自軍の新型モビルスーツであるストライク、その隣に。
ストライクそのものに匹敵するサイズの巨大なコンテナを抱えて歩いてくるガンダムの姿を見て、アークエンジェルに乗艦していた連合軍兵士たちは目をむき硬直する。
彼らは先ほどまでがれきの下に閉じ込められ、外部の状況を一切把握できていなかったのだ。無理もあるまい。
2機の足元に追従するのは多数の物資を乗せた数台のトラック。
その一つに彼らの上官が乗っていることに気付いて安堵し、その隣にザフトのノーマルスーツを着た兵士を見つけて驚愕。
一斉に銃を向けたところで。
「「「!?」」」
トラックが歪むほどの脚力で数メートルの高さまでジャンプした鬼が、一団の前に着地して威圧する。
恐怖で何名かが独断で発砲してしまったが鬼の鎧には傷一つつかず、そして連合に対して負い目がある鬼は反撃しなかった。
「全員、銃を下ろしなさい!」
そこでトラックから飛び降りたマリューが連合軍兵士たちに命じる。
上官の命令という絶対の指示を受けて兵士たちは攻撃姿勢を止めた。
そしてストライクのコクピットから出てきたのが同僚の連合軍人ではなく一般人にしか見えない少年であったため更に動揺する。
「あらら……こりゃあ驚いた」
そこにパーソナルカラーのパイロットスーツを身に着けた青年が軽薄そうに近寄る。
どうやら先ほどのメビウスゼロのパイロットのようだ。
ヒノカミはカガリと少年少女たち、ミゲルを背にしてマリューたちから距離を取る。
事情の説明はマリューに任せることになっていた。
マリューはここにガンダムとザフト兵がいる理由や、オーブの一般人がいる理由を同僚たちに説明していく。そして彼らにも状況を尋ねる。
どうやらこの船の主だった面々は殉職してしまったらしく、繰り上がりで一番階級が高いマリューが暫定艦長となったようだ。
メビウスゼロのパイロット『ムウ・ラ・フラガ』も大尉だが、彼はパイロットであって艦長職は無理だと固辞した。
ガンダムとヒノカミによりザフトのジンが全滅している今が脱出の好機と彼らも理解したらしく、マリューの命令であわただしく動き始める。
「……はぁー、やっと解放されるよぉ……」
「カレッジの皆は無事かしら……」
「早く会いに行こうぜ」
ようやく連合が立ち去ってくれる、また元の日常が帰ってくると安堵の声を上げる少年たち。
だが彼らの願いは叶わなかった。
「どういうことですか……僕たちを帰すことはできないって……!」
「ごめんなさい。軍事機密を知った一般人をすぐに解放するわけにはいかないの」
「ふざけるな!何の権限があって我が国の民を……!」
「……その辺りも含めて、サハクと契約が結ばれとるんじゃろ?」
「「「!?」」」
「……その通りです。緊急時、民間人には連合の規則を適用すると」
「やっぱりかぁ……」
「知っていたのか!?」
「察していただけじゃ。そうであってくれるなとは願っていた」
正式な調印が行われているとなれば、オーブ国民の義務として従うしかない。
オーブの客人でしかないヒノカミと、未だ大きな権限のないカガリでは決定を覆すこともできない。
そしてここに出向していた上官は全滅しており、大尉のマリューではキラたちの解放を決定する権限を持たない。
彼らの所属は大西洋連邦宇宙軍第8艦隊。
モビルスーツ『GAT-Xシリーズ』開発計画、通称『G計画』の発案者である『ディエイン・ハルバートン』提督がマリューらの上官である。
この艦とモビルスーツを地球軌道上にいる彼に届けるために、アークエンジェルは出航する。そちらに同船し彼から解放の許可をもらうしかない。
ここヘリオポリスから地球まではかなりの距離がある。半月近くは掛かるだろう。
しかもザフトによる追撃も想定される。そんな船に、少年たちは乗り込まねばならない。
「すまんが、儂は同行できぬ」
「何故だ!?彼らを見捨てるというのか!?」
「このコロニーも見捨てられんじゃろ。
急いで応急処置をせねば崩壊するかもしれん。
未だシェルターにとどまっている住人が山ほどおるんじゃぞ?」
彼女の伝手で応援は呼ぶつもりだが、この規模の被害では数日は離れられそうにない。
そしてそれまでアークエンジェルの出航を待ってもらうわけにもいかない。
早く離脱せねばザフトの援軍がこのコロニーを囲むだろうし、連合の援軍に期待できる状況ではない。
「それにガンダムで表立って参戦するわけにもいかん。
オーブの関係者として、これ以上中立の立場を崩すのもな」
「そんな……だが、特にキラは!」
「そこなんじゃよなぁ……」
さらに厄介なのが、先ほどストライクを操縦したキラという少年が『コーディネイター』であること。
オーブは中立国だ。ナチュラルと比較すれば少ないがコーディネイターも普通に暮らしている。
だが連合にとってコーディネイターといえばザフトであり、殺し合う敵だ。
「あのマリューという嬢ちゃんは話が分かるようじゃが、副官の方はガチガチの連合軍人のようじゃな。
他にもキラがコーディネイターと聞いて露骨に反応した輩は多くいた。
彼らに子供たちだけを預けるのは不安じゃが、シェルターから大人を連れてきて巻き込むのも論外……ぬぅ」
「おい、キラっつったか。コーディネイターならプラントで受け入れられるぜ?
さっきの戦闘の件は上には黙っとく。オレと一緒に行かねぇか?」
「……ごめんなさいミゲルさん。友達が連合の船に乗るのに、ザフトには行けません。
それに、理由があったとしてもこのコロニーと皆を攻撃した組織には……」
「……だよなぁ。余計な事言って悪かった」
それぞれが別陣営に身を寄せれば、最悪の場合は友人同士で殺し合いになりかねない。
……すでにその悲劇が起きようとしているが、それを知るのはキラだけだ。
彼の悲壮な覚悟に気付かずヒノカミが悩んでいると、カガリが意を決して叫んだ。
「……私がアークエンジェルに同行する!」
「はぁっ!?」
「私がヘリオポリスに残っても、なんの役にも立たない……。
だから、せめて彼らの後ろ盾になろう!
オーブの獅子の娘の前で、オーブ国民をないがしろになどできないはずだ!」
「そのオーブの獅子の娘がどれだけの政的価値を持つかわからぬわけではあるまい?」
「フン!手を出してきたら全員叩きのめしてやるさ!」
「……それしか、ないか」
オーブの姫君が連合の船に乗っていると知れ渡るのはまずいが、少年たちの命と安全には変えられない。
超人の域に至ったとは言い難いが、自分の弟子であるカガリは並のコーディネイターよりもはるかに強い。
そして連合軍は基本的にナチュラル、少なくともこの船にいるのは全員そうであるようだ。
白兵戦で彼女を倒せる者はいないだろう。下手をすれば一人でこの船を鎮圧しかねない。
「……ヘリオポリスの修理の目途がつき次第、すぐに追いかける。
それまで少年たちを守り抜けよ、馬鹿弟子」
「わかってるさ、師匠!」
ヒノカミは未だ指揮を執るマリューに歩み寄り、キラたちを連れていくことに対しカガリを同船させることが条件だと伝える。
彼女はオーブの姫君だ。何かあれば国際問題。しかも同船していることは公にできないのでザフトは容赦なく攻撃してくるだろう。
「これ、やる」
「……薬?なんの?」
「胃薬」
「…………」
マリューは背を向けて去っていく鬼に恨めしい視線を向け、怒りのままに地面にたたきつけようと小箱を握った腕を振りかざす。
しかし戦時中は薬の類は貴重品だ。鬼が地球で広めている医療技術も本物。
彼女は腕を上げたまま動きを止め、しかめっ面でその手を乱暴にポケットに突っ込んだ。
本作ではコロニーが崩壊しません。
よってアークエンジェルの同乗者はキラとサイたち、そしてカガリのみ。
好きな方には申し訳ありませんが、本作ではフレイの出番はなしとなります。
その方が彼女にとっても幸せだろうと思うので、どうかご容赦を。