ヒノカミはアークエンジェルにあらかじめ連絡を入れていた。
正体を隠すため変装していること。
航行不能になった民間船と遭遇したこと。
その乗員を保護したので彼らを連れて合流するということ。
まともな状況ではないが、アークエンジェルに乗る彼らは軍人だ。
民間人を保護するのは義務であり、了承と返答した。
そして数時間後。
連れてきたのがザフト最高評議会のトップの娘とプラントのコーディネイターたちであり、彼らの船が航行不能になったのは連合が攻撃を仕掛けたからだと知らされた。
「嘘は言っていない!」
「それは詐欺師の手口です……!」
眉間に皺を寄せたマリューが言葉を絞り出す。
ヒノカミ……今は『キャプテン・ブラボー』というふざけた名前を名乗っている目の前の人物にもらった胃薬をまた使用することになりそうだ。
やたらと効くのだアレは。腹立たしいことに。
ブラボーの船はガンダムの操縦によりアークエンジェルの後ろを追走している。
通常の戦艦よりもはるかに小型であり、実際にはハリボテ。
しかもガンダムが隠されているためラクスたちを乗せるわけにはいかない。
よってアークエンジェルにはオーブの姫君に加え、プラントの歌姫まで同船することになった。
地球には中立国やプラント寄りの国家も多くあるのだ。下手な対応を取れば連合は国際社会から突き上げを喰らうことになる。
おまけに『連合の戦艦がザフトの民間船に対し言いがかりをつけて一方的に攻撃をした』という証人と証拠も残っている。
ブラボーが追い払ったそうだが、その友軍たちが心底恨めしい。
「次にザフトが仕掛けてきた時に彼女らの返還を申し出ます。
それまでは丁重に扱うよう、クルー全員に命じます」
「ですが艦長、彼女はシーゲル・クラインの娘です。
ただの民間人とは言えません。
連合軍人として、彼女の価値を最大限利用するべきでは?」
「馬鹿なこと言うなよ!そんであの鬼さんが暴れたら今度こそ俺たちは終わりだぜ!?」
「バジルール少尉……今の私たちは事実上、彼の捕虜なのよ?」
「!?」
「彼女たちを保護したのも彼。私たちに決定権はないわ」
今のアークエンジェルの状況は、ブラボーが連れてきたラクスと同じなのだ。
オーブが連合に与した証拠である本艦と連合軍人たちは、極秘裏に処分するか差し押さえて隠すかした方がオーブにとって遥かに都合がいい。
あの鬼がそれをしなかったのは彼が非道を嫌う性格だったから。それ以上の理由はない。
だというのに恩情を受けた自分たちが非道を行えば確実に逆鱗に触れるだろう。
そして単騎で連合艦隊一つを壊滅させた実績を持つガンダムが敵となれば、最新鋭艦とは言えアークエンジェル1隻とメビウスゼロ1機で対抗できるはずがない。
ストライクは戦力に数えられない。その暫定パイロットであるキラ・ヤマトはオーブの人間なのだから。
「まさか少年がストライクのパイロットを務めていたとは……無理やりに、ではないのだな?」
「はい、ヒノ……ブラボーさん。自分の意志で応じました」
ブラボーはここで初めて知ったが、連合はモビルスーツこそ完成させたものの肝心のOSが未完成で、まともな操縦などできない状態だったらしい。
ヘリオポリスでミゲルの乗るジンと戦っているときにはスムーズに動いていたが、これはキラが即興でOSを作り上げ彼が操縦していたから。
しかしそのOSは彼が自分で操縦するために組んだものであり、他の人間には到底使いこなせない。
連合のエリートパイロットであるムウでもお手上げだったそうだ。
かといって元のOSに戻してもまともに動かせないのは同様。
よってストライクを操縦できるのはキラだけであり、ザフトの追撃が迫る中で貴重な戦力を遊ばせておく余裕などこの船にはない。
マリューからの要請に対しキラは自分たちが乗るこの船と、戦うことになってしまった友人を守るために、ストライクに乗ると決めた。
「友人?」
「イージス……マゼンタ色の可変機に乗っているヤツは、キラの友達らしい」
「アスラン・ザラ……まだ僕が月にいた頃、一緒の学校に通っていたんです」
「それは……」
「大丈夫です。僕は彼を撃たない、そして彼にもこの船を撃たせない。
そのために戦うって決めたんです」
ストライクに乗るにあたり『戦い方は自由にさせてもらう』という条件を出したそうだ。
このキラという少年、コーディネイターの中でも特に優れた能力を持っているらしく、修繕を終えた4機のXナンバーをメビウスゼロと連携してだが見事撃退してみせたという。
コクピットを狙わないというハンデを背負っても尚。
いや、むしろ迷いなく戦える状況の方が全力を出せるタイプなのかもしれない。
「……ブラボーだ!これよりオレも助力するが、彼らを殺すことはしないと誓おう!」
「いいんですか!?」
「なに、オレもできれば死人が出る事態は避けたいと思っていた。
少年たちを守るためにやむなく連合に協力するが、オレ自身は変わらず中立の立場だからな」
「……ありがとうございます!」
「あのー、もし?」
「「「?」」」
ブラボー、キラ、カガリが話をしていたドッグの隅に、一団を離れたラクスが近づいてきた。
「先ほどアスランの名前が聞こえたのですが、皆さんは彼のお知り合いでしょうか?」
「キミは……アスランを知っているの?」
「彼女はシーゲル・クラインの娘だからな。
アスランという少年はパトリック・ザラの息子なのだろう?
親同士がザフトの前身である黄道同盟の頃からの盟友とあらば、面識があってもおかしくない」
「はい。アスランはわたくしの婚約者ですわ」
「「婚約者!?」」
「……いやぁー、若いっていいな!」
「そっか、お姫様なんだから……もしかしてカガリにも婚約者っていたりするの?」
「いるというか、いたというか……」
「甘ったれのボンボンだったからな。
オレが少ししごいてやったらあっさり逃げ出した。
あんな根性無しはカガリに相応しくない」
「アレが少しか……いや、それ以上の仕打ちを受けている私が言うのもなんだが」
「おっと、少女ラクス。
オーブの姫であるカガリがこの船に乗っていることは、他の皆には内緒だぞ?」
「フフフ……はい、ブラボーさん。
わたくしたちだけの秘密ですわね?」
この船にいるコーディネイターはキラ一人だけ。
ヘリオポリスから同船している友人たちもいるしカガリも気を配っていたが、孤独感は感じていただろう。
ラクスも共通の知人を持つキラと話がしたいと願うので、ブラボーが連れてきた者たちへの対応は同じくコーディネイターである彼に一任してしまうことにした。
プラントのコーディネイターたちも、まさか連合の船に同胞の少年が同船していたとは思っていなかったようだ。
彼が連合のモビルスーツに乗って友人と戦うことになった経緯を知って悲しみ、近いうちにナチュラルの友人たちと共に解放される予定であることを喜び、この船の連合軍人たちはコーディネイターである彼を迫害するような真似はしていないと聞いて驚いていた。
実際に彼らもこの船の軍人たちと触れあってみれば、強張りはするものの露骨な視線や態度はなく、敵国と言えるプラントの人間であっても民間人として人道に沿った扱いを心掛けていた。
そして数日後。
執拗にアークエンジェルを追うクルーゼ隊の襲撃が再び始まる前に。
「こちら、地球連合軍第8艦隊所属艦、アークエンジェル。
ザフト軍に告げます。現在本艦では、ラクス・クラインを始めとするコーディネイターの民間人を保護しています。
こちらには彼女らを返還する用意があります。戦闘行為を中止してください」
モニター越しにラクスの姿を見せられて、ザフト軍も思いとどまったようだ。
ヴェサリウスとアークエンジェルは互いの射程圏外で停船した。
ラクスたちは彼女らが乗ってきたポッドにて、ストライクに護衛されてザフト艦へと近づいていく。
別れ際にラクスたちが乗っていた船の艦長であった者がオープンチャンネルを開いてアークエンジェルに対し改めて感謝を告げ、『ナチュラルが皆あなた方のようであれば、我らは共に歩むことができたのかもしれない』と付け加えた。
続けてラクスも感謝を告げ、ポッドは迎えに来たザフトのモビルスーツに引き渡された。
クルーゼはラクスたちのポッドを回収した直後にアークエンジェルに仕掛けるつもりだった。
しかしこの状況と空気でこちらから攻撃するのは部下たちからすら同意を得られないと判断し、舌打ちをして断念した。
ラクスの他にも大勢の民間人を保護したクルーゼ隊はもう一度本国に帰還せざるを得ず、戦闘をせずにそのまま引き返していった。
その隙にアークエンジェルは全速力で地球へと急ぎ、無事第8艦隊と合流した。
現状の原作との差異まとめ
・マリューたちがヒノカミに睨まれていることを自覚している。
カガリの存在もあってキラたちに強く出られない。
・キラが最初から不殺の戦いを決意しているため迷いがない。
カガリや友人の支えもあって精神的に安定している。
・アスランはミゲルを通じて、キラが連合にいる事情を把握している。
自分が巻き込んだと知り、しばらくすれば下船するとも聞いている。
結果アスランには逆に迷いが生じている。
・フレイを筆頭とした避難民がおらず、
出立前に物資を詰め込む時間もあったので、
アークエンジェルに余裕がある。
アルテミスにも立ち寄っていない。
ユニウスセブンも物資補給のためではなくただ近くを通っていただけ。
・第8艦隊先遣隊がクルーゼに襲われない。
・現状で人的被害がほぼないことに加え、
最初からラクスたちの返還を提案するなど、
クルーゼ除くザフトからアークエンジェルへの好感度が高め。