『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第37話

 

幼子の放つ神威に飲まれ沈黙したところで無理やり打ち切られた会見、その翌日。

宣言通り、苺プロの公式ホームページにて事実が公表された。

星野アクアと星野ルビーが、星野アイとカミキヒカルの実子であること。

カミキヒカルがかつて姫川愛梨が起こした事件の被害者であったこと。

斎藤大輝は姫川愛梨が生んだカミキヒカルの息子であり、アクアたちの異母兄弟にあたること。

マスメディアからの調査により暴かれつつあったので真実の公開に踏み切ったこと。

記者たち相手にした時とは違い、礼儀正しい文章で。ミヤコが添削したのだから当然だ。

 

間髪おかず、報道各所は一斉に記事を投稿した。

 

苺プロを擁護するような記事をだ。

斎藤社長は一つ目の賭けに勝った。

 

『批判が大きければタレントは全員辞める』という文言は、公式発表には記載しなかった。

その事実を知るのは会見に参加した者だけ。事の重大さを知るのも彼らだけだ。

この状況で彼らが動かなければ、芸能界そのものを揺るがす大事件へと発展してしまう。

だから彼らは何としても『世間に苺プロを批判させるわけにはいかない』。

 

そう、斎藤社長は自社とタレントたちの存亡をかけて芸能界全体の危機を演出し、マスコミを脅迫して彼らに『火消し』をさせたのだ。

 

彼らは普段から世論を操ることで飯を食っている連中だ。

こちらの望む方向に世論を誘導させるにはこれ以上ない適材である。

彼らは騒動を大きくしたくない話題にはあえて触れず、時間による風化を狙うことも多い。

だが今回の事件はそんな消極的な手段では覆いきれない規模だ。

しかも具体的にどのくらいが『批判が大きいと見なす』かという判定基準もないため、徹底的に抑え込むしかなかった。

普段好き勝手に記事を書いて炎上させる記者たちも、それを嬉々として推奨する会社も、自分たちの命がかかっている。文字通り『必死』だった。

 

しかし斎藤社長の二つ目の賭けは成功しなかった。

どれだけ火消をしても、星野アイと苺プロを批判する声は何度も湧き出してきた。

 

カミキヒカルは過去に起きた事件の被害者であることは事実。

アクアとルビーと大輝は結果的に生まれた子供。

当事者ではあるが彼らもある意味被害者だ。特に子供たちに対し、生まれてきたことそのものが悪いなどと言えるはずがない。

 

だから批判はアイに集中した。

子供を産んでおきながらファンに愛を叫んでいた彼女に『裏切られた』と思う者が出るのは当然だろう。

今は誰もがSNSで簡単に自分の意見を発信できる時代だ。

誹謗中傷が混じった悪質なものなら強硬手段で排除できるが、ただの個人的な意見や感想までは規制できない。

 

そして苺プロに対する不満が、株価という形で現れる。

苺プロダクションは『株式会社』だ。

そのスタッフである六道リンネが筆頭株主という異質な在り方をしているが、彼女が所有していない分もかなりの量がある。

それらが売りに出されじりじりと株価が下がっていき、そしてさらに売りが加速する。

このまま放置すれば暴落し、『批判が大きい』と判断せざるを得なくなる。

 

しかし市場に放出された株を大量に買い支える者が現れた。

大人気漫画『東京ブレイド』の原作者である『鮫島アビ子』が、苺プロの新たなスポンサーに名乗りを上げたのだ。

 

彼女は舞台にて超常の力の存在を知り、本気でそれを学びたいと後日苺プロの門をたたいた。

しかしここは道場ではなく芸能事務所。そして彼女は漫画家である。タレントにはなれない。

アビ子の熱意は本物で、絶対に口外しないという決意も嘘ではなかったが、無関係な者に広めるには危険すぎる技術なのだ。

少なくとも彼女が誰から見ても、苺プロの『身内』と呼べる存在にならなければ。

 

だから今回の苺プロの窮地は、こう言ってはなんだがアビ子にとって渡りに船だった。

5千万部を売りさばいた漫画原作者となれば収入もとんでもない額であり、彼女自身は漫画を描くことに精一杯でお金を使う機会もほとんどない。

彼女はミヤコに手続きを任せ、その財産を一斉に放出してリンネ以上の株を取得し、苺プロの新たな筆頭株主となった。

そして彼女は舞台化でお世話になったこと、もう一度苺プロのタレントたちに舞台化の続編を依頼したいということを行動理由として公言した。

広く民衆から支持を集めるアビ子の熱心な弁護、そして『あの東京ブレイドの舞台の続編を見たい』という層が味方に付いたことが追い風となった。

批判をする者たちも自らの意見が共感を得られぬとわかれば、いつまでも叫び続けるのは無駄な労力と判断した。

時間が経てば芸能界には別のイベントやスキャンダルが現れる。

数か月もすれば星野アイへと苺プロへの批判の声も立ち消え、消極的な形でだが世間に受け入れられた。

最終的に苺プロは賭けに勝利し、家族の平穏と未来を守り切った。

 

 

筆頭株主、しかも全体の3割以上を保有する主要株主とあれば苺プロの身内と言っていいはず。

苺プロの新たな仲間となったアビ子は苺プロのビルに引っ越した。

そして即日リンネに弟子入りした。

今回の彼女の献身に応えるため、そしてやる気のある者はリンネとしても好ましいので、弟子入りを認め容赦なく死を体験させた。

だが彼女は己の死すらも『作品に生かせる貴重な経験』と笑い飛ばすのだから、これには兄弟子姉弟子たちも言葉を失った。

……というか、漫画家としては一流であっても運動神経といった肉体面での才能は壊滅的であり、今までずっと『締め切り』という生き地獄の中で日常的に生死の境を彷徨い続けてきた彼女は、『天神武装』の適性がとんでもなく高かったのだ。

おまけに常日頃から空想の世界を夢想し続けている彼女はイメージ力も図抜けており、なんと兄弟子たちを差し置いて『天神武装』第二段階に移行。

『無限にインクが湧き出て、望むままに自在にペン先の形を変え、イメージ通りの線を描いてくれる』という魔法の羽ペンを発現した。

もちろんただのペンではない。これは武装。

ガチで剣よりも強いペンだ。突き刺せば鋼も貫く。

そして彼女は手に入れた超常の力で、命を削って漫画を描くのだ。

苺プロの面々は以前彼女の師である吉祥寺頼子から聞いた『週刊連載漫画家の狂気』というものを改めて理解した。

 

 

 

(……もう、よいな)

 

星野アイとカミキヒカルに関する真実は、完全に世間に受け入れられた。

 

今回の事態、リンネはほとんどなにもしていない。

この勝利は斎藤社長と、彼を慕う者たちが力を合わせてつかみ取ったものだ。

 

アイとヒカル、アクアとルビーは本当の親子になった。

有馬と黒川はアクアへの思いを言葉にして伝えた。

大輝の真実も公開し、月読も自身の秘密を打ち明けた。それを斎藤夫妻は受け入れた。

この様子ならMEMの想いが通じるのも時間の問題だろう。

苺プロはすでに金銭的に自立しており、もし何かあったとしてもアビ子が支えてくれる。

 

(もうこやつらに、儂は必要ない)

 

だからB小町に『ヒノカミ』が不要になったら、この世界から立ち去ると決めた。

 

(いざ離れるとなると寂しいものじゃが……なにを今更。何度も経験してきたことじゃ)

 

 

そして苺プロ存亡をかけた事件からおよそ1年半。季節は秋。

新生B小町のドームライブが開かれる。




次回、本章の最終話となります。
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