『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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原作ではXナンバーが『ガンダム』であることは偶然ですが、本作はヒノカミが持ち込んだアルティメットガンダムが原因としています。由来以外に一切違いはありませんが。


第9話

 

5機の内4機が奪われたが、残る1機のモビルスーツを守り抜いてアークエンジェルは第8艦隊へと合流した。

これらをハルバートン提督にお渡しすれば、自分たちはお役御免……とマリューは考えていたのだが、ハルバートンはマリューたちにこのままアークエンジェルのクルーとしてストライクを載せて地球へ降り、アラスカに向かうように命じた。

マリューは大尉とはいえ技術士官。そしてクルーたちは正規の者が殉職したためやむなく対応していた有り合わせの数合わせ。

ここまではヘリオポリスの学生たちの手を借りて何とかやってきたが、彼らもまもなく下船するため人手も足りない。

連合の威信をかけたモビルスーツと最新鋭艦を預かるにはあまりに不釣り合いだ。

 

しかし連合も1枚岩ではなく、ハルバートンの下には彼が信頼できる余剰の人員がいなかった。

身も蓋もないが他の勢力の息がかかっている連中よりも、かつての教え子であるマリューと『エンデュミオンの鷹』と呼ばれたムウ、そして少数ながらヘリオポリスからここまでたどり着いた実績を持つ者たちに任せた方が遥かにマシということだ。

同時にここまでの功績とこれからの彼らに箔をつける意味でマリューとムウは少佐に、ナタルは中尉に昇進させられた。

 

ストライクのパイロットを務めていたキラと、クルーブリッジを務めていたキラの友人たちには除隊証明書が渡された。

臨時とはいえ民間人が軍の兵器を動かしていたのは問題であるため、遡って彼らは連合に所属していたことにさせてもらったとのこと。

少年たちにとっては解放されるなら体裁はどうでもいい。

ここからヘリオポリスに引き返すのは大変なので、彼らはアークエンジェルと共に地球に降りて、そこでこの船を離れてカガリやヒノカミと共に祖国であるオーブに向かう予定である。

 

そのカガリの存在を連合に明かすことはできないので、彼女はキラたちと同じくヘリオポリスで保護した民間人ということにしてアークエンジェルの一室に引っ込んでもらっている。

そして傭兵ということになっているブラボーは、アークエンジェルの格納庫にて戦国アストレイの前にいた。

アストレイは連合の技術を盗用して作られた機体であり、連合がそれを主張してこの機体を奪おうとする可能性を危惧してのことだ。

ガンダムと違ってこの機体には自我がない。ロックはかけているが絶対ではない。時間をかければ解除できるだろう。

ナチュラルが操縦できるようなOSではないので連合が戦力にすることはできないだろうが、解析され連合に利用される事態は避けたかった。

 

 

 

「……!」

 

「……なるほど、これが貴公の機体か」

 

そしてアークエンジェルの格納庫に第8艦隊のトップであるハルバートンがやってきた。

護衛の一人も連れず、さらにこの場にいたアークエンジェルのクルーたちにも席を外すよう命じる。

たった二人になったところで、ハルバートンはブラボーに言葉を続ける。

 

「いいモビルスーツだ。

 だが叶うなら、噂のガンダムもこの目で見てみたかったがね」

 

「……」

 

「私とてそこまで愚かではない。

 状況を鑑みれば、君の正体には思い当たる。

 そしてこの場でそれを追及しようとは思っておらん」

 

そしてハルバートンは周囲に人の眼がないことを改めて確認してから、深々と頭を下げた。

 

「すまなかった」

 

「……!」

 

「オーブを巻き込んだこと、そして君のガンダムを模したモビルスーツを作ろうとしたこと、深く謝罪する。

 ……迂遠な真似をしてすまんな。余計な肩書ばかり増えると、頭を下げることすら容易ではないのだ」

 

ハルバートンは連合軍人であるが、個人的にヒノカミという人物を好意的に見ていた。

Nジャマーを打ち込まれエネルギー危機に瀕した地球各国。

彼が中立国にエネルギープラントを設立して回っていなければ、どれほどの死者が出たことか。

ザフトへの恨みから連合に参加する国が増え、戦火は地球中に広がり争いはもっと激化していたはずだ。

そして過去にヒノカミとガンダムに攻撃を仕掛けた連合の艦隊は、彼を強引に従えようと振舞った者たちの暴走。

連合軍人としては異端だと自覚はしているが、敗北も全滅も自業自得だと考えていた。

 

「Xナンバーをガンダムに似せたのは、ガンダムのように『この戦争を止めるための力となってくれれば』と願ってのことだった。

 ……そのモビルスーツのせいでオーブのコロニーが損害を受け、挙句ザフトに奪われたのは、私に罰というものがあたったのかもしれんな」

 

「……一つ訂正しておく」

 

ヘリオポリスでのモビルスーツ製造計画はサハクが積極的に進めていたことだ。

ハルバートンが連合側の主導的立場にいたとしてもこうして密会の場を整え、誠意を示してきたのだ。

だからブラボー、いやヒノカミも己の腹の内を明かすことにした。

 

 

「儂は『この戦争を止めたい』と願っている。

 しかし『この戦争を止めようとはしておらん』」

 

「どういうことかね?」

 

「どうすればこの戦争は止まると思う?

 『敵を全滅させれば』?あるいは『自軍が全滅すれば』?

 ……いや、もっと確実な方法があるじゃろう」

 

「?」

 

 

 

「『戦争を望む者がいなくなれば戦争は止まる』」

 

 

 

「っ!?まさか、貴公は……!」

 

ヒノカミは中立の国や組織にのみ支援している。

『戦争を止めたい』と願っていながら『戦争を止めようとしていない』。

そして彼が提示した確実な方法。

ハルバートンはこのわずかな問答で答えに辿り着いたようだ。

 

 

 

「『連合とザフトの共倒れ』を狙っているのか!?」

 

 

 

ハルバートンはコーディネイターへの憎しみではなく、国や民を守るために戦う真っ当な軍人だ。

だから戦争が激化するこの世界の現状に胸を痛め、これ以上戦火を広げないために戦ってきた。

立場は違えど、ヒノカミという人物もそうだと思っていた。

 

しかしヒノカミは『戦火が広がるのを食い止めよう』としていなかった。

『未だ飛び火していない場所を防火壁で覆い、既に火が回っている場所が燃え尽きるのを待っている』。

それは例えるなら『ノアの箱舟』。

選んだ者だけを救い選ばなかった者を切り捨てる悪魔の……いや、傲慢な神の所業。

 

「『止めようとはしておらん』と言ったじゃろう?

 儂から意図的に働きかけたことはない。

 しかしこのまま進めばそうなる。

 そうなるとわかって、放置すると決めた」

 

「手を出さずとも、連合もザフトも滅びると?」

 

「とっくに損得ではなく感情のぶつかり合いになっとる。

 もはや止めたくとも止まらんよ。

 殺して、殺されて、また殺して殺されて。

 そして双方が戦う力そのものを失ってようやく戦争は止まる。

 数え切れぬほどの死体の山を作り上げて、な」

 

「……何故だ!貴公ほどの技術と力があれば己の意志を通すことができよう!

 すぐにでもこの争いを止め、多くの人民を救うことが……!」

 

 

「どうやって救えと言うんじゃ!?」

 

 

「っ!」

 

声色が変わった。男性の低い声から、甲高い女性の声に。

そして白銀のコートが分解しほどけていく。中から現れたのは。

 

「貴公が、ヒノカミ……!?」

 

(馬鹿な……まだ幼い少女ではないか!!)

 

瞳に怒りを宿した小柄な女が、たじろぐハルバートンを見上げて睨みつける。

 

ヒノカミは必死に呼びかけてきた。争いを止めれば手を差し伸べると。

地球の国々には、エネルギー施設を始めとした技術提供をすると提案した。

プラントには、コーディネイターの出生率低下という問題への技術協力を提示した。

しかし彼らは差し伸べた手ではなく武器を取った。

自分たちが救われることよりも、憎い敵が救われることが許せない。

 

 

「そんな『救いようのない』連中を、どうやって救えと言う!!」

 

 

「……!」

 

「確かに儂ならば今すぐ争いを止められる。

 連合もザフトも、全て破壊し尽くせばいい。

 ……そうでもしなければ止まらんのが貴様らじゃ!

 貴様らが自滅するか、儂が皆殺しにするか、それだけの違いでしかない!」

 

そして訪れる平和も一時的なものだ。

人々の心に火種がくすぶり、ヒノカミがこの世界から立ち去ればまたすぐに争いを始めるだろう。

この世界の『争いを止める』には、この世界の人々が『争いを止めよう』としなければならない。

だからヒノカミは平和を願う人が一人でも多く生き残るように振舞い、そして『争いを広げよう』とする者たちを見限った。

 

「死にたいなら勝手にしろ。そうでない連中まで巻き込むな。

 いたずらに火花をまき散らすというのなら消し炭すら残らぬよう消火してやる。望み通りにな」

 

話は終わりだと言わんばかりに、再び白銀のコートを纏ったヒノカミは言葉を失ったハルバートンに背を向ける。

そこに丁度彼を呼びに来た部下がやってきて、結局ハルバートンは何も言い返すことができず立ち去った。

 

(私は……あの小さな肩に何を押し付けようとした……!)

 

ハルバートンは彼……いや彼女と語り合えば、この混迷した世界に何か光明が見いだせるかもと期待していた。

しかし今の彼の胸中にあるのは罪悪感と無力感。

そしてこのまま進めば連合が迎えるのは勝利でも敗北でもなく、無意味で無価値な滅びという未来への焦燥感だ。

 

(勝つだけでは、駄目なのか。ただ勝つための力を求めるだけでは……!)

 

『争いを止めるために、何をどうしなければならないのか』。

第8艦隊のトップにまで上り詰めた男は、ようやく本当の意味でそれを考え始めたのかもしれない。

 

しかし現実は彼に時間を与えてはくれない。

クルーゼ率いるザフト艦隊による攻撃が始まったのだ。

 




ヒノカミは復讐は否定しません。
しかし種族全体を敵とみなすような行いはただの八つ当たりであり、彼女は八つ当たりは認めません。
互いを滅ぼすために戦っている連合もザフトも彼女からすれば『救いようがない』連中です。
救いようがない人間は、ヒノカミでも救えません。
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