく業界そのものの存続の危機に陥りかねない。特にTV業界は近年の人気の低迷もあってこれがトドメになりかねない。

そして芸能人たちのスキャンダルを追いかけるマスコミはその余波をモロに受ける。

この場にいる会社のいくつが消え、何人が首を括るか。そういった規模の話になる。

 

 

 

「言っておくけど、もう隠すつもりはないからね。

 この会見の後、苺プロの公式ページで事実を公表するよ」

 

「「「!?」」」

 

ここまで黙ってヒノカミの膝の上にいた少女、わずか5歳の幼子が告げる。

 

「どうしてそんなに騒いでいるの?

 おじちゃんたち、芸能人が嫌いなんでしょ?

 良かったじゃない。嫌いな奴らがいなくなるんだからもっと喜びなよ」

 

「!?そんなことはっ」

 

「おじちゃんたち、ずっと芸能人の悪口言ってるじゃない。

 『真実を伝えるんだ』っていつも言ってるじゃない。

 おじちゃんたちが隠しておいたことを暴こうとしたからこうなったんだよ?

 だからこの結末も喜んで受け入れなきゃダメだよ?」

 

「違っ……私たちは、こんなつもりじゃ!」

 

「こんなはずじゃなかった?あはは、おかしなこと言うね。

 人が自由に選べるのは行動だけさ。

 なのに結果まで思い通りにしようなんて。

 ……あつかましいよ、神さまでもないくせに」

 

 

ツクヨミの纏う気配が変わった。人間のものから、神のものへと。

そして立ち上がり、父親の隣に移動して、愚かな群衆を見渡しあざけるように嗤う。

 

 

「……ねぇ、『寄生虫』のおじちゃんたち」

 

「「「……!?」」」

 

視線を受けた記者たちが、まるで蛇に睨まれた蛙のように身をすくませる。

しかし彼女はそんな生易しい存在ではない。

神罰を下す力を持ちその行使をためらわない、人間にとっては祟り神にも等しい存在だ。

 

 

 

「『宿主』と一緒に心中する覚悟、本当にできてたの?」

 

 

 

神の宣告が響く。どこまでも冷酷に。どこまでも残酷に。

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